四歳の転生令嬢

風の精霊の雑談。 イアside


「いってきまーす!」


≪いってらっしゃい≫


元気な声でこちらに手を振るライラを見送って、僕は庭へと向かった。



◇◇◇



本日ライラは、友達らしい侯爵家の方へ遊びに行くらしい。


あの時助けた子達かーとぼんやり思い出しながら、庭に着くと、見慣れた金髪が目に入った。


≪おや、イアですか。どうしたんですか? いつもはここに来ないのに≫


ご自慢の輝く金髪を揺らして、ミアは僕に話しかけて来た。


≪暇だからなんとなく来ただけ≫


欠伸しながらそう言えば、ミアは微笑を浮かべて頷いた。


≪そうですか。ところで先程、レオは見かけましたか? 今日、彼にまだ会えていないのですが≫


≪レオ? レオなら今頃ライラのところにいるんじゃない?≫


レオは≪ちょっと心配だから見ていく≫とかなんとか言って、わざわざ透明になってライラに着いて行った。


僕が言うのもおかしいけれど、少し心配症しすぎではないのだろうか。


確かに、ライラは身内の欲目を差し引いても大変可愛らしいが、それでも相手はほぼ同年代だし、大丈夫だろうに。


風の下位精霊達から、情報なんていくらでも入手できるから問題ないと思うのだけれど。


僕が思ってることが分かったのか、ミアは思いっきり顔をしかめた。


≪レオときたら……すっかり保護者面が板について……≫


≪まあ、心配する気持ちも分かるよ。ライラは強いけれど、それでも僕達からすれば脆い人間だしね≫


≪それでも限度があるでしょうに…。やってることがストーカーのソレですよ!≫


≪仕方ない。アイツ、そういうのはあんまり分からないから≫


こめかみを押さえてブツブツと呟くミアを宥めつつ、僕はライラに申し訳なくなった。


レオは根っこは真面目だから、責任感が強いし、面倒を見なきゃと思ったらとことん面倒を見る。


世話焼き気質なのに、変なところで抜けてるというか、たまにポンコツになる。


だから、本人は至極真面目に相手を思ってやったことが、第三者からしたらやばいことをやっているように見えるのだ。


実際その通りだから、何も言えない。


≪もうライラは四歳なんですよ? 少しは子離れをするべきです≫


≪うんちょっと待とうか? アイツはライラの親では無いからね? 保護者っぽいけど違うからね?≫


精神的に疲れが溜まったのか、ミアがとんでもないことを口にしたので、急いで訂正に入った。


ライラはレオの子供ではないのに、とうとう疲れすぎて壊れてしまった、ミアが。


訂正したにも関わらず、ミアは何言ってんだコイツという目で僕を見た。


≪何言っているんです? レオはライラの親鳥でしょうに。それはもう過保護な≫


≪アイツは親鳥じゃないから!!!!≫


何言ってんだとは僕が言いたい。


ライラはまず雛ではないし、レオも親鳥ではない。


ライラの傍にいるのが長くなって、恐らくミアもおかしくなってしまったのだろう。


ライラ、本当にごめん。


僕はもういつぞやにライラが呟いた「ジャパニーズ土下座」をしたくなった。

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