第7話 魔王アマイモンと樹さん

そこからは順調で、僕たちは無事に魔王様の住む旧成田市へ入れた、成田市も僕が住んでいる旧緑区と同じようにゴルフ場や空き地が農地になっていた。

ただ、道路は整備されて荷台の付いた自転車が忙しそうに車道を走っている。

時間的にはまだ昼なので、電気が通っているかは良く判らないけど、ちゃんと電灯が直されているみたいなので、夜になっても明るいんだろうと思った。


「俺はこれからアマイモンに会いに行くけど、一緒に行くか?それともここで別れるか、どうする?」


え?樹さんは魔王様に会いに行くつもりなの?樹さんは教えてくれなかったけど、なんで世界がこうなったのか教えてくれるかもしれない。

でも、僕が一緒に行っても魔王様と話なんかできるんだろうか?


「そんな事より昼ごはんはどうするのにゃ?」


「そうだな、この辺りは電気、ガス、水道が使えるようだから、どこかで台所を借りて使わせてもらうか、いっそアマイモンのところで借りようかと思ってるんだけどな、比呂君がアマイモンに会いたくないのであれば、この辺りで借りるか・・・」


えっ?それって僕次第って事?僕としては魔王様に会って話を聞いて見たい、答えが出るかは判らないけれど、それでも聞けば僕の中で何かに納得できるかもしれない。


「判りました、僕も魔王様に会わせてください、答えてくれるかも判らないけど、聞いてみたいことがあるんです」


「そうか、自分で考えて、答えを探すのは良いことだよ、流されて生きることが悪いとは言わないけど、やっぱり若いうちはそうでなくちゃな」


「イツキは年寄り臭いのにゃ、じゃあ魔王様の台所を借りてごはんなのにゃ、お昼は魚が食べたいのにゃ」


「この世界の魚じゃないけど、美味しいのがいくつかあるぞ、焼き魚に刺身にあら汁といこうか」


「そうと決まれば早くいくのにゃ、あんこのお腹がもう大変なのにゃ!」


樹さんを先頭に人に聞きながら15分ほど歩くと、塀で囲まれた大きな屋敷の前に着いた、ここが魔王様の住んでいるところなの?もっとお城みたいなのを想像していたんだけどな、確かに広いけど・・・


敷地の入り口に門があり、そこには2名の門番が居た、牛の頭と馬の頭をしている、ミノタウロスとホースマン?みたいな?

鎧姿に柄の長い斧を持ってる、あれだ、ゲームとかで出てきたポールアックスとかハルバードとかいうやつだ、僕じゃ持つのも難しいくらいに大きい・・・


「おう、ご苦労さん、アマイモンに魔神ジルが約束通りに来たと伝えてくれ」


樹さんがまるで普段通りの挨拶のように声を掛ける、え?魔神ジル?樹さんじゃないの?


「しょ、少々お待ちください、すぐに確認してまいります!」


馬の頭をした人が大慌てで屋敷の中に入っていった、あんこは樹さんに向かい警戒心を露わにする。


「イツキ!お前は魔神なのにゃ?嘘をついたのにゃ?」


「嘘はついてないぞ、魔神ジルは名前の一つだよ、俺は樹 旬という名前であることも本当だ、お前たちに危害を加えるつもりならとっくにやってるだろ?」


「そうだよあんこ、判らない事ばかりだけど樹さんはここまで連れてきてくれたじゃないか、大丈夫だよ」


「はは、比呂君は本当に純真だな、俺と一緒の間は安全だから安心していいよ」


そこに、さっきの馬の人が走って戻ってきた、鎧を着こんでるのに早い、どんな体力をしてるんだろ。


「魔王アマイモン様が屋敷の広間でお会いするそうです、ご案内いたします!」


「いんや、悪いけど先に台所を貸してくれ、俺達は腹が減っててな」


「ではお食事も用意させますが・・・」


「すまんな、そこの子らに俺が飯を振舞うと約束してるんだ、台所に先に案内してくれないか、良ければアマイモンの分も用意するが?」


「はっ!それでは私が台所がある食堂までご案内いたします、牛頭ごず、アマイモン様に食事の件を確認に行ってくれ!」


「んお?俺?判った・・・」


こうして僕たちは屋敷の食堂に案内され、樹さんに席について待つように言われた、樹さんはそのまま奥の台所に向かい、僕とあんこは大きな食堂の席に二人で座りながら待つ。


「あんこ、樹さんが優しいからって呼び捨てとかワガママはダメだよ」


「イツキは猫好きにゃ、あんこには判るにゃ、アレで喜んでるから丁度いいのにゃ!」


そんなとりとめもない会話をしていると、銀髪の10歳くらいに見える少女が食堂に入ってきた、頭には大きな角が2本生えており、髪はパーマが掛かってるみたいにクリクリしてて、瞳は赤い、まん丸い瞳で僕たちの方をじっとみている。

服装はゴシックロリータというか、やたら豪華なメイド服みたいな恰好で、フランス人形が少女になったような感じで可愛らしい。


「貴方達は魔神ジルの付き人か何かですの?」


少女はか細い声で僕たちに問いかける、この子は魔王様のところで働いている子なのかな?


「僕たちは偶然樹さんに助けてもらって、この町まで連れてきてもらったんです」


「ふぅん、そうなのね、いまは台所でご飯を作ってるんですって?変わった人みたいだけど、どんな人ですの?」


少女が僕に近づきながら尋ねてくる、本当に世界が変わる前なら芸能事務所にスカウトされてたんだろうと思えるほどに可愛い。


「おう、待たせたな!あんこが食べたがってた魚料理沢山作ったぞ~、あれ?アマイモン、お前も食うのか?まあ沢山あるから全然大丈夫だけどな!」


トレーに大皿をいくつも載せた樹さんがちょっと驚いた表情で入ってきた、え?アマイモン?この子が魔王様なの???



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