大切なもの

 放課後。高森さんが寄ってきた。


「月島さん、今日一緒に帰らない? 相談に乗ってほしいんだ」


 高森さんの言葉に、あたしはぽんと手を打った。


「いいよ。そのかわり、ちょっとあたしにつきあってくれる?」

「え? いいけど……」


 高森さんは、不思議そうな顔をする。あたしは、蒼太くんとの話を伝えて、植田くんに話しかけてみようと思っていることを伝えた。


 すると、高森さんはうなずいた。


「いいよ、面白そうだし」


 面白いかどうかで判断されるのはどうかと思うけど、今回はよかったということにしよう。だって一人で植田くんのところに行くのは、ちょっとこわいからね。


 あたしは、高森さんと一緒に植田くんの席へ向かう。そのとき蒼太くんの席の前を横切った。いっしゅん蒼太くんと目が合う。


 蒼太くんは小さくためいきをついて、肩をすくめてみせる。あー、ぜったい、バカにしてるよ。


 そう思いながら帰る準備をしている植田くんの背中に声をかけた。


「あの、植田くん……」

「ああっ!?」


 植田くん、すごい勢いでこちらをふり返る。だから、こわいって。


「あの、さ。……何か、困ってること、ない?」

「……ああっ!?」


 一瞬、おくれて口ぐせがとんでくる。ちょっとおどろいたみたい。


「えっと、今朝、何かを探してるように見えたから。探し物なら、探すの手伝うよ」

「わたしもわたしも」


 高森さんもあたしの後ろから出てひらひらと手をふってみせる。


「なんでだよ」


 植田くんはどすん、とかばんを机の上におくとあたしたちをにらむ。


「なんでって」

「そんなことしたって、お前らにはなんのメリットもないだろ」

「メリット? そんなもの、必要かな」


 あたしは首をかしげて植田くんを見る。困っている人がいたら、助ける。それが普通のことなんじゃないの。たしかに、スズさんのためでもあるけど、そうじゃなくたって、誰か困ってたら、ほうってはおけないんだけどな。


「はぁ!? それ、マジで言ってる?」


 植田くん、びっくりした顔をしてる。あたし、そんなに変なこと言ったかな?


「うん、本気だけど」


 あたしはせいいっぱいまじめな顔をして、植田くんを見る。植田くんもあたしを見る。数秒見つめ合ったら、植田くんがぷっとふきだした。


「え、ちょ……」

「わるい、マジか。そんなヤツ、いるんだ……」


 植田くん、おなかをかかえて笑い出す。あたしたちは、彼の笑いがとまるまで、待つ。


「笑ってわるかった、悪気はなかったんだ。ただ、お前がまっすぐすぎてさ」


 植田くんはひとしきり笑ったあと、あたしにあやまってくる。


「それは、失礼しました」


 なんて失礼な人。あたし、怒っちゃんだから。ふんっと鼻をならしちゃう。


「たしかに、探し物してんだオレ。……部活でもらったお守りなんだけどな」

「お守り?」

「そう。バスケ部のこもんの先生がくれた必勝守り。バスケ部のメンバー全員持ってんの」


 そういうの、植田くんなら、うぜえってすぐ捨てちゃいそうだって思っちゃったあたしがいる。


「ごめん、植田くんすぐ捨てそうだって思っちゃった」


 あたし、正直に言う。すると、植田くんまた大笑い。


「お前、ほんとうにまっすぐだな。そんなの、言わなきゃバレねえのによ」


 そりゃ、そうなんだけどさ。なんか、だまってられないんだよね。


「こもんの先生さ、すっげえオレたちのこと応援してくれてんだ。全員におまもり買ってきて、一致団結だってさ。オレ、そういう暑苦しいのほんとうは嫌いなんだけどさ、どうもあのこもんは嫌いになれねぇ」


 こもんの先生の気持ちが、植田くんを変えたんだね。


「先生、オレみたいな反抗期男子のこともみすてずに、ちゃんと話聞いてくれるから。あの人のためにがんばりてぇって思えるようになったんだ。そのきっかけになったもんだから、失くすのは嫌だなって」


 それは、なんとしてでも見つけなくちゃ。あたしは、いきおいこんで言う。


「ぜったい、見つけよう。あたしたちも、手伝うよ」

「うんうん」


 高森さんもうなずいてくれた。よし、どこから探そう? そう思っていた時だった。


「盛り上がってるところ、申し訳ないけど。その必要はないよ」


 声がした方をあたしたちはふり返った。そこには、陽人くんが立っていた。


 あたしは、視界の端で蒼太くんがステッキ状態のスズさんを持って教室を出て行くのをとらえた。蒼太くん、スズさんとどこへ行く気なんだろ。


 陽人くんは蒼太くんが教室を出て行くのを気にもとめない。


「その必要はないって……。どういうことだよ?」


 植田くんはふきげんな声で言う。陽人くんは笑って言う。


「そのままの意味。僕が探してあげるよ、魔法でね」

「魔法ぅ?」


 植田くんは呆れた表情を浮かべている。そりゃ、そうだよね。いきなり魔法でなんて言われても、信じられないよね。


「おい、広瀬。魔法なんて、本気であると思ってんの? そんなの信じるの、幼稚園までだろ」


 植田くんが信じていない口調で言う。すると、陽人くんは大きなためいきをつく。


「魔法を信じられない人には、魔法を使ってあげられないんだけどな……」

「だから、魔法なんてねぇよ。本の読みすぎだろうよ」


 植田くんがそう返すと、陽人くんは首をすくめてこちらに背を向ける。


「信じられない人に、魔法を使う価値はないね。じゃ、がんばって探せば?」


 そう言ってさっさと教室から出て行ってしまう。


「なんなんだよ、あいつ」


 植田くんは腹立たし気に言う。


「……そういう性格だからな、気にするな」


 別の声がして、あたしたちがまた教室のとびらの方をふり返る。そこには、教室から出て行った蒼太くんがいた。


 彼は、まっすぐあたしたちのところまで歩いてくると、植田くんの机の上に何かをおいた。それを見て、植田くんが大声を出した。


「おま、お前! これ、どこで!?」


 あたしと高森さんも机の上に乗せられたものを見る。それは、必勝祈願と書かれたお守りだった。



 

 


 


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