蒼太くんとあたし

 放課後。あたしは、蒼太くんの席へと向かう。今日、一緒に『魔法のステッキ工房』に行くって約束したからね。


 でも蒼太くん、なんだか様子がおかしい。本を読んでるのはいつものことだけど、なんか違う気がする。


「あの……広瀬くん?」

「……オレに話しかけるな」


 蒼太くんは、本から顔を上げずにいう。

 うわあああ、また前の氷の王子に戻ってる!!


「でも今日、一緒に『魔法のステッキ工房』に行くって……」

「あそこへは、お前一人で行け。必要なら、陽人がついてくるだろ」


 あー、やっぱり! あたしが陽人くんに告白されたこと、知ってたんだ。


「ご、誤解だって!」


 あたしがあわてて言うと、蒼太くんは本から顔を上げてあたしを見上げる。その目はとっても冷たい。


「誤解も何も、バレンタインデーの時、オレと陽人のくつ箱間違えて手紙入れて、落ち込んでたのはお前だろ」

「それはそうだけど」


 それを言われると、つらい。でも、今のあたしとバレンタインデーまでのあたしは違う。


 蒼太くんはうつむくあたしをよそに。彼はあたしの前を通り過ぎようとする。すれ違いざま、蒼太くんの声が届いた。


「うまくいってよかったな。仲良くやれよ」


 その声は、いくつもの気持ちがいりまじっているように聞こえた。あたしが思わずふり向いたときには、蒼太くんは教室を出てしまっていた。


『追いかけんでええんか?』


 声がして、肩に手がおかれた。スズさんだった。


「うん、今は。……とにかく、『魔法のステッキ工房』に行こう」

『せやな。じいさんに報告しよ』


 あたしたちは、そろって教室を出た。


 『魔法のステッキ工房』は、以前来た時と変わらず、そこにあった。中に入って、カウンターをめざす。カウンターには、前来た時とまったく同じかっこうで、おじいさんが座っていた。


 おじいさんは今度は、あたしたちを無視したりしなかった。顔を上げて、あたしと、人間の姿のスズさんをまじまじと見つめた。それから、一言。


「……ふむ、どうやら成長したようだな」

『せやろ。ウチの調子もどんどんよくなってる気がするねん。それで、蒼太のことやけどな』


 スズさんはおじいさんの方へ身を乗り出すと、一息に言った。


『今はちょっとワケありですねてるけど、協力するって言ってくれたで』

「……そうか。アイツを説得できたのか」


 おじいさんが少しだけ笑った。そして、あたしの方へ向きなおる。


「自信はなかったが、君しか蒼太を説得できないとは思っていたよ。蒼太を説得してくれて、ありがとう」

「いえ、あたしは何も……」


 おじいさんは、首を横にふる。


「君のおかげだ。アイツは、ある時からきっぱり魔法と関わることをやめた。しかし、どうやら最近は魔法を思い出そうと努力していたあとが見える」


 そう言って、一冊の本を取り出す。その本にあたしは見覚えがあった。この前、蒼太くんが読んでいた本。あたしには読めない字がたくさん並んだ本。


「これは、魔法のことについて書かれた本だ。魔法の使えない人間には読めないようにしてある」


 ああ、それであたしが読めなかったんだ。


「これはこの店においてある本だが、わし以外の誰かが読んだあとが残っていた。……アイツが読んだとみえる」


 そう言って、おじいさんはあたしに真剣な顔で言った。


「蒼太は魔法を捨てた。しかし、君の協力があれば魔法がまた使えるようになる。そして、今は君と蒼太の協力が必要な時だ」


「あなたの記憶もね」


 とつぜん後ろから声がして、あたしとスズさんはふり返る。そこには、あたしのお母さんがふんわり微笑んで立っていた。


「お、お母さん!?」

「あなたと蒼太くんは、ペアなのよ」

「ペア?」

「そう。二人で一つ。二人で初めて、一人前の魔法使いなの」

 



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