第2話なんで温泉に来て疲れるの



 男が腹を抑えながら逃げていった。暫くして近くの駐在さんが、来てくれて事情聴取され1時間後ボクはおとがめなしで、解放された。

ボクを巻き込んだ彼女の方は暫く事情を聞かれていた。その後ボクたちはお互いの部屋に戻り彼女とは別れた。

彼女は別れ際ボクの事をじっと見つめ、ありがとうと一言言って部屋に戻って行った。

やっぱボクの事、小さいからがっくりしたんだろうな、もう少しいい男なら彼女も喜んだかなって、思いながら部屋に戻った。


「はぁ・・とんだ一日にだったよ。マジ疲れた、せっかく大浴場で温泉堪能したのになあ、気分落ち着かせるために部屋の内風呂に入ってから寝よ。

内風呂も温泉引いてるみたいだし疲れとれるでしょ」


ザッパァーン

あぁ・・最高♪

ふぅー


ん?誰か来た?

何か呼ばれたような・・


気のせいかな・・


んー気持ちいいーー-

ふぅ~

・・・・

・・・

やば!のぼせてしまう出よ


・・・


 風呂から出ると何故かボクを巻き込んだ彼女がいた。

え?


「えーー!なんでいるのですかぁー!鍵かけてたでしょ?もう問題解決したでしょ?」


 彼女は顔を真っ赤にして下を向いている・・ へなんで?

あ!ボク、パンイチだ!

慌てて浴衣を羽織り、彼女にお茶を入れ話しを聞くことにした。


「あの… どうされたのですか?

もう問題解決しましたよね?まだ何かあります?」


 彼女はボクの方を見て、話してくる


「部屋に来て呼んだけど返事なくて、鍵かかってなかったから・・

お礼ちゃんと言えてなかったから、部屋に勝手に入って来たの、ごめんなさい!」


スタイルのいい女性は浴衣を完璧に着て、正座をしボクに深々と頭を下げる


「はぁ、そういう事・・ ちょっとびっくりしたけど」


「ありがとうございました。貴方がいなかったらどうなっていたか…」


「たまたまボクがあの場所にいただけです。気にしないで下さい」


 彼女は下を向き何か言っているが、声が小さくて聞き取れない


「あの、お願いがあります。まだあの男がいるかも知れないの。

怖くて… それで…

貴方が帰るまででいいの… ダメですか?」


ボクが帰るまで?どういう事?言ってる意味が分からない


「あのーボクが帰るまでって、どういう事ですか?この旅館のチェックアウトまでという事ですよね?」


「あの男は、ひつこいから、また現れると思うの

だからこのまま新川さんが東京に帰るまで、恋人のフリを続けてほしいの

私怖くて・・お願いします 」


ほんと怖いんだ震えてる・・

えー-!どうしよう・・こんなに怖がってるしなぁ

誰かに連絡して、来てもらえばいいのに・・

怖くて冷静な判断ができなくなってるかも・・

ここは落ち着かせてゆっくり話してみるか、ボク女の人とかかわるのはちょっと・・

それにこんな綺麗な女性だし・・

話を聞いて落ち着かせて、断ればいいでしょ


「あの少し落ち着いてください、お気持ちはわかりますよ、あんな怖い思いしたんだし狂暴な男だったしね、あのボクも一応男ですから、あまり信用しない方がいいですよ、とにかくお茶でも飲んで少しお話しましょう。 」


 彼女は涙目で震えながらボクを見つめてくる。

ほんと怖いんだ・・これ気持ち落ち着くまでまともに話すの無理なんじゃ・・


「一人でいるのが怖いの・・」

え?まぁ確かに一人でいるの怖いって・・

わかりますけど・・

うぅ・・そんなに涙目で見つめられても困る…


「ダメでしょうか…」


「落ち着いて考えましょう、誰か信頼できるお友達を呼ぶとか、家族に来てもらうとかどうでしょうか?」


「すぐ動ける友人も家族もいません!」


はぁ…

どうしたらいいんだよぉ

なんでこんなトラブルに巻き込まれるのボク・・

のんびり癒しの温泉巡りが逃げていく・・

でもほっとけないよなぁ・・

仕方ない!


