第11話 登場!卓球部部長!
「ナイスボール!」
私の言葉を遮ったのびやかな声。その主は
「いやー、いい球打つじゃん!」
そう言って賞賛する彼女……はパッと見、中学生かそれこそ小学生のようだった。制服を着ているからかろうじて高校生だと判断できるが、街中で会ったら間違いなくその結論には行きつかない。
しかも……えっ、先輩!?
制服に結ばれた赤のリボンを見て、私は目を瞬いた。その色が示す学年は、なんと2年生を通り越して3年生。つまりはこの学校の最上級生。
よかった、この高校が胸のリボンで学年を判別できる制服で。間違って先輩を同級生扱いなんかしてしまった日には、日なたを歩いて学校に通える気がしない。
「それにしても、先に来て練習しているなんて感心、感心」
この人も……卓球部、なのかな。
口ぶりを聞いてなんとなく予想をしていると、同じように彼女の方を向いていた青原さんが、
「おつかれさまです、部長」
「ぶ、部長!?」
発せされた言葉とペコリと頭を下げる動作に、思わず声を上げてしまう。
驚く私を意に介さず、部長さんはひらひらと左手を振る。
「そういえば、赤城ちゃんははじめましてだね。その通り、ボクが部長だよー」
この部はどうして初対面の人にこうもフレンドリーに接することができる人ばっかりなのか。そういう練習もしているのか?
なんて考えながら改めて部長の姿を見る。制服と同じ赤いリボンでゆったりとまとめられたセミロングの黒髪。髪型のせいもあってか、やはり子どもっぽ――実年齢より若く見える。
「いやーしかし今年は豊作じゃない? こんな実力者がふたりも。なあ、めぐ?」
「んー、まあ
遅れて入ってきためぐ先輩が苦笑しながら返す。
「ええー、やっぱりそうなのー?」
ぶう、とあからさまに頬を膨らませて不満を露わにする部長さん。そう言われてしまうと私としても肩身が狭くなる。だからといって入部はしないけど。これ以上押しに屈するわけにはいかないのだ。
「もう、優月ちゃんは
「はいはーい、わかってますよー」
めぐ先輩たちの会話に、私は引っかかりを覚えて、
「え? 代わりってもしかして……」
「そのとーり! キミが出てもらうのは、負傷しちゃったボクこと部長の
言って、部長――仲谷瑠々香先輩は右手をひらひらと振る。その小指には、白い包帯がぐるぐるに巻かれていた。他の4本はほっそりとしているので、包帯で太くなった小指がより際立っている。
「指……本当に大丈夫なんですか?」
青原さんが訊ねる。
「まーねー。ただの突き指で2週間もあれば治るんだけど、念のため運動はやめとけってドクターストップがかかっちゃってさー」
「当たり前でしょ。インハイ予選だってあるんだし、今は安静にしとかなきゃ」
たしなめるめぐ先輩。
そっか。3年生ってことはこの人にとって次の夏の大会が最後になるんだ。去年の私がそうだったみたいに。
「優月ちゃんごめんね? 瑠々香、いつもこんな調子だから」
「は、はい……」
「こんな調子とは失礼だなー」
「本当は初めてここに来てくれた日に紹介できればよかったんだけど、丁度その日に指をケガして病院に行ってたから」
めぐ先輩は申し訳なさそうに話す。入部するつもりはないので正直そこまで知り合いにならなくてもよかったです、とはさすがに言えまい。
「さーて! それじゃあボクも練習しよっかなー」
「もう、瑠々香!」
「冗談だよ冗談。でも見るくらいならいいじゃん? 代役とはいえ、せっかく赤城ちゃんも練習に来てくれてるわけだし。青原ちゃんもやる気満々だし」
「はい。練習しましょう」
まるで打ち合わせでもしていたのか、返す刀で返事をする青原さん。性格は正反対っぽいけどこのふたりは気が合いそうに思えた。
「ほら~めぐ~。やる気に満ち溢れた新入生の子たちを、先輩としては放っておけないでしょ~?」
「……はあ。じゃあ見てるだけだからね? 瑠々香はラケット握っちゃダメだから」
「わかってるわかってる~」
諦めに満ちた息がめぐ先輩から吐かれる。というか今、「子
「……」
ふと隣を見れば、青原さんがじっと、私の方を見ていた。
「えっ……と、どうかした?」
「……別に」
言って、彼女は瑠々香部長の方へと歩いていった。
なんだろう。あんまりやる気の感じられない、私みたいなのが部にいるのが嫌なんだろうか。
「どもっす! 日直で遅れました」
「どうも……」
「遅れてすみませんー!」
と、そこへ
「おっ! これで全員集合か! よしよし……それじゃあ今日も張り切っていこー!」
瑠々香部長の声のあとに、いくつかの「おー!」という声が続く。
「お、おー……」
流されるように私の口からも出てしまう。それがため息なのか嘆きなのか。決して気合いを入れるためではないことは言うまでもない。
こうして、私の期間限定の卓球部生活は、幕を開けた。
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