足りないパーツを探して
誰かの役に立つこと
あたしは、蒼太くんに『魔法のステッキ工房』のおじいさんに言われたことを話した。
「なるほど。オレを説得して、魔法使いにもどすつもりだったか、あのじじい」
蒼太くんがいらだたしげに言う。
「じじいなんて、そんな呼び方したらばちが当たるよ、広瀬くん」
「かまうもんか。あのじじいは、オレの母方のじいさんだ」
それを聞いて、あたしはおどろきをかくせない。あのおじいさんが、蒼太くんのおじいちゃん!? あ、でも言われてみたらどことなく、似てるかも。性格とか。
でも、そんなこと言ったら蒼太くんが怒る未来しか見えないからやめておいた。
「じじいは、オレを説得してから足りないパーツを探せって言ったんだな?」
「うん。そう言ってた」
すると、蒼太くんは腕組みをして考え込む。しばらくして言った。
「明日。明日の放課後、じじいの工房に一緒に行くぞ。それで、どこを探せばその足りないパーツが見つかるかを問いただす」
『せやな。とりあえず、蒼太を味方にしたって報告したいし』
スズさんが蒼太の肩をたたきながら、言う。
『それに、陽人のステッキのことも気になるしな』
「陽人のステッキがどうかしたか」
蒼太くんがするどく聞く。スズさんは首をすくめる。
『明日くわしく話す。とりあえず家にいる時、気をつけてみといてほしいねん』
「わかった」
蒼太くん、すごくこわい顔してる。どうしたんだろ。
『ほな、とりあえず帰ろか。蒼太は明日じいさんのところへ行く心の準備が必要やしな』
心の準備? なんでおじいさんのところに行くのに心の準備がいるんだろう? 色々分からないことがたくさん出てきて、あたしの頭はいっぱいいっぱい。
こういう時は、ベッドで寝るに限るよね。あたしと蒼太くんはくつ箱まで一緒に行って、そこで別れた。
そういえば、とあたしはとなりを歩くスズさんを見る。スズさん、最初に会った時よりどんどん長く人間の姿でいられるようになってない?
『ん? なんや、ゆかり。美人のウチに見とれてたんか』
スズさん、にやぁと笑って言葉を続ける。
『ええで、もっと眺めてもかまへんでー』
「ちがいますっ」
あたしはスズさんに言いながら、ふと足を止めた。
『どうしたん?』
「ねえスズさん。せっかくだから、あたしたちも、バスケ部の練習、見に行かない?」
あたしが言うと、スズさんがうなずく。
『せやな。せっかくやし、見学して帰ろか』
バスケットボール部の活動場所は、体育館。体育館は一階と二階に分かれていて、二階から一階の様子が見えるようになってるの。
あたしたちは二階に上がった。そしてそこで、植田くんを追いかけて行った高森さんを見つけた。彼女は一階の様子を楽しそうに見つめてる。
スズさんは、そっとステッキの姿にもどってあたしのリュックサックの中に入る。あたしは、高森さんのとなりにならぶ。
「あ、月島さん。来てくれたんだぁ」
「うん、植田くんがんばってるかなーって気になって」
高森さんはうれしそうに、一人の男の子を指さす。
「あれが、植田くんだよ」
それから、あたしの方へ向き直った。その顔は、とっても真剣で。あたしはごくりとつばを飲み込んだ。
「あのね。聞いてほしいの。……なんで急に彼氏候補がほしくなったか」
「うん」
高森さんは大きく息をすいこむ。
「うらやましかったんだ。好きな人がいる人が」
ここで言葉を切って、高森さんはうつむく。
「学校の行き帰りとか、休み時間に恋愛の話をしている女子たちを見てると、彼女たちがまぶしく見えて。少女マンガを見てるのも楽しいけど、実際に恋愛できたら、きっと楽しいだろうなって思ったの」
あたしは、うなずいてあげる。
「恋をするには、相手が必要。でもわたし、今まで誰かを好きになったことがなかった。恋ってどんな気持ちか知らなかった。なのに、恋愛してみたいって思った。変だよね」
「そんなことないよ」
あたしは、ただそう答えた。
「自分が経験したことないものに、あこがれたっていいと思う。高森さんは、恋愛がきらきらして見えたんでしょ? それは、悪いことじゃないもん」
あたしがそう言うと、高森さんはうれしそうに笑った。
「そう言ってもらえてうれしい。今はちょっとだけ好きって気持ちが分かる気がする」
そう言って、高森さんは一階を見下ろす。きっと目で植田くんを追ってるんだね。
「月島さん、ありがとう。あなたのおかげで、好きな人ができそうだよ」
その言葉を聞いて、あたしはあったかい気持ちになる。高森さん、今きっと幸せだろうな。そう思ったとき、高森さんの方からふわっと光が一つ出て、あたしのリュックサックに吸い込まれる。感謝の証だ。
あたしは、高森さんとしばらく練習の様子をながめた。それから、高森さんに見送られて、体育館を出た。
今日は、感謝の証を二つも手に入れた。感謝の証の数が増えたことをよろこんでるわけじゃない。自分が誰かの役に立てたってことがうれしかったの。
まだまだこれからも、人の役に立ちたい。立ってやる。あたしはそう、思った。
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