「はぁ…… ボクは休暇で、この九州に3泊の予定で温泉を巡る旅に来てます。

4日後に千葉に帰ります。一応巡る場所も決まってます。

なので、ボクの予定に合わせてくれるのであれば、この旅行中ニセ恋人引き受けます。」


それを聞き彼女は、顔をあげ嬉しそうに答える


「大丈夫です。本当にありがとうございます。

改めて自己紹介します。

私は東京に住む九条真帆です!年齢は24歳独身です。よろしくお願いします」


 えーー!即答はぁ・・・ ここまで巻き込まれたからあきらめよ、のんびり温泉旅行がぁ


「ボクは、千葉で工事勤務の新川空27歳です。

ボクでよければできる限り協力しますよ、でもボクのこと信用していいの?変な奴かもしれないよ」


 彼女はなぜか驚いているなんで?


「新川さんのことは、信用してます!新川さんって年上だったんだ・・

あのまだお願いがあるの・・

あんなことがあって怖くて眠れないの・・

新川さん、私の部屋に来て一緒に寝させてください!」



ゴホゴホ・・


「えーーー!何を言ってるの!鍵すれば大丈夫でしょ?

そ・それにボクも男ですよ!

貴方みたいに綺麗な女性と一緒で何か起こっても知りませんよ・・

部屋まで送りますから大人しく自分の部屋で寝てください」


 何を無茶苦茶な言ってるのこの子!

会って間もない男に、なに考えてるの?ボクが身体が小さいから安全だと思ってる?


「ダメ!怖くて無理なの、荷物もって私の部屋に来て、お願い・・ 」


 えー!マジ?どうなっても知らないよって、言いたいけどボクには関係ないや期待しても何も問題起こさないよ、女は怖いから・・でも警戒だけさせておこう


「はぁ・・ わかりました。どうなっても知らないよ!ボクも男だからね!」


 ボクは、部屋の荷物をまとめ彼女の部屋に向かった。

なぜか彼女は腕を絡ませてくる、確かに怯えてるなぁ・・ 身体震えてるし、


『でもこの身長差まるで正反対だよなぁ…

九条さん180cm以上あるよなぁ・・

恥ずかしいけど、ボクは九条さんの肩までしかないから、歩いてると、ボクが九条さんにしがみついてる感じなんだよね、さすがに落ち込むなぁ・・』


部屋の前まで来ると確かにみられてる感じがする、これって本格的なストーカーだな、辺りを見ると少し離れた廊下の角から影が消え走り去る音が聞こえる、これは本格的か・・とりあえず彼女の部屋で話するか


 彼女の部屋の前まで来てビックリ、日本家屋の綺麗な引き戸だ。

彼女が手をかけようとしたのを手で制した。


「ちょっと待って!」


気になった引き戸を見る、やっぱりだ、手をかける部分だけ濡れてる・・

これ何つけたんだろ?ローション?

彼女が気持ち悪がる姿を見て喜ぶ?

完全に屑だな!


なら思い知らせてやる!

