転生令嬢と花。1
――――前前世では、幻想に過ぎなかった花。
ある国では『魔女に渡すと願いを叶えてもらえる』と、そう言われるぐらい物語でしか存在しえなかった花。
アルクでもライラでもなかったわたしが、死ぬまで一度も見たことがなかった。
…前世であの子が遺してくれた、唯一の花。
まさかこんな場所で、また出会えるとは思ってもみなかった。
――――不可能を現実とした、青い薔薇。
――――――――それがどうして、此処にあるのだろうか?
◇◇◇
今、私はとても情けない顔をしているでしょう。
初めて訪れた侯爵邸で、しかもよりにもよって、前世からずるずる引き摺っている、後悔そのものが目の前にあるのだから。
「……ライラ?」
私の様子の変化に気付いたらしいアルが、心配そうに声を掛けてくれましたが、私はその声に反応出来ませんでした。
一言も喋らない私を見て、何かを察したのか、アルはこちらに近付き私の隣にしゃがみ込みました。
「その花はね、僕達も名前は知らないんだ。だから僕達は『ブルーローズ』って勝手に読んでる」
「……え? 名前、わからないの……?」
思わず聞き返すと、アルは柔らかく微笑んで、ゆっくり話し始めました。
「アルクーリ様がとても大切にされていたご友人が由来の花らしくてね、名前は秘匿情報となっていてこの花の管理をしている侯爵家でさえ知らないんだ」
「…………そんなこと、私に話していいの?」
「……うん、このくらいなら大丈夫だよ。この花は貴重なものだから、この場所はあまり他の人は入れないけど」
「……………私、入っちゃってるけれど………」
眉を下げてそう呟けば、アルは苦笑いを浮かべました。
…………男子三日会わざれば刮目せよ、とは言いますが、私が知らぬ内にアルは大人っぽくなっている気がします。
私の知っている六歳児は、もう少し幼かったような………?
「大丈夫だよ。……ブルーローズは、この国にとって重要だから、頑張って保護してるの。アルクーリ様にとって、色褪せたくない記憶だから、国が滅ぶまで保護せよと当時の国王陛下が仰られたんだって」
「当時の国王陛下……が、ご命令されたの?」
新たに質問をする私に、アルはこくりと頷きました。
その反応を見て、胸に込み上げるものを感じて、目頭が熱くなりました。
………本当は、ずっと心のどこかで悔やんでいました。
今まで邪神やら黒い竜やら薙ぎ倒してきたけれど、あの子だけは守り切れなかった。
ポツンと『異質』というレッテルを貼られ立ち尽くしていた
前世の私が何よりも大切にしていた、唯一無二の家族。
あの子は、目の前にある花と同じくらい美しい、どこまでも染み渡る青空のような瞳をしていた。
あの美しい瞳を思い出して、ぐっと唇を噛み締めた。
そして、ずっと保護してくれた――――遺し続けてくれた――――敬愛する主君に、思いを馳せる。
王よ、深く感謝申し上げます。
何者でもなかった私に、お役目を下さり、アルクーリ・ドルクという名を与えてくださった陛下。
私が死して尚、私のためにと動かれて、感激のあまり言葉もございません。
……と、もし陛下がいたら片膝を折って延々と申し続けてしまうな。
陛下がこの花を守り続けて下さったことを知り、とうとう私の目から一滴の涙が零れ
ました。
「……………っ、あ、あああ……あああああああああ!!!」
一度出てしまえば止まらぬもの。
耐えきれなくなり、ドレスが汚れるなんて気にせず崩れ落ちてしまいました。
座り込んで泣きじゃくる私の背中を、アドとアルはそっと無言で撫でてくれました。
リンは私の頭をポンポンと優しく叩いてくれて、泣きながら嬉しく感じました。
―――――背後から、その場にいないはずの輩の声が耳に入るまでは。
≪ライラッ!? あ、え、ななな、泣いてる?? ら、ライラ―――――!!!!!!≫
「「え????」」
「は????????」
なぜレオがここにいるんでしょうか?
思わず涙引っ込んだんですが????????
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