第3話 文明復旧の足音

世界が変わった異変から約1半年、季節は秋を迎えている。

変異した人や知性を持った動物、異世界から来た異形ではあるが人(?)達と一緒に世界中で復興が行われたらしい、らしいというのは僕とあんこは特にできることもないので近所の人達と共同農場で働いているので、あまり情報が入ってこないからだ。


僕の住んでいる場所を含め、広大な地域を魔王アマイモンという悪魔(?)の王様が治めているそうで、時々その配下という人(?)達がやってきて、前の世界での職業とか、得意な知識とか何か能力がないかなどといった事を皆を集めて聞き取りしている、さっきの情報はその時や配給の時に教えて貰ったもので、未だにテレビや新聞がないからだ。


何かしら役に立つ知識や職業についていた人達は、そこで色々と交渉してここを離れていった、この前も元水道局で働いていたというおじいさんがかなりの好待遇で家族ごと引っ越していった。


「ヒロ様は何かできないのかにゃ?」


「うーん、僕はまだ高校生だったからね、魔王様の役に立つようなことは出来ないよ」


「この前、元高校生のも連れていかれたにゃ?」


「あの子は有名な女子高生だったんだ、確か中学の頃から刀鍛冶の弟子になってたとか、ちょっと、いやかなり変わった子でさ、テレビとかにも出てたんじゃないかな?

僕にはそういうのはないからね、でも楽しいよ?農業、最近身体つきも良くなってきたし、休みの日は川で魚釣り出来るしね!」


「それよりもパパさん達は帰ってこないにゃ・・・」


あんこはネコマタだからか、話題がころころ変わる、まあ嫌じゃないんだけどね。

あんことのこの他愛のない会話には随分と助けられている、配給の半分以上あんこが食べちゃってる事実を除いても、1人ぼっちよりも全然良い。


「うん、父さんも母さんもあの異変の日さえ乗り切っていれば生きてる可能性は高いんだけどな」


「そんな事より今日のご飯は何かにゃ?」


毎日がこんな感じで、僕とあんこは日が昇ると朝ごはんとお弁当を持って共同農場で野菜のお世話をして、夕方になると配給を貰って家に帰る、という事を繰り返してる。ガソリンとかもないので耕運機などは使えず、鍬の扱いも慣れてきた。


街並みもだいぶ復興してきており、瓦礫などは撤去されたけど、アスファルトはガタガタだし、自転車も危なくて乗れない、オフロード用とかがあれば遠出も出来るんだろうけど、あんこは自転車こげないし、家にあるのはママチャリだしね。


こんな状況で日々を過ごしていると配給を担当しているリザードマンのカイルさんという異世界から来た人がいいことを教えてくれたんだ。


そろそろ水道が復旧するらしい、ガスについては外国から原料を輸入していた(と学校で習ってた)こともあり、異能が使える人たちが日夜色々研究していて、実用化できればプロパンみたいにボンベで支給されるとか、助かるね。


肝心の電気についてはこれも燃料問題とか発電所の運用とかいろいろな問題で魔王様の住んでいるところやその周りには通電が始まってるらしい、色々と利用制限はあるそうだけど、僕らの住む町にまで電気が来るのはまだ先だろうね。


魔王様は旧成田市に住んでいるという事なので、恐らく発電所とかをこの1年で作ったのかな?凄いね、ちなみに僕とあんこが住んでいるのは旧緑区です、魔王様は元々のこの世界の話を聞いて是非便利な世界にしたいと考えているとカイルさんは言ってたけど、僕はいまのお金がなくて贅沢は出来ないけど、のんびり農業をするのが気に入っている、まあ、毎日の野菜のお世話は大変だけど、サラリーマンよりは向いてると思うんだよね。


働いたことないから、判らないんだけどね。


しかし、電気が戻った町か、どんな感じなんだろう?


「魔王様の住んでることろ、行ってみたいな」


レタス畑の作業をしながら呟くと、一緒に作業をしていたあんこが僕の独り言に乗ってきた。


「じゃあ、行くにゃ、魔王様の住む町にゃらもっと美味しいゴハンがあるにゃ」


「そうだねぇ、でも1日で行って帰れる距離じゃないから、共同農園の仕事をどうするかだね、今日の配給係が話しやすい人なら相談してみようか?」


仕事はほぼ毎日あるし、仕事をしないと配給が貰えないからね、病気とか働けないお年寄りは配給してもらえるけど、完全に自分の好奇心だし、それに配給係の人もカイルさんみたいに話しやすい人もいれば、不愛想な人もいる。


残念な事にその日の配給係はカイルさんではなく、犬頭のコボルトのジャムさんだった、ジャムさんはあんこを毛嫌いしているので、僕ともあまり話をしてくれないので、魔王様の住む旧成田市へ行く話は出来なかった。


そこからも普通に共同農園の仕事をして3日後、カイルさんが配給係で来てくれたので、思い切って聞いてみた。


「カイルさん、あの、僕達、魔王様の住む旧成田市へ行ってみたいんですけど、大丈夫なもんでしょうか?」


「おやおや、ヒロ君は魔王様に会ってみたいのかな、流石に会うのは難しいと思うよ?」


「いえ、魔王様に会いたいんじゃなくて、魔王様の住む町が見てみたいというか、でも共同農園の仕事もあるし・・・」


「うーんそうかぁ~、じゃあ日々の配給から貯めて行くしかないんじゃないかな?歩いて行けば1日で着くだろうし、向こうにも農園はあるだろうからそっちで働いてみてもいいかもなぁ」


「そうですか、そうしてみます!何日か向こうで働いてみて、帰りの分の食料貯めたらまた戻ってきますね!」


「戻ってくるのかい?私は嬉しいけど、向こうは電気もあるから、帰ってきたくなるんじゃないの?」


「いえ、ここには僕の家がありますから、そうだ、向こうで住むのはどうしよう・・・」


「誰かの家に泊めてもらうか、野宿するしかないかなぁ、でも夜はモンスターや危険なヤツラも出るし危険だよ?」


「そうですよね、誰かにお願いして泊めてもらうようにしてみます」


こうして、僕とあんこの短いながらも魔王様の住む町を目指す旅が始まろうとしていた。




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