多分まだ近くで見てるだろう

ボクは引き戸に塗られてるローションをふき取り、小声で九条さんに話す


『九条さん引き戸に塗られてたのはローションです。

多分あなたの怖がる姿を見て楽しむためでしょう。

今から一芝居しますのでボクに合わせて下さい』


九条さんは小さく頷く


「真帆今日は辛い思いしたからボクが忘れさせてあげるね!朝まで愛し合ってあんな屑忘れさせてあげるからね!愛してるよ真帆」


ギュー


「うん!あんな男忘れさせて!愛してるわ空」


ボクたち二人は部屋の前で抱きしめ合った。


遠くで何かを殴る音が聞こえ、わずかだが足音も遠ざかる

ふぅーもう大丈夫かな


 えーー!そんなに抱きしめなくても・・

そんなことしたらボクの顔がお胸さまの中に・・

まずい!いくら怖いからってそこまで真剣にやらなくても・・

早く離れないとボクが変な気持ちになってしまう


「九条さんもうあの男行ったみたいだから離れて大丈夫だから・・」


「あ!ごめんなさい私怖くて夢中になってました。」


まぁそうだよね・・

彼女は震える手で扉を開けボクたちは部屋に入った。

部屋に入ってボクは驚いた。

広!何この部屋!高そう・・

まぁこれなら他にも部屋あるし大丈夫かな、ボクは部屋の様子を見ていると彼女が謝って来る


「新川さんごめんなさい、無理なお願いして・・」


「あの・・部屋に入ったし鍵もかけたから、離れても大丈夫ですよ」


 彼女は先ほどのことでまだ身体が震えていた。


「まだもう少しだけ・・このままで・・」


 彼女が落ち着くまでずっと腕を絡ませ頭をボクの方にのせている状態が続いた。

どれくらいだろようやく落ち着いた彼女は、ボクから離れボクの横に座り話し出す

何で横?正面じゃなくて?

まぁいいか・・


「あまりにも怖くて・・ ごめんなさい」


「いえ!大丈夫ですよ、確かに一緒に来て感じました。

しかし、やることが陰湿だな!ほんと屑だ!

まだあの男狙って来るかな?」


そう言ったとたん彼女が再び腕を絡ませて来る

しまった。怖がらせてしまった。


「ごめん!また思い出させてしまって、でも部屋に入る前に誰かに見られてる感じしたから九条さんに合わせてもらってボクたちが愛し合ってるところ見せつけたから、大丈夫かも・・」


彼女は少し安心したのか腕をほどく、でも身体はボクにくっ付け寄りかかってる


「あまり九条さんの事聞くの失礼なんですが、あの陰湿さはちょっと・・

あの男の事知ってるなら、話せる範囲でいいので話してもらえますか?」


 彼女は頷き話してくれた。


 彼女は、モデルの仕事をしてて、ファッション誌〇〇のモデルでもあり、海外の有名なショーにも出たりしている有名なモデルだった。


ボクには縁のない世界だけど凄い人だったんだ。だからこれほどの部屋にも泊まれるんだ・・


彼女は、モデル事務所に所属していてそこの営業部の人間が、九条さんに異常な執着を見せているらしく、事務所の飲み会が終わった後、危うくホテルに連れ込まれそうになったこともあったそうだ。

その場は上手く逃げたが、彼のストーカーぶりはそれからどんどんエスカレートしてきた。

危険を感じた九条さんは、そのことを事務所に話をした。

すると事務所側は、彼は成績も優秀で事務所としては、手放したくないとの事で、上司より注意はすると回答だった。


それから、露骨なストーカー行為は収まったものの、プライベートでは必ず彼の存在が感じられ、気が休まることがなく、はっきりと自分には結婚を考えてる相手がいるからと、もう付きまとわないでくれとはっきりと言った。


それからしばらくは何事もなかったらしいのだが、ある時を境に郵便物が毎日届き中を見ると自分が部屋にいる写真が何枚も入ってた。

それから写真入りの郵便物が毎日送られてくるようになり、精神的に疲れた九条さんは、事務所にも暫く休養する旨を伝えた。


警察にもストーカー相談をして警官が見回り来るようになって少し落ち着いたので、今回疲れを癒すために、旅行にきたらしい


ボクはあんな屑を許すつもりはない!ここまで絡まれてるから九条さんを、この旅行中守って見せると心の中で誓った。


『どうぞ何も起りませんように・・・』








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