陽人くんとの会話
「ちょっと来るのが早かったかな」
陽人くんは、申し訳なさそうな顔であたしに言う。あたしは、急いで首を横にふる。
「ううん、全然っ」
正直、とりまきの女子たちと別れるのに時間がかかると思ったからもっと来るのは遅くなると思ってたけどね。
「さっそくなんだけどさ。……月島さんって、魔法が使えるのかな」
わあ、いきなり本題に入ってきた。
「信じてもらえないかもしれないけど、僕、魔法が使えるんだ。そういう家に生まれてね。……だから僕、分かるんだ。自分以外の人が近くで感謝の証を受け取った人がいたらすぐに」
ああなるほど。だから今朝、蒼太くんもあたしに声をかけてきたんだ。あたしが誰かから感謝の証をもらったって感じたから。
あたしが一人でうんうんとうなずいていると、陽人くんが心配そうに顔をのぞきこんでくる。
「えっと……、だいじょうぶ? 気分悪い?」
わあああっ!? い、イケメンの顔がすぐ近くにっ!? これは、恋愛経験がほとんどないあたしには、キビシイものがある。心臓ばくばくだもん。
「い、いや何もないよ。えっと、あたしが魔法を使えるかってことだよね」
あたしが聞き返すと、陽人くんがうなずく。あたしは考える。正直に言った方がいいのかな。それとも、隠した方がいいのかな。
あたしが悩んでいると、陽人くんはふんわり笑って言った。
「むりに言わなくていいよ。僕、今までに魔法が使える友達が近くにいなかったから、もしそうだったらうれしいなって思っただけなんだ」
ああ、そんなこと言われたら話したくなっちゃう。友達って言われちゃったらもう、友達になりたいもん。いっぱいお話したいもん。
「えっと……」
「近くに魔法が使える人がいないから、魔法についての情報を共有することもできなくて、困っている人を探すのも大変でさ。僕はただ、近くにいる人たちには幸せでいてほしいなって思ってるだけなんだけど」
陽人くんはあたしを気にせず、話し続ける。
「まあ、急にこんなこと言われても困るよね。気が向いたら月島さんの話、聞かせてよ。僕はいつでも待ってるからっ」
それだけ言うと陽人くん、あたしに背を向けて帰ろうとする。ああ待って! せっかくのチャンスをあたし、棒に振るの!? ここでもしあたしが話さなかったら、もう二度と陽人くんは話しかけてきてくれないかもしれない。そんなの、悲しすぎる。
せっかく、向こうから話しかけてくれたんだもん。なんとか話をつながないと!
「えっと、あのね、広瀬くんっ」
あたしが陽人くんの背中に声をかける。すると、陽人くんが走って戻ってくる。
「あたし、魔法は使えないの」
「え?」
あたしの言葉に陽人くんが目を丸くする。そして、首をかしげる。
「おかしいな、感謝の証を月島さんが持ってるように見えるんだけど」
「あたしが受け取ったって、感じることができるの?」
陽人くんは最初、自分の近くで感謝の証を受け取った人がいたら気づくって言った。でも、それが誰かまではっきりわかるのかな。
陽人くんはぽんと手を打った。
「ああ、誰が受け取ったかすぐにわかるわけじゃないよ? ただ、最近感謝の証を受け取った人には、魔法が使える人にだけ見える印みたいなのが浮かび上がるんだ」
「あ、それであたしが感謝の証を持ってるって分かったんだね」
「そう」
それなら、理解はできる。
「あたし、魔法は使えないの。だけど、感謝の証なら受け取ったよ」
肝心の感謝の証は、スズさんに吸い込まれちゃったけどね。陽人くんはあたしを見つめる。まずい、またどきどきしてきた。
「それじゃ、魔法が使えるのと変わらないよ。どう、僕と一緒に困った人の手助けをしない?」
陽人くんがあたしに笑いかけてくる。ああ、この笑顔を独り占めしたい!!
そう思ったあたしは思わず、うなずいていたんだ。
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