第6話 オジサンと歩く旅
僕が目を覚ますと、僕とあんこに毛布が掛けられていた、あんこはまだ眠っているようだ。
「よう、起きたか?体調はどうだ?」
声の方に振り向くと、黒いスーツを着た、灰色の髪のオジサンが本殿の中、僕たちのすぐ近くに座っていた、そうだ、僕たちはこの人に先生から助けてもらったんだ。
「あ、あの、ありがとうございます、身体はもう何ともないみたいです、先生は?どう、なりました?」
「ああ、ご退場願ったよ、もうここには来ないだろうから安心していいよ」
オジサンのメガネの奥の目つきが鋭く、最初見たときは怖い印象を受けたけど、いまはそんな感じは受けない、目つきがキツイのはそのまんまなんだけど、雰囲気が凄く優しい感じがする。
僕が黙ってるとオジサンが話し掛けてくれた。
「俺は
そういうとオジサン、樹さんは本殿の扉を開けて出て行った、外は既に朝になってて、草木のいい匂いが少し寒い風と一緒に入り込んできた。
「ふにゃあぁぁぁ・・・」
良かった、あんこも無事みたいだ、僕は掛けられていた毛布をたたむと、樹さんを追いかけて本殿の外に出る。
本殿のすぐ横で樹さんはいつの間にか焚火を焚いており、その上には鍋が一つ乗っていた。
「ん?まだ寝てていいんだぞ?飯ができるまであと20分くらいはかかるだろうし」
「いえ、あの、樹さん、本当にありがとうございました、僕は佐伯、佐伯 比呂です、まだ寝てるネコマタはあんこって言いまして、元は家で飼ってた子猫なんです」
樹さんはさっきまでのキツイ目つきと違い、とても人懐っこい、いい笑顔で笑いかけてくれた。
「おお、そうか、あの猫娘は元子猫なのか、凄いな、佐伯君は親御さんはいないのか?なんで神社なんかで寝泊まりしていたんだ?」
「両親はあの日、2人とも出張で遠くに行ってて、1年半待ったんですがまだ帰ってきません、僕たちは魔王様のおかげで農業を手伝いながら暮らしていたんですが、魔王様の住む町は電気も通ってると聞いて見てみたくなりまして・・・」
「そうか、この辺りは魔王アマイモンが支配してるんだったか、他の地域も魔王やら神様やら勇者やらがそれぞれ復興を頑張ってるらしいけど、おかしくなった元人間やモンスターもまだまだ徘徊しているんだ、下手すると昨日みたいになって危ないから俺が一緒について行ってやろう、丁度アマイモンの統治もどんなものか気になってたしな」
樹さんはそう言いながらオタマで鍋の中を混ぜる、鍋からは美味しそうな味噌の香りがしていた、味噌なんて1年くらい食べない気がする。
グゥゥゥ・・・
昨日は晩ご飯を少なめにしていたのもあり、お腹が鳴った、それを見てまた樹さんがいい笑顔になる、僕としては超恥ずかしい。
「ふにゃあ、いい匂いがするにゃ!ヒロ様ゴハンかにゃ!?」
丁度、匂いにつられたあんこも本殿から出てきたので、僕は樹さんの用意した朝ごはんを頂いた、鍋の中身は肉や野菜とご飯が雑炊みたいに煮込まれていた、味噌の味に豚肉、ネギ、ニンジン、こんな贅沢は本当に久しぶりだ、配給は雑穀米と少しの野菜や干し肉が殆どで、それを自分で工夫して料理してたけど、樹さんの料理はとても美味しい。
「凄い、美味しいにゃ!」
「ハハハ、嬉しいな、しっかり食べろよ、魔王アマイモンの町にはこのまま歩いて昼過ぎには着くだろうから、昼飯は町で食べるとしよう」
「にゃ?オッサンも一緒に行くのかにゃ?」
「俺の名前は樹だ、まあ確かにオッサンだけどさ」
「あんこ、樹さんって呼ばなきゃダメだよ、僕達と一緒に街まで行ってくれるんだ、昨日の先生も樹さんが追い出してくれたんだよ?」
「イツキか、判ったにゃ、町に着くまで私たちのお世話をするのにゃ!」
「ハハハ、判りました、お世話させていただきます」
あんこの意味不明な上から目線な態度に焦ったけど、樹さんは気を悪くしていないみたいで良かった。
ご飯を頂きながら僕は気になったことを聞いてみた。
「あの、樹さんが鏡から出てきたのは、何かそういう異能を持ってるんですか?」
「ん?ああ、もっと砕けた感じで話してくれて構わないぞ?そうだな、気になるよな、俺は違う世界の住民でな、この世界の事情とやらをひょんな事から聞いてしまったんで、様子を見に来たんだ、異能というか、俺のいる世界ではスキルと呼ばれてる能力の一つでたまたま来た場所がこの神社だったという事だよ、この世界は俺が産まれた世界と酷似、というか
砕けた感じって、助けてもらって、しかもしっかりした年上の人にそれは難しいよ、この世界の事情?平行世界?もうすでに情報過多になっちゃったよ・・・
「違う世界、、、い、樹さんの目的って何なんですか?」
「言ったろ?様子見だよ、取り敢えずは日本もそうだけど海外もどうなっているのか、この先どうなるのか、数年は色々と行ってみようかな・・・」
魔王様の町に行くだけで命懸けになってしまった僕には想像もできない、スケールの大きな話に早くもついていけない。
その後も色々と樹さんに聞かれたけど、あんこが鍋の中身を全部食べた後、僕たちは3人で歩き始めた。
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