協力

「職員室前の、おとしものコーナーに届いてた。名前が書いてあるから、間違いないだろ」


 蒼太くんがぶっきらぼうに言う。陽人くんが入ってきたとき、これを探しに行ってくれてたんだ。


 植田くんはお守りを手に取ると、裏を向ける。そこにははっきりと、へたくそな文字で、植田とぬいつけてあった。


「間違いねぇ、オレのだ。広瀬、サンキュー」


 植田くんはうれしそうに、お守りをかばんにつけた。よかった見つかって。


 植田くんは蒼太くんにお礼を言ったあと、あたしたちに向き直る。


「お前らも、ありがとうな。一緒に探してくれるって言ってくれた時、うれしかった」

「あたしたち、何の役にも立たなかったけどね」


 あたしがそう言うと、蒼太くんが植田くんを見ながら言った。


「こいつらが話してるのを聞いて、オレは探しに行ったんだ」

「だよな。役に立ってないはずがねぇ。ほんとうに、ありがとな」


 その時、植田くんの胸からふわふわした光がとびでて、あたしのリュックサックに吸い込まれていく。植田くんの感謝の証だ。


 あたしはそっと蒼太くんを見る。向こうもこちらを見ていた。目が合うと小さくうなずいてくれる。これは、二人の協力プレーで手に入れた、すっごい証だ。


「やべ。オレ、部活行かなきゃ。それじゃあな」


 植田くんは、思い出したように言うとあわてて教室から出て行った。高森さんは、その背中を見て、あたしに耳打ちした。


「あたし、植田くんのこと好きになっちゃったかも」

「え!?」


 あたしが口をあんぐり開けると、高森さんは笑って言う。


「ということで、バスケ部の部活見学してくる! 一緒に帰ろって言ったけど、今日はナシで! ごめんね!」


 そう言って、植田くんの後を風のように追いかけて行っちゃった。あとには、蒼太くんと、あたしだけが残される。


 数秒の、ちんもく。あたしも向こうも、目線を合わせない。かといって、帰ろうとはしない。びみょうな、空気。


 何か話しかけなきゃ。そう思った時、向こうから声をかけてきた。


「……手伝ってやっても、いい」

「え?」


 あたしが蒼太くんを見ると、彼はあたしと目を合わさずに言う。


「スズの足りない部品探し。手伝ってやってもいいって言ったんだ」


 え、ええー!? どうして急に!? あたしがあたふたしていると、スズさんがあたしのリュックサックからとびだして、人の形になる。


『まったく。やーっと、すなおになりよった。えらい時間かかったな』

「うるさい」


 蒼太くんがスズさんに向かって怒った声で言う。だけど、スズさんは全く動じてない。両手を肩くらいまで上げて、ひらひらさせる。


『手のかかるヤツやで。でも、悪いヤツちゃうから許したってな』


 まるでお母さんのような言い方。あたしは思わず笑っちゃう。


「分かってるよ、広瀬くんが悪い人じゃないってことくらい」


 あたしが言うと、蒼太くんはそっぽを向く。あたしは、そんな蒼太くんの視線の先に回り込むと、ほほえむ。


「これからよろしくね、広瀬くん」

「……おう」


 ついに、あたしたちの最初の目的が一つ、達成できた。あとは、スズさんの足りないパーツを見つけるだけだ!







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