第32話 男だけの恋バナトーク
「落ち着いたか?」
「あ、ああ…悪いね、変なところ見せちゃって…」
あれからしばしの時をおいて、西野はようやく落ち着いたようだった。
どうも理想と現実のギャップに戸惑っていたらしい。リア充にもいろいろあるんだな…
「いや、気にしてないけど…まぁほら、あれだ。元気出せよ。それはどっちかというとリア充ってよりチャラ男の世界だ。大抵のやつはちゃんと一途なもんだって」
「そうかな…そうだと信じたいけど、なかなかにキツかったよ…言ってることが生々しいんだ。使い勝手のいいホテルを紹介されたときはさすがに絶句しちゃったし…僕らまだ高校生になったばかりなんだよ…?」
「お、おう…」
マジかよ…確かにこええわ。まるで別世界の話だ。
ホテルって金かかるだろうによくやるな。中学の頃の俺、月の小遣い三千円だぞ?
それでなんとかゲーム買ったり漫画揃えたりとやりくりしてたのに、あいつらホテル代でそれを一瞬で吹き飛ばすのか…俺には理解できん…
「だから浅間くんに恋バナなんて言われてつい目頭が熱くなっちゃってさ。僕が求めていたのはこういうのなんだよって。そうだよ、過程が大事なんだ。3人だのカメラで撮っただの、そんなのは断じて違う…!」
「落ち着け、西野。分かったから、ちゃんと分かってるから」
俺と根っこの部分では同類な西野は、まだ向こうの世界に適合しきれていないらしく、今も闇が溢れ出している。
光属性である西野がこうも愚痴を吐き出すとは、よっぽど思うところがあるようだ。
まぁ染まりきられたら距離を置きたいところだが…西野にはこのままでいてほしい。
とはいえここまでの会話で分かったこともある。
西野は存外ピュアというか、純粋なやつらしい。
元々リア充への憧れで高校デビューを果たしたやつだし、青春への憧れも人一倍あるようだ。
こんなイケメンなのに彼女が未だにいない理由にも納得できる。確かにこんな話を聞かされ続けてきたのならげんなりするだろうし、元陰キャなら近づいてくる女子に警戒してもおかしくはないだろう。
そして誠実でもある。それはさっきまでの会話からも明らかだ。
西野なら付き合っても浮気などすることなく、彼女と仲睦ましく穏やかに付き合っていくのだろう。
本当に、男として文句のつけようがない。
西野に敗北を認めたのは間違いではなかったことが分かり、俺は少しだけ安心した。
きっと西野なら、天華を幸せにしてくれるのだろう。
「なぁ、話を変えようぜ。恋バナの続きでもして気分転換でも…」
「ああ、しよう!すぐしよう!」
そろそろ本題に戻ろうと切り出したが、やはり西野の食いつきがすごい。
鼻息を荒くして、その端正な顔が朱色に染まり始めている。
そんな西野を見て、女子の一部が騒ぎ始めるが、もうそんなことに構ってる暇はない。
西野を慰めてる間、なんだかんだで時間も随分使ってしまっているのだ。
朝のHRの時間も近づいてるし、未だ教室に姿を現していない天華もじきにやってくるだろう。
とりあえず西野に気になっている女子がいるかくらいは知っておきたかった。
「おう…じゃあさ、とりあえず西野には気になっている女子はいるの?」
「え、いきなりそれ聞いちゃう?まいったなぁ、どうしようかなぁ」
焦っていた俺は初手で本命の質問を切り出すことにした。
話の流れから不自然でもないだろうと判断したのだが…どうしよう、西野の反応がうざい。
露骨に照れくさそうな顔をして頬を掻いてるし、口元はにやけっぱなしだ。
どうやらよほどこの手の話ができたことが嬉しいらしく、喜びを隠せていなかった。
特に腹ただしいのはそんな顔をしていても、イケメンはイケメンであるということを再確認してしまったことである。
今の西野は子供のように顔を綻ばせ、純粋な笑顔を見せている。
実際そんな子供っぽい顔を見せる西野が珍しいのか、周囲の女子もポーっと顔を赤らめている始末だ。
ギャップ萌えってやつだろうか。俺は女の子でそれを見たかったと切に願う。
いくら顔が良かろうと、目の前にいるのは男なのだ。俺にそちらの趣味はなかった。
「嫌なら答えなくていいけど」
「いやいや、ちゃんと答えるって!うーん、そうだね。ちょっと気になってる子はいるかな」
若干イラッとしていた俺はぞんざいに西野を扱うことを決めたが、慌てた西野はちょっと迷いながらも答えてくれた。
…そうか、いるのか。
「なんだよ、やっぱいるのか」
「でも好きかと言われると微妙かも。自分にないものを持っていて羨ましいって感じだね」
とことん優等生な回答だ。なんというか、西野らしい。
「なるほどな。じゃあ好みのタイプってどんな感じ?」
「いや、その前に僕からも質問させてよ。こっちは答えたんだからさ」
矢継ぎ早に質問しようとしたところ、西野からストップがかけられた。
まぁ当然か。聞いておいて自分は答えませんは印象が悪いだろう。
最初に切り出した時に覚悟をしておくべきだった。
俺はしょうがないかと姿勢を正すと西野に対して了承する。
「まぁ確かにフェアじゃないな。じゃあ俺にはなにを聞きたいんだ?」
「うーん、そうだね。質問を質問で返すようで悪いけど…」
一拍置いて、西野は俺に質問を投げかけてくる。
「浅間くんは、好きな子はいないの?」
それは俺にとって、今西野から一番聞かれたくない質問だった。
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