第15話 過去との再会
オープン大会の会場は、高校の最寄り駅からさらに駅5つ分、家から遠いところにあった。
「ふあ……」
眠い。おかげで平日よりも早く起きなければならなかった。せっかくの休みだっていうのに。
「みんな、どこにいるのかな」
他の参加者は、チームメイトと談笑している。こういうところにひとりでいると、たまらなく不安になる。自分がここにいるのが実は間違っているんじゃないか。そして、逃げ出したくもなる。
卓球部の誰かいないかな、そう思って辺りを見回すけど、視界には誰の姿も捉えることができない。目に入るのは見知らぬ人たちばかり。
オープン大会というだけあって、参加者は老若男女さまざまだ。かわいらしい小学生から、生涯現役と言わんばかりのおばあちゃんまで。あらためて卓球人口の年齢層の幅を感じ取る。
そして中には、私たちと同じような高校生も。高校名の入ったジャージに身を包んだ強そうなところ、対して制服と不釣り合いな大きめのカバンで集まっている学校。
いろんな高校がきてるなあ……たかが小っちゃいオープン大会なのに。
「あれー? 赤城じゃん」
「!!」
背後から名前を呼ばれる。同時に私は両肩に力が入るのを感じる。
「やっぱり。久しぶりだねー赤城」
「ひ、久しぶり……
ショートカットに切れ長の目が特徴的な女子に、私はあいさつを返す。黒部友里音。中学の同級生で、同じ卓球部に所属していた子だ。
「中学の卒業式以来だよね? てか、本当に八高行ってるんだー。いいなーその制服。私なんてけーっきょく
「あ、あはは」
「そりゃー八高なんて私の頭じゃ無理だけどさー。ほんとうらやましいよー」
ため息をつく黒部さんが着ているのは、私の家から比較的近い南和高校の制服。地理的な条件もあって、私たちがいた中学から進学する人が多い。
「
「あ、
「……」
小走りで近づいてきた小柄な女の子と目が合う。彼女もまた、黒部さんと同じく中学の同級生。着ているのは、黒部さんと同じ制服。そういえば一緒に南和高校に行くという話を聞いた覚えがある。
眞白さんは、私を視認するや否やわずかに眉をひそめて、
「どうして、赤城さんがここにいるの?」
「おっ、そーだった。私らは試合に出るんだけど、赤城も出るの?」
「あ、ええと……」
出場する、ただそれだけ答えればいいだけなのに、できない。代わりに私の脳内は違うことばかりが浮かんでは消える。なんとかして早くこの場を離れたいとか。こうして再会する可能性があったのにどうして助っ人を引き受けたんだ、とか。
言葉を紡ぎだせないでいると、それを回答と受け取ったのか、黒崎さんは肩をすくめる。
「相変わらずだなあ赤城も。まあここにいるってことは出るんだろうけど。てか、まだ続けてたんだね、卓球」
「そ、それは」
「まあ? 続けるのはその人の自由だし? でも、あんまり周りに迷惑かけないよう気をつけた方がいいと思うよ?」
「……うん」
わかってる。そんなことは。
誰よりも、痛いほど、わかってる。
血とはまた違う何かドロドロとしたものが、身体中を駆け巡る。背中のリュックが急に重たくなって、重石のように身体にのしかかる。
「いいけどね。もう同じ部じゃないし」
「友里音、そろそろ時間」
「おっとと。それじゃ、自分たちのところ戻るわ。試合、がんばってよー? キャプテン……ああ、元キャプテンか」
「……」
去っていくふたり。私の口からは、長い息が勝手に漏れ出て行く。今からでも遅くないから、帰りたいという気持ちが充満していく。
「あっ、優月ってばこんなとこにいたー。おっはよー!」
「……杏子ちゃん」
「どったの? なんか顔色あんまりよくないけど」
「えっと……」
彼女の言葉から察するに、さっきの会話は聞かれてないみたいだ。
「さては、寝不足だなー?」
「ま、まあそんなところかな」
「ダメじゃん試合前なんだからー。おっとこうしちゃいられない。早く行こ? 部長はもう体育館に入ってるからさ」
「あ、うん」
杏子ちゃんが手を引く。そうして私の身体は心とは裏腹に、体育館へと吸い込まれていった。
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