第3話 3年後
(3年後、首都)
結局、カーチャとは破談となった。しかしユーリーは妹のアリーナ・クニンと結婚をした。ユーリーたちの階級と違い、クニン家のような階級の人々は、結婚をしてもすぐに夫婦が同棲をすることはなく、しばらく夫が妻の家へ通うという慣習があった。ユーリーは彼らの慣習に従いクニン家に通い、やがて子どもができて二人は同棲を始めた。
3年間の間に、ユーリーは軍隊に入り、すっかり職業軍人らしくなった。しかし予想もしていなかったことも起こった。国を統治していた皇帝が、民主化を求める人々によって打倒された。兵士、労働者、農民、貧民、資産家などあらゆる人々が300年続いた体制をひっくり返すために団結し、行動した。
そして現在、新たな政治体制はまだ模索の段階にあり、国中が混沌の中にあった。ユーリーは旧体制派の人間になるのだが、まだ軍歴が短く階級も高くないこともあり、粛清の対象からは逃れることになった。そして紆余曲折を経て、首都守備隊という軍隊の部隊で働くことになった。
*
深夜。首都のあるアパートの一室。ユーリーは部下をつれてあるアパートの一室に突入した。過激派の会合が行われるという情報を仕入れたからだ。集まる人のなかには指名手配されている男もいる。
管理人から鍵を受け取った合鍵を使って入り口を開け、一気呵成に突入した。しかし僅かな差で過激派は窓から逃げていった。ユーリーは部下に彼らを追うように指図した。
逃げずに立っている女がいた。このアパートの住人だ。ユーリーは女に銃を向けた。見たことのある顔だった。カテリーナ・クニン(カーチャ)だった。カーチャが過激派を匿っていた。いやそれ以上に、カーチャが過激派の一員だという可能性もある。
「カーチャだな」
「アリーナは元気?」
「ああ。去年、子どもも生まれた」
「そう」と興味なさげに返事をした。「私を射殺するの?」
「いや。しない。だが逮捕する」
「警察になっていたのね」
「軍人だ。もはや警察は機能していない」
「そうね」
「3年前、おれと結婚しておけばこんなことにはならなかったのに」
「誰と結婚しようが、私の行動は変わらない」
「殴ってでもやめさせる」
「ヘドがでる。クソ野郎」
銃声が響く。銃弾はアパートの天井に穴を開けた。カーチャはまっすぐとユーリーを睨みつけていた。
(終)
革命前夜の婚約者たち @_noname
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