第33話 罰ゲームは

 2階に上がって一番奥の部屋が、青原さんの部屋だった。


「どうぞ」

「う、うん……」


 促され、遠慮がちに入る。同級生の人の部屋に入るなんて、かなり久しぶりなわけで。


 同時に視界に映ったのは意外とかわいらしい部屋だった。

 薄い緑色のカーテン、ベージュのカーペット。ベッドもふかふか柔らかそうで、勉強机の上には小物が並んでいた。


「なんか……普通だね」

「普通?」

「あっ、ごめん変な意味じゃなくて! あんまり部屋に物とか置かないタイプの人だと思ってたから」


 必要最低限のモノだけの殺風景な部屋。そんなイメージを勝手に抱いていた。


「あと、卓球すごい好きそうだから卓球一色だったりするのかなあって」


 なんか有名選手のサイン飾ってたりとか。


「……一応あるけど」


 そう言って、本棚を指さす。文庫本や参考書に並んで、そこには卓球の雑誌が。


「うわ、すごい揃ってる……」

「毎月、買ってるから」


 青原さん、本当に卓球が好きなんだなあ……。


「ん?」


 自分の気持ちの答えがあるわけでもないのに、なんとなく本棚を眺めていると、卓球関連とはまた違ったものが目に入った。


「青原さんも、ゲームとかするんだ」

「お父さんが買ってくるの、置いてるだけ。ほとんどやったことない」


 本棚の隅に、ゲーム機とソフトの箱がきれいに収納されている。


「そうなんだ。でもなんか、意外」


 だってソフトがスマブラとかマリカーとか、みんなでやるタイプのものだったからだ。思わずひとりでゲームしている青原さんを想像して笑いが漏れてしまう。


「優月……なんかバカにしてない?」

「い、いやいやそんなことないって」

「いや、その顔はしてる」

「だからしてな……」


 彼女の顔を見て、驚いた。ほんの少しだが、拗ねたような表情だったからだ。それは、今まで見たことなかった。


「じゃあ、勝負しよう。これで」


 言って、青原さんは本棚からゲーム機やらを取り出す。選んだソフトは……スマブラだった。


「5回勝負。負けた方がなんでも言うこと聞く」

「えっ?」


 突然の条件に、私は驚く。だけど。


「……いいよ、やろう」


 首肯する。勝ったら、もっと青原さんのこと、教えてもらおう。ダブルスのためにも。

 それに、スマブラなら昔やったことがある。


「じゃあ、恨みっこなしだからね」


 そうして、ふたりだけのスマブラ大会が幕を開けた。



 蓋をあけてみれば、5戦中1勝4敗で、青原さんのほぼ圧勝だった。


「私の勝ち、だね」


 隣でコントローラーを握る青原さんは、勝ち誇った顔を向けてくる。ぐう、悔しい。


 ほとんどやったことないと言ってたけど、嘘ではなかろうか。なんかやりこんでいる感があったぞ。


「も、もう1回」

「だめ。5回勝負って約束だったでしょ」

「たしかにそう言ったけどさー」


 私は脱力して、その場に転がる。ベージュのカーペットが敗者である私の身体を労わるように受け止めてくれる。


 私が勝ったのは最初の1回だけで、そこから青原さんは容赦なく私のキャラを攻めたててきた。


「そ、それじゃーそろそろご飯にしよっかー」

「優月」


 起き上がる私を、青原さんがじっと見つめる。


「忘れてないよね。負けた方がなんでも言うこと聞くって」

「あ……うん」


 言葉の圧が強くて、思わず引き気味になる。青原さん、そんなに私に命令したかったの……?


 まあ、敗者である私に拒否権はない。勝負を受けた時点で、こうなることは覚悟のうえだ。


「女に二言はないよ。それで、どんな命令を聞けばいいの?」


 さあ、どんな命令でもどんとこい。痛いのとか怖いのは嫌だけど。


「それじゃあ――」


 あらかじめ考えていたのか、迷うことなくさらりと、命令を口にした。


「一緒にお風呂入ろ」

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