火の精霊の見守り。 レオside


「ほらライラ、アル、こっちこっち!」


「待って、アド…! そんなに急いだら、転んじゃうよ」


「大丈夫だよ、アル。いざとなったら私が抱っこしてあげるから」


陽の光が差し込む昼下がりの庭園で、賑やかな声が響き渡る。


「ここら辺の花はボク達もお世話してるんだ! 綺麗でしょ?」


「本当だー! とても素敵。二人とも、花の世話が上手!」


現在、俺が目に入れても痛くない程大切にしている契約者が、以前助けた侯爵の息子である双子と仲良く話している。


よりにもよって侯爵邸の庭園最悪の場所で。


≪ライラ、大丈夫か……!?≫


楽しそうに話している三人を、後ろから俺は見守っていた。



◇◇◇



一昨日おととい、侯爵家側から手紙が届いた。


手紙には、『ぜひライラ嬢に家へ遊びに来てほしい(要約)』と書かれていて、それを見たライラは快諾しようとした。


それに待ったを掛けたのがライラの兄達である。


「これは罠だ。侯爵には悪いが、今回はお引き取り願おう」


「そうだね。僕達の妹に取り入ろうとするのは看過出来ないよ」


俺も反対だったが、それ以上に凄まじかったのはあの二人である。


手紙を読む前に破ろうとしたのは、流石に両親に止められていたが、読んだら読んだでドス黒い笑みを浮かべていた。


夫人はそんな双子を見て呆れていた。


「一体どこの誰に似てしまったのかしら…」


「………………」


気まずそうに公爵はふいっと視線を逸らしたまま、沈黙を守った。


兄達の方は冷静を欠いて暴走状態になっているし、この父親に至っては使い物にならない。


いくら家庭内のヒエラルキーの頂点が夫人だとしても、シスコンバーサーカー達を止めるのは一苦労するだろう。


ならば俺が出ようと思い、先程まで掛けていた透明化の魔法を解いた。


いくらライラの家族だといえ、迂闊うかつに姿を晒そうとしたら、ミアの大目玉を食うし、祝い事は別として念のためこの家族に会うときは透明化している。


けど今はどうせミアはここにいないし、別にいいだろう。


≪よう、随分楽しそうな話をしてんな。俺にも聞かせてくれよ≫


ぽん、と双子のガキの両方の頭を軽く叩けば、面白いぐらいに双子は飛び退いた。


「え、ええええええええ!!??」


「………………っ!?」


ジルードは驚きの声を上げ、カイラスは衝撃のあまり二の句が継げないようだった。



妹であるライラのことに思考が囚われていたからだろうか?


どれだけ力があろうとも、やはりまだまだそこを含め若いな。


ちらりと公爵の方へ視線を動かせば――――――目をカッと大きく開けて、真顔でこちらを

凝視していた。


いや怖いわ!!!


きっと心労が溜まっているのだろうが、いい歳した人間の男が、こちらをガン見しているのは普通に怖い。


≪なんだ、だんまりか?≫


すっと目を細めて口を開けば、公爵は夫人に頭を叩かれ我に返ったようで、恐る恐る喋り始めた。


「レ、レオ殿………実は、以前から交流があるメリダス侯爵家から、ぜひライラに屋敷へ遊びに来てほしいという手紙が届きまして……」


≪………………へえ? それでお前達はどう返事をするんだ?≫


こてりと首を傾げれば、公爵は真っ直ぐ俺の目を見て続けた。


「断りたいのは山々ですが、ライラも友人の一人二人出来なければいけないと思いまして。何より親としては、ライラ本人の意思を尊重したいので……明後日あさってそちらに向かわせて頂きたいと返事する予定です」


≪なるほど。そう言われてしまうと、俺とて何も言えない≫


「お待ちください、父上!!」


肩を竦める俺と公爵の会話に割って入ったのは、焦ったような表情を浮かべるジルードだった。


「ライラが行くのであれば、僕も行きます!! あそこの子供は男児しかいません。その中にライラが行くのは、兄として心配です」


ジルードが言っていることは分からなくもないが、今回誘いを受けたのはライラだ。


保護者として公爵や夫人が一緒に行くのは納得いくが、ジルード達は明後日王城へおもむく予定だと耳にしている。


ライラに同行するのは些か無理があるだろう。


その証拠に、焦っている片割れを制したのはカイラスだった。


最初は反対していたが、父である公爵の言葉に考え直したようだ。


「落ち着け、ジルード。お前の焦る気持ちは分かるが、明後日俺らはライラに同行できないだろう? それにライラだけであちらに行く訳じゃないんだ、父上達も一緒に行くはずだ。ライラだって、友人の一人ぐらいは必要だ」


「でも、やっぱり心配だよ………」


カイラスに説得されても不安そうに俯くジルードを見て、俺は顎に手を当てた。


どうやらジルードは、保護者同伴だとしても自分がいないから多少心配が残るらしい。


一国を支える宰相が、侯爵家ごときに先手を打たれるとは到底思えないが。


相手が双子だから、同じ双子として危機感を覚えているのだろうか?


まあ実際、俺も心配だしな、彼も思う所はあるのだろう。


暫く思考に耽った俺は、名案を思い浮かべた。


じゃあ、俺が一緒に行けばいいか!


俺は口元を歪ませ、公爵達に言った。


≪ジルードがそこまで心配ならば、代わりに俺がライラに同行しよう≫



◇◇◇



あのような経緯があって、俺は今、侯爵邸の庭にいる。


メリダス侯爵達はライラの訪問を大変喜んでいた。


三兄弟の一番上の奴は微笑ましそうに弟達を見ている。


侯爵邸の庭園は流石というべきか、美しい花に珍しい薬草まで、幅広い植物があった。


ライラは興奮したように瞳を輝かして、周辺を見渡している。


けれども多くの花の中に、ひっそりと咲いている花を見つけると、そちらに駆け寄った。


その花は、他の花より一層ライラの中では物珍しかったのだろう。


ライラは食い入るように花を見つめたまま、ポツリと声を洩らした。


「――――――この、『青い花』は、何ですか………?」


―――――、震えた声で彼女はそう言った。

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