第2話 変わり果てた世界

朝になり、廊下の水道で顔を洗ってまた水を飲む、鞄の中にあった水筒にも水を入れると、僕はゆっくりと学校を出ることにした。


学校を出ると、まず気付いたのが町のあちこちに大木が生えている、それも高さが50メートル近い大木だ、たった一日でこんなものが生えたのか?

だけど、先生や皆が一瞬で化け物になったんだから、そういうこともありえるんだろうと自分を納得させる、いや、納得できなくても受け入れるしかない。


学校を出る前に目的地はもう決めていた、僕の家だ。

僕の家はもともと出張が多い共働きの両親と僕だけの3人で住んでいた、昨日も両親ともに出張に出ていたので、当然家に誰かいるとは思えないけど、取り敢えずは帰って安心がしたかった。

あと、飼っているペットの猫の様子も気になっていた、まだ子猫で母が『あんこ』と名付けた黒猫が家にいる。


家に向かうには駅を2駅ほど進まなきゃダメだけど、町の様子から電車が走っているとは思えないし、不思議なことに人の気配が殆どない、所々で獣の唸り声とかが聞こえてくるので、その都度回り道をしながら家の方向に向かっているけど、道路はアスファルトがめくれてデコボコになっており、車も当然走っていない。


途中でコンビニを見つけて入ったら、店員もいないし、電気もついていないみたいだった。

僕はそこで2リットルの水のペットボトルとおにぎりをいくつか拝借した、荒らされている様子もないことから、ちょっと気が引けたけど空腹には勝てなかった。


そこから獣の気配を避けて周り道をしつつ3時間ほどで家に辿り着いた、途中で人の気配があったけど、皆家の中に引き篭もっている様子だった・・・


千葉の、少しはずれにある小さな一軒家、それが僕の家で元々祖父が住んでいたのを父が受け継いだらしい、玄関のカギを開けて家に入ると、気が抜けたのか、僕は玄関で座り込んでしまった、電気、ガス、水道、今の状態がどうなのか確かめなきゃと思い、立ち上がったところで不意に大きな黒い獣に押し倒された!


ドンッ!

ドシンッ!


「うあわわわっ!?」


僕は情けない悲鳴を上げて逃れようとするが、僕の身長以上に大きな獣がガッシリとのしかかっており逃げられない、生臭い息がフゥフゥと吹きかけられる、まさか家に化け物がいるなんて思ってもみなかった!


力で押し返そうにも敵わず、不思議と抵抗する気も失せてただ単純にもう終わりだな、と思った。


「ご主人様かにゃ?あんこだにょ?」


不意に黒い獣から声を掛けられ、僕はさらに混乱する。


「あんこ?どうして?化け物になっちゃったの?僕を食べるの?」


「食べにゃい、食べにゃい、それよりもご主人様は髪が白くなっているけどご主人様かにゃ?」


「ああ、僕は比呂だよ、あんこはどうして、そんな姿に?」


「ご主人様は、ヒロ様は『あの声』は聞いてないのかにゃ?今この世界は2つの世界が混ざって、色々と大変なことになってしまったにゃ」


「ぼ、僕は教室のみんなが化け物になって、そこで気を失ったんだ、気が付いたら誰もいなくて、血が辺りに・・・

ところでそろそろどいてくれないかな?子猫の時と違って重いんだけど・・・」


「レディーに重いとか失礼だにゃ、パパさんとママさんはまだ帰ってないにゃよ?」


「そうだよね、まあ、帰ってこれるか判らないけどさ、道路もデコボコだし、電車とかも動いてないみたいだしね、あ、テレビ付くかな?」


僕はあんこがどいてくれたので起き上がると、靴を脱いで家に入り、テレビの電源を入れるがやはり付かない、念のためブレーカーをみたけどちゃんとONになってた。


その後、ガスと水道を調べたところ、ガスはプロパンなので使えたのと、水道は出たけど勢いがなく、すぐになくなりそうだった。

再度念のためスマホを見るがやはり圏外になってる、僕が自室に戻るとあんこがそのままついてきた。


あんこは僕より背が高く、女の子とネコが合わさったような、獣人のような見た目になっていた、顔には猫耳とヒゲ、鼻と口は猫っぽい、身体中毛におおわれているけど当然服を着てないので、胸とか下半身とか思春期の僕には刺激的すぎる、気になったのは尻尾が2本生えていたこと、これって猫又とかいう妖怪じゃなかったっけ?


「あんこ、とりあえず母さんの服を貸すから着てくれないかな?」


「面倒くさいけど、しょうがないにゃ」


僕が母さんの部屋から下着とワンピースを持ってきて着せると、まんざらでもなさそうな顔をしていた。


落ち着いたところであんこが僕に状況を教えてくれた、昨日、紫の雷が色々なところに落ちて、そこから世界中の神話に語られているような化け物や神が出てきたらしい、またその影響で人間や動物も姿を変え、あんこが大いなる声という声が頭の中に響いたらしい。


「大いなる声は言ったのにゃ、『この世界は別の世界と融合し、新たな秩序を生み出すことになる、そのための生き抜く力を与えよう』この声を聴いてアタシはいまの姿に変わったのにゃ?本当にヒロ様は聞いていないのかにゃ?」


「僕は聞いてないね、その声が聞こえた人とか動物が姿を変えたのかな?新たな秩序って何なんだろうね?」


「そんなことは知らないにゃ、とにかくお腹が空いたけどヒロ様と同じものを食べてみたいにゃ」


あんこに急かされて台所に行くと冷蔵庫を開ける、電気が止まっているのですでに冷凍のものが溶け出していて、かなりマズイ、取り敢えず肉類と野菜、あと冷凍のうどんを取り出して家で一番大きな鍋に入れて煮込むことにした、プロパンのボンベがなくなるまではガスも使えるけど、取り敢えず食材が傷んでしまう前に鍋にして食べてしまうしかない、かな。


料理をしながらも今後の事を考える、缶詰系はなるべく残しておくとしても、電気やお店が機能してないのは困る、食料とか水もそのうち出なくなるだろうし、どうしたらいいんだろう?


そんなことを考えて不安になりながらも、鍋が出来たのであんこの分をよそい、フォークを渡してやる、手の形はほぼ人間だから箸も使えるかもしれないけど、いきなりは無理だろうしね。


「熱いから、冷まして食べるんだよ?」


僕がそういうと、あんこは冷ましながらも「うみゃい、うみゃい!」と喜んで食べてくれた、一応気を付けてネギ類はいれなかったけど、もうただの猫じゃないから大丈夫かもしれない、なんてお気楽なことを考えながら、僕も鍋の煮込みうどんを食べることにした。


そこから数日が経ち、また世界は劇的に変わっていった、あちこちで大木が生え、草木が茂り、そして化け物なったと思っていた人々に理性が戻り始めた、川は綺麗になり魚が泳ぎ、木々の近くにはシカや野鳥のような獣が数多くみられるようになっていき、人が住んでいない家は理性が戻った、姿は化け物のままの人々によって壊され、畑になっていった。


僕とあんこもそこに加わり、畑の手伝いなどをして、コンビニから集めた缶詰を皆で分け合いながら食べていた、レトルトのご飯はレンジがなくても鍋に入れて水を少し足して食べれば結構おいしいことを知った。


そこから1年が経ったけど、父と母は帰ってこなかった。

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