騎士団長と、


騎士団長になり、暫く経った頃のことだった。


日々起こるふざけた事態を片付けて、久々の休暇にありつけた日。


ちょっくら剣の腕試しをしようと思って、魔物がいる森へ一人で出掛けた。


愛剣のルイガと共に、猪みたいな魔物やら、緑色の人型の魔物とかを斬っていた。


適当に森の中を散策していたとき、血痕を見つけて、なんだろうとその跡を追った。


もしかしたら、誰か魔物に襲われているかもしれない。


そう考えながら進んでいたとき、ぐったりと倒れている生き物を見つけた。


「これは……………」


倒れていたのは、白く美しい獣だった。


狼のように見えるが、神秘的な雰囲気を持ち合わせていて、一体どんな生物かは検討がつかない。


力なくぐったりとしている獣に、ゆっくり近付けば、ピクリと耳が動いた。


ジロリと、静かに睨まれるが、気にせず私はしゃがんで、獣に手をかざした。


「………グゥルル………」


「手当をするだけだ。傷付けはしない」


低く唸る獣に言葉を掛けながら、回復魔法を唱えた。


回復エーヴォン


腹のあたりに攻撃を受けていたようで、この獣は致命傷に近い怪我を負いながらここへ移動していたようだ。


魔法により、みるみるうちに傷口が塞がれていく。


数秒が経ち、傷が癒えたことを確認すると、私はこの場から立ち去ろうと踵を返した。


帰ろうとする私に、獣は呼び止めるように吠えた。


「……ガウガウッ」


振り返ると、群青の瞳と視線がかち合った。


静寂に包まれる中、無意識に剣を構えたが、獣はゆっくりとこちらに近付いていく。


………どうやら、あちらに戦う意思はないようだ。


一旦警戒を解いて、剣をしまう。


「…………お前はもうどこかへ行った方がいい。お前の血の匂いを辿って、魔物達がここへ来てしまう前に」


「グゥ」


私の言葉を理解しているかしていないのか、獣は返事をしたが、あろうことか私にすり寄ってきた。


野生を忘れすぎではなかろうか?


「いや私になついたって意味ないからな!? ほら、早く逃げろ」


「ガウ!」


「嫌だじゃない! 私はお前を飼えないから! お前を連れて帰ったら私が国王に叱られるんだぞ!?」


「グルル………」


「重い!! 離れろ!!!」


人の足にしがみついてくる獣をなんとか剥がそうとするが、獣は一歩も退かない。


コイツ絶対に普通の獣じゃないな、さては。


決着がつかない勝負に先に折れたのは、私だった。


白い獣の粘り勝ちである。


私は負けた自分を恨んだ。







後日、この獣を連れて王都へ戻ったら、国王陛下は泡を吹いて倒れた。


部下達に説教にされたのは言うまでもない。




「団長!! アンタ休日になにちゃっかりとんでもない方を連れて帰ってきたんですか!? 国王陛下のご心労を考えてください!! あとオレらの胃も!!!!」


「あの白い獣が聖獣だなんて分かる訳ないだろう!! 私は悪くない!」


「アンタが悪いわ!!!!!」

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