転生令嬢と魔物退治と謁見。  1

はあ。


昨日の誘拐事件から、二日。


私は、馬車の中で溜息をした。


事は、三時間前にある。



◇◇◇



「ライラ、リリィ、これはどういう事だ?」


お父様が笑顔で言います。


目が笑ってないです。


あいつから、が来ているんだが。リリィ、どうしてこうなったのかな」


お母様が若干怯えながら、答えました。


「えーとね、ギ、ギル。これには、深い事情が…」



「はー。リリィ、君が居ながらどうして…」


説明を終えた後、呆れるお父様。そんなお父様にあははと、苦笑するお母様。


「「聞いてないんだけど。お母様、ライラ」」


お兄様、これは不可抗力と言う物です!仕方ない事なのですよ!


だからそんな呆れの眼差しで見ないでください! お願いします!





…以上です。解せぬ。



◇◇◇



コトコト、静かに揺れる馬車の中、長い沈黙が流れました。気まずい。




その長い沈黙を破ったのは、護衛さんの喜ばしくない報告の声でした。


「た、大変です! 魔物が、魔物が現れました!」


魔物? あの魔物?


あれ、前世で散々倒した魔物ですか。


この世界、精霊に魔法に魔物って盛りすぎですよね。


気付いている人はいるかも知れませんが、魔物とは魔力を持ったモンスターの事です。

しかも、種類が豊富と言う。誰得なんでしょうかね。



「魔物!? クソ、大事な時に限って!」


「「「魔物!?」」」


え、弱いですよ。って。


とりあえず、魔物倒しますか。


「ごえーしゃん、まもののにゃまえはなんでしゅか」


魔物の種類によっては、排除方法が違います。


黒の凶暴熊ブラッドベアですが」


あの黒熊ですか。余裕で倒せますね。


さてと、イア達を呼びましょう。


「いあ、れお、みあ。こっちきて!」


強く願う。


お願い!


≪≪≪ライラ!≫≫≫


「「「「イア殿達!」」」」


「精霊!」


皆!さてと……


「いあ、れお、みあ、まものたいじにいくよ! おかーしゃまたち、いってきましゅ!

ごえーしゃん、まものばしょはどこでしゅか!」


≪≪≪了解!!!!≫≫≫


「「「「ちょっとラ」」」」


「どこでしゅか!」


お母様達、ごめんなさい。


「えと、メリダス侯爵の馬車の所で…」


「あんないしてくだしゃい!」


すぐそこなら、行けそうです。


「でも、熟練の騎士でもやっとで…」


「おにぇがいしましゅ!」


私の勢いに負けたのか、渋々承諾してくれました。



以来だな、魔物退治するの。


おっと、私とした事がつい口調が戻ってしまいました。危ないですね。




覚悟しなさいな。黒の凶暴熊ブラッドベア、ぶちのめして差し上げます。



◇◇◇



「グオオオオオォォォ!」


低い叫びが聞こえる。


「あそこです」


護衛さんが指している所が魔物の出現場所です。そこには殺意丸出しの黒い熊がいました。


豪華な馬車と魔物と闘う騎士達。


「何としてでも、守り抜けーーっ!」


騎士さんの声が聞こえます。


でも皆さん、かなり体力を消耗しています。


あのままじゃ、皆死んでしまいます!



幸い、私達の位置は魔物の後ろ。奇襲を掛けられそうです。


「いあ、れお。あのまものをこうげきしてくだしゃい!」


私は二人に指示をしました。


≪≪了解!≫≫


漆喰しっく炎槍やり!≫


切風せっぷう激怒げきど!≫


ザシュッ! グサッ!


「グアアア!」


見事に当たりましたね。


さてと私も武器を取らないと。


「ごえーしゃん、たんけんありましゅか?」


「た、短剣!? ありますけど…」


よし、あるみたいですね。


「そのたんけん、かしてください」


護衛さんの目を見て言葉を放つ。


勿論、無茶な願いだと理解しています。

ですが、いつまでもイア達に頼ってばかりは駄目です。


「分かりました。貴女様の決意は、強い。言った所で、止めるのは無理ですね。短剣は、渡します。ですが、どうなっても私は責任を取れません」


「はい。しょうだくしてくだしゃりありがとうございましゅ」


私は、護衛さんから短剣を貰うと急いで魔物の所に移動しました。気配を消して。


ヒュン、ヒュン。木から木へと飛びます。


そして、魔物の頭上まで来ました。


刃の部分を下にして、木の枝から飛び降り–––

––––ザシュ。ザシュシュシュッ!



◇◇◇


《三人称side》



黒の凶暴熊ブラッドベアの全身を無慈悲な短剣が切り裂く。



「グゲオオーーー!!!!!」


黒の凶暴熊ブラッドベアは悲鳴を上げ、死んだ。


その場にいる騎士達は、驚愕した。

勿論、彼女の護衛も契約精霊も。


皆、信じられない光景を眺めていた。


たった二歳の小さな子供が凶暴な魔物を倒したのだ。しかも目に見えぬ速さで。 


淡い水色がかった銀髪に何もかも見通す純白の瞳。そして、新雪のような肌。


けど、髪も肌も返り血が所々ある。

まるで使のよう。

      


◇◇◇



「ふう。終わった」


いくらイア達の猛攻撃を受けたからって弱過ぎです。これだと目を閉じてもいけますよ。


「…」


辺りを見回して、皆さんの安全を確認します。


…あれ? 全員、固まっていますけど。


とりあえず短剣を返しましょう。


「ごえーしゃん、たんけんかえしましゅ。みなしゃん、だいじょうぶでしゅか?」


固まっている護衛さんに短剣を返して(押し付けて)馬車の中にいる方々と騎士さん達の方に振り向いて、全員無事か問いました。



「! き、貴様は誰だ!」


すると、我に返った一人の騎士さんが剣を向けて来ました。


危ないですね。ま、当然ですが。


「あにゃたたちにきがいはあたえましぇん。わたしは、とりふぁーこうしゃくけちょうじょ、らいらんらっく・ふろーと・とりふぁーでしゅ。いごおみしりおきを」


さて、どう反応するでしょうか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る