第5話 再会と新たな出会い
扉がガタガタと音を立てる、掃除されてるとはいえ引き戸の調子が悪く、僕達も入る時にかなり苦労した。
しかし、扉を破らずに入ろうとしているという事はモンスターじゃないのかな?
「ヒロ様は下がっているにゃ!」
あんこが手足の爪を伸ばして構える、僕も役には立たないだろうけどありったけの勇気を絞り出して槍を構える。
ガタガタと少しずつ扉が開き、白い手と鳥の羽のようなものが隙間から延びる、次に見えた顔は見覚えのある顔だった。
「先生・・・ッ!」
背中に大きな翼を持ち、全身が羽毛に包まれてはいるけど、顔の一部が人間の面影を残している、間違いない、担任の先生、羽島 美里先生だ。
「あらら、佐伯君、生きていたのね?貴方みたいに何のとりえもない子はすぐに死んじゃうかと思ったのに」
先生の酷い言葉に愕然とする、その言葉に反応したあんこがフシャーーーッ!と威嚇をした。
「ヒロ様はあんこが守るにゃ、お前、息が臭いにゃ、死肉を食べてるにゃ」
「ふん、私は世界が変わったあの瞬間の快感が忘れられないのよ、あの日、中島さんと黒木君を殺して食べた、その後もモンスターや獣、人間を食べて気ままに暮らしていたのに、あの魔王のせいで住処を追われたのよ、貴方達、可哀そうな先生のご飯になって頂戴!」
「シャーーーーーッ!お前のような鳥女には負けないにゃ!」
あんこが爪を伸ばして襲い掛かるが、それよりも早く先生が後ろに跳び、本殿から飛び出す、それをあんこが追いかけようとした時、先生の背中の羽がバサバサと音を立てて羽ばたき、それと共に20近い羽根が猛スピードで僕とあんこに飛んできた。
「ニャッ!?」
「うわっ!?」
羽根の芯の部分が何本か僕とあんこに刺さる、正直かなり痛いけど、我慢できないほどじゃない。
「あんこ!大丈夫?」
「ちょっと刺さったけど全然痛くないにゃ、こんな鳥女すぐに追い払ってやるにゃ!」
先生の手は人間と同じ手だ、羽根が武器なら何とかなると考えていると、先生はニヤニヤ嗤いながら、酷く歪んだ笑顔でこちらに笑いかけてきた。
「キャハハハハ、この神社のご神体は鏡なのね、私の羽で覆ってた布が取れちゃったわ、ホント、私ってば天使みたいに綺麗なのにツイてないのよね、もういいから少し話をしない?」
「何を言ってるのにゃ?鳥女はさっさと出ていくにゃ、お前の羽なんかあんこには効かないのにゃ」
「・・・先生、人を殺して食べたんですか?前よりも暮らしにくいのは確かだけど、魔王様のおかげで皆頑張って生きてるじゃないですか」
「馬鹿ね、ほんっとうに馬鹿な子ね、私たちは生き抜くチカラを与えられたのよ?それを使わないでどうするの?私は今までのくだらない束縛から抜け出して、好き勝手に生きていくのよ、あの日から、そしてこれからもずぅっとね?さてさて、貴方達にもそろそろ効いてくるハズなんだけどね?」
先生が意味不明な言葉を紡いでいる、そして僕の身体が痺れてきていることに気付いた。
「これって、毒?羽根に毒が?」
「にゃっ?身体が動かないにゃ!」
僕とあんこがほぼ同時に倒れ込む、僕は踏ん張ろうとした拍子にくるりと回り込んでしまい、ご神体の鏡の方に倒れ込んでしまった、確かに大きな鏡だ、誰かがちゃんと手入れしているんだろう、かなり綺麗に磨かれている。
そんな事を考えている余裕はないはずなんだけど、思考が緩慢になっていく、これも毒のせいなんだろうか?僕は先生に食べられちゃうんだろうか?
あんこも?
嫌だ、何とかしないと!
誰か!
助けて!
「だ、れか、、、たす、、、」
声も出しにくい状態になってきた。
「大丈夫よ、私の毒のおかげで痛くないからぁ、ゆっくりと内臓から食べてあげるわぁ」
先生の声が聞こえる、いやだ・・・
その時、鏡が揺らめいたように見えた、とうとう毒が目にも回ってきたのかと思いながら鏡をそのまま見つめていると、ゆらりと鏡の中から人影が現れた。
「いかんなこりゃ、余所の世界に来たのについつい悪人の気配があると出張ってしまうわ、状況から見るに少年とネコ娘のピンチか?
おい、そこの鳥女、抵抗せずに去るんなら見逃してやるけど、どうする?」
ご神体の鏡の前に現れたのは、30歳過ぎくらいに見える灰色の髪のスーツを着たサラリーマンのオジサンだった、髪はオールバックにメガネを掛けていて目つきが悪い。
「おじ、、、にげ、、、」
僕はオジサン逃げて、と言いたかったんだけど、声が出せない、後ろではあんこが唸ってる声が聞こえる。
「な、なんなのよ?リーマンの格好して鏡から出てきて、神のハズはないわね?ただの異能者かなんか?私に指図なんかしないでよッ!」
バサバサと羽根の音がした、恐らく先生がオジサンに羽根を飛ばしたんだろう、僕がオジサンの方を見るとそこにオジサンの姿はなかった。
ドンッ!
という凄い力で何かがぶつかったような音と「グギャッ!?」という先生らしい声が聞こえて静かになる、どうなってるの?
「さてさて、少年たちよ、少し待っててくれよ?外の片付けをしたらその麻痺も治してやるからな」
オジサンの優し気な声は僕にはとても暖かいように感じ、僕はそのまま意識を失った・・・
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