騎士達の驚愕。

––––ザッ、ザッ––––


静かな森の中、複数の足音が重なる。


繊細な飾りの馬車を囲う騎士の足音だ。


私もその一人。


メリダス侯爵家の馬車を中心に、王城に向かう足音が響く。



何故、王城に向かうか? それは簡単。


精霊の契約者が現れたからだ。


契約者は、トリファー公爵家の娘さんだそうだ。なんと、三人の精霊と契約したのだとか。名前は確か、ライランラック。


精霊と契約した他にこの国の第一王子、ネロファスト王子を誘拐犯から助けたらしい。


ネロファスト王子の恩人、精霊の契約者、公爵令嬢。凄い肩書きだ。


とまぁ、そんな事はさて置き。周囲を警戒しなければ。



––––––––ガサ、ガサ––––––


何処からか、物音がする。


周りの騎士達が更に警戒を強くした。



「グオオオオオォォォッ!」


突然、雄叫おたけびが聞こえた。



–––––––––ガサッ–––––––––


「!」


雄叫おたけびの正体は–––––––––––––––



黒い毛をまとった魔物、黒の凶暴熊ブラッドベア


不味い。此処ここにいる騎士全員倒せるか分からない。倒せるのは…。


今は亡き人であり伝説の戦神と呼ばれた、『アルクーリ・ドルク』様。またの名は、残酷な剣神ルヴィクター




「グオオオオオ!」


硬い、刃物のような鋭い爪が振り下ろされた。



◇◇◇



それから、長い時間経った。

戦ってから、今。騎士達の体力も限界に近い。



「何としてでも、守り抜けーーっ!」


諦めては、いけない。希望を捨てては、いけない。勇気を捨てては、いけない。可能性を捨てては、いけない。自分を信じろ。仲間を信じろ。自分のすべき事を成し遂げろ。それが、あの方の言葉騎士の心得


私の意図が通じたのか、周りの騎士の目がやる気に満ちて来た。


でも、現実は厳しい。

もう、私達の体力は、限界だ。


諦めるしかないのか。

そう思った時、奇跡が起こった。



漆喰しっく炎槍やり!≫


切風せっぷう激怒げぎど!≫



突然、男性の叫びが聞こえた。


その後、燃え上がる無数の炎の槍と無数の鋭い風の刃が現れた。


それらが黒の凶暴熊ブラッドベアに襲い掛かる。


この場にいる誰もが、信じられない光景を見ていた。


猛攻撃を受けた黒の凶暴熊ブラッドベアは、悲鳴を放った。



「グアアア!」



しかし、その後の出来事が更に信じられなかった。



何処からか、二歳くらいの少女が現れたのだ。短剣を持って。


少女は、黒の凶暴熊ブラッドベアの背後に現れ、次の瞬間…。



––––ザシュ。ザシュシュシュッ!



少女の持つ短剣が、黒の凶暴熊ブラッドベアの肉体を斬り裂く。


その時の少女は、美しくも恐ろしい。


私達は、驚愕きょうがくした。


たった二歳の子が、魔物を倒したのだ。

あり得ないだろう。


すると、少女はこちらに振り向いた。そして、言葉を放った。大丈夫か、と。


確かに死人はいないが、大丈夫かと言われたら素直に頷けないだろう。


「……! き、貴様は誰だ!」


一人の騎士が、少女に剣を向けた。


いくら怪しいとは言え、二歳の少女に剣を向けては駄目だ! あの、馬鹿!


でも少女は怯えず、落ち着いて話した。


少女の話しを聞くと、少女はトリファー公爵の娘であるそうだ。


……察しの良い方は、お気付きだろうか。少女こそが、例のライランラック様だ。



先程の騎士は、己がどんな事をしたか理解したらしく、顔を青くし謝罪した。私達も。


だがライランラック様は、寛大な心で許された。しかも、私達が無事で安心したと言われたのだ。なんと優しい方だろう。その時私は、密かに彼女を尊敬した。



◇◇◇



ライランラック様が馬車の中に入った後、騎士達では歓声が上がった。





ライランラック様の剣の腕前は、素晴らしい。そんな話題が陛下の所まで広がるのは、別の話。

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