転生令嬢の警戒と疑惑。1


…なんやかんや波乱があった検定は無事終わり、穏やかな(騒がしい)日々に戻る…はずだった。


…ただ、司祭さんにご迷惑をお掛けしたのが心残りなのですが。本当に介抱までしてもらって申し訳ない。


今度、胃に優しい物をあげましょうかね。


翌日、どんよりと沈んだ気持ちのまま、見たくもない現実から目を逸らそうしたものの、お父様達の手によって王様がいる所へドナドナされました。


ちなみにイア達はまたまたお留守番です。



◇◇◇



どこぞの会議のような場所に着くと、お兄様達の隣に座りました。


…私は何もしてない、清廉潔白の身です。至って無害な公爵令嬢なんです! 


「……ライラ、ライラ」


なのに皆さん酷すぎません!? 神と対話なんて普通でしょうが!!


なんなら私の周りなんて控えめに言ってバケモンしかいませんでしたよ! 今世ぐらいは穏やかに過ごさせてくれ!!


「ライラ、ライラ、ライラ!」


「普通に聞こえてるから耳元で叫ばないで!!!」


五回も人の名を連呼するジルお兄様を睨みつけて吠えると、カイお兄様にチョップされました。解せぬ。


「そういうお前もあまり叫ぶな。外にいる誰かに聞かれたらどうする」


「どうするもこうも、私は何も知らずに強制連行されたんだけど?? 連れてくんなら事前に説明ぐらいして」


呆れたようにこちらを見るカイお兄様に、むすっとしながら反論すると、カイお兄様は胸元を押さえて呻きました。


「ゔっ、今のは反則だろ………どこで上目遣いなんて覚えたんだ?」


そんなカイお兄様に、ジルお兄様は羨ましそうに呟きました。


「いいなぁ、カイ」


いや何が? ただあの人が奇怪な言動をしただけですよ??

 

……本日はハテナマークのお祭りなんでしたっけ???


死んだ目で、不可思議な二人のお兄様達をスッと見つめた後、ぎらぎらと着飾った服に繋がる顔に視線を移しました。


その人物は、気まずそうに咳払いをすると、話を始めました。


「ゴホッ…さて、そろそろ本題に突入していいか?」


「勿体ぶらずさっさと話せ。あまり事を長引かせたくない」


ニトおじ様一応国王に、鋭い視線を向けながら口を挟むお父様を見て、お母様は苦笑いを浮かべました。


「あらあら、ご機嫌斜めねぇ。こうなったら私でも止めるのは疲れちゃうわ」


あ、違いましたね。割と自信なさげの声に反して余裕の笑みでした。


「あー、それで早速問題に移るが……ライラ、ステータスを確認したか?」


「確認してないけど…?」


「「「「は???」」」」


投げかけられた質問にすぐ答えると、間を置かずに呆れられました。


は? と言われましても……私とて昨日の出来事を今でも夢じゃないか疑うのですよ?


夢であってくれと願わせてください。現実と向き合いたくないんです。


切実な私の願いは無論叶わず、ジルお兄様に諭されました。


「いや、あのね、ライラ。現実を認めたくない気持ちは分かるよ。分かるけど……ステータスは夜眠る前に確認しなきゃダメって、お母様から教わったでしょ?」


「………ハイ」


少し気不味くなり俯きながら返事をすると、ジルお兄様は頭を軽くポンポンと叩いてきました。


「まず最初に自分でステータスを確認しなくちゃ。自分のことだから、先に知っとかないといけないでしょ? だからね、今度からは、自分に関係するものは真っ先に確認するんだよ?」

 

「……………本当に、面目ない。迷惑いっぱい掛けちゃってごめんなさい」


優しく諭すその声とは裏腹に、心配してる表情をしているジルお兄様。


心配してくれているのに申し訳なく思うも、嬉しく感じるのは複雑です……ね。


でも、私一人だけ最初に確認するにも、リスクがある。


…称号によっては


稀に、『呪われた称号』が現れる。


命を狙われるリスクは、もう既にこの家に生まれたから確実につく。


ただ、自我を保てなくなるのは、魔力のコントロールが上手くいかず暴走するか……、……。


…………最悪の場合、あの称号により呪われる…というか、乗っ取られるの方が正しい。


幼いからそこまで物理的攻撃力はないにしろ、魔力や属性は多分そのまま引き継いでるだろうから、私が暴走したら私を止められるのは現状ベネだけになる。


イアやレオ、ミア達普通の精霊、精霊王と人前に姿を現したらそれこそクソ共…厄介な裏社会の奴等の獲物になりかねない。


人質に精霊を取られてしまったら、アイツは怒り狂ってその場の人間を瞬殺するだろう。


そして神聖な精霊王が一気に恐怖の存在へ…となってしまったら、この世界から、精霊が絶滅してしまう。


精霊は、人々の信仰あってこそのものだから。


そうなってしまったら………………。


世界が、崩壊する。


ぐっと握り拳に力を加えると、そっと誰かの手が肩に置かれました。


思わず振り向くと、ジルお兄様が、口を耳に近づけ、囁いてきました。


「大丈夫。『呪われた称号』が出てきても、僕達が止められるし、なんなら……」


ジルお兄様は見たこともない蠱惑的な笑みで、甘く、妖美な声で、言葉を紡ぐ。


「君の前世である……"アルク"の姿に出来るよ。君のことなら全部知ってるから、君の弱点だって丸分かりなの」


「…ッ…!」


落とされた爆弾に、ヒュッと息を呑む。


今、なんと……?


暴走した私を止められる? アルクの姿に出来る?


『私』のことを知っている? それについで弱点も?


ジルお兄様が知っているとなると、カイお兄様も……。


は……は、一体何者なんだ?


警戒する私を見て、ジルお兄様は愉快そうに笑います。


「カイも勿論知ってるから、安心して」


どこに安心要素があるんだよ!!


普段はシスコンで残念な彼らですが、たまーに子供とは思えない雰囲気を纏うことがあるんですよね。


予想が当たっていたとしたら…十中八九私が神々と話していたのを知っているはず。


……私とした事が、身内だからと言って懐にするする探り込まれたもんです。


この双子は、もしや…………ほんの少しかもしれない可能性だけども。


人間じゃないかもしれない。



初めて、目の前の兄に疑いを持った瞬間だった。


いやお父様達はこれ気付いてないんですかね!?


普通聞こえません??

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