第47話  ズレ始める二人

あれから2時間ほど経ち、俺は両手に荷物を持ちながら天華の後について回っていた。


既に腕が疲れ始めていたのだが、口には出さない。


天華の機嫌が悪くなるだろうことが予想できるし、もう昼の時間も少し過ぎている。


そろそろどこかの店に入って食事でもするだろうと踏んでいた。


そうなれば多少は休むことができるだろうと考えていたのだが…


どうにも雲行きが怪しい気がする。




「次はあそこにいくわよ!」




天華が指さした店は、またもや若者向けのアパレルショップだ。


先ほどまで一時間ほど散々迷ってようやく何着か服を購入していたのに、まだ買うというのだろうか。


天華の家が金持ちであることは知っていたが、カードで買う姿を見たときはさすがに格差を感じずにはいられなかった。


高校生になった記念にもらったとかいっていたが、うちの入学祝いは型落ちのスマホだぞ…親に恨みなんてないし、俺にはそれでも充分ではあったけど、隣に住む幼馴染だというのに経済格差を感じてしまう。




「なぁ、少し休まないか。そろそろ店も空いてきただろうし、昼飯にもちょうどいいだろ」




「もうへばったの?オリエンテーションの時も思ったけど、なっさけないわねぇ」




「悪いな、これから筋トレもするから今は勘弁してくれよ」




天華の言い分に若干イラっとしてしまうが、実際体力はないので否定しきれないのがつらいところだ。


やはりこういうところも天華にとってはマイナスだったのだろう。


こんなふうに冷静に自分を分析する余裕が今の俺にはあった。


この数時間で大分天華に対する接し方が分かってきたのだ。




天華の言葉にはトゲが含まれていることが多いが、流してしまえばそれ以上追い打ちをかけてくることはまずなかった。とりあえず聞くだけ聞いて流せばいい。


何故こんな簡単なことが今までできなかったのかと、今さらながら不思議に思う。




「む…それならまぁいいか…てかアンタ、ちょっと変わった?」




「なにがだよ」




「いや…なんていうか、ちょっと大人っぽくなったっていうか…」




そう言いつつ天華は自分の前髪に軽く触れる。それは天華が照れている時の仕草だった。ガラにもないことを言ったとでも思ったのかもしれない。


天華が俺を褒めることなど滅多にないのだ。とはいえ褒められたところで俺としては特に思うところはない。




(大人っぽく?馬鹿いうな、俺よりも琴音や西野のほうがよっぽど大人だ)




そう思ってしまうのだ。


俺の中ではあの二人が比較対象であるため、自分を比較するとなんとも情けない気持ちになる。


以前なら飛び上がって喜んだかもしれないが、今は調子にのることなんてできはしない。


目標に届いてすらいないのに、こんなところで喜んでいたらすぐ以前の俺に逆戻りするだろう。




「そうか?気のせいだろ。それより次は飯でいいよな?普通に腹も減ったしさ」




「むう、流した…やっぱりなんか違う気がする…」




ブツブツと呟く天華をスルーして、俺は辺りを軽く見回した。


若者向けの街づくりをしているため、目に見えるところにあるのはカフェが多いが、その中で某ハンバーガーチェーン店の看板が目に入る。


外側がガラス張りのため、店内の様子も軽く見ることができるが、そこまで混んでもなさそうだ。


タイミング的にもちょうどいいだろう。俺は天華に声をかけた。




「なぁ、あそこにしようぜ。今なら空いてそうだし、ちょうどいいだろ?」




「ん?…って、あそこチェーン店じゃない!正気!?」




えぇ…なにその反応…


俺としてはお前の反応のほうが正気かと突っ込みたい。高校生にはこれ以上ないチョイスだろうが。財布にも優しいし、それなりにリーズナブルだぞ。


だがそれをいえばますます天華は怒るだろう。


とりあえず俺は天華の言い分を聞くことにした。




「じゃあどうすんだよ。行きたいとこあるなら任せるけど、あんま歩きたくないぞ」




「それは…ほら、オシャレなパスタのお店とか……ビュッフェ、とか。いろいろあるじゃない」






返ってきた言葉は天華らしくもあったが、俺にそれを要求するのはお門違いだ。




「前者は俺には縁のないとこだし、後者はお前少食だろうが…琴音じゃあるまいし、そこまで食えないだろ」




ビュッフェの言葉で琴音を思い出してしまうが、あれはそもそもお礼を兼ねてのものだし、ただの買い物の付き添いでそこまで金を使いたくはない。


天華には分からないかもしれないが、俺は庶民だし飯一食で千円札2枚の出費は普通に痛いんだぞ。




そんなちょっとした妬みの篭った言葉を受けて、天華も引き下がってくれるかと思ったが、そうはならなかった。


ジットリとした目でこちらを見つめ、不機嫌そうに何事かを呟いている。




「…琴音とは一緒に行ったのに私とは嫌なんだ」




「えと…天華?」




「もういい。ほら、行くわよ。オススメの店を聞いてたからそこにするから」




「…そっすか」




なら最初からそこに行こうと言えば良かったんじゃないですかね、天華さん…




行きたいところがあるというなら素直に言えば別に反対はしないのに。


お安い店かくらいは知りたいところだったが、まぁ店頭でも確かめることはできるだろう。


こういう会話をしながらの回り道が好きなのかもしれないけど、女の子って難しい…




まぁなんにせよ、ようやく休むことができそうだ。


俺はその店の値段が安いことを祈りながら、とりあえず量が多くて安いものを注文しようとだけ心に決めた。

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