協力者と敵の影?
人をしあわせにする覚悟
家に帰ると、あたしはまず自分の部屋に行って、長井さんからもらった包みを開けてみた。
そこには、いくつかチョコレートが入っている小さなびんと、メッセージカードが入っていた。
『色々と助けてくれて、ありがとう。よかったら友達になってください』
そうきれいな字で書かれたメッセージカード。あたしはそれを優しく持ち上げる。スズさんがリュックサックから出てきて、あたしに言う。
『よかったな、人助けもできて、友達までできたやん。いいことだらけやな』
「そうだね。あとは、スズさんの足りない部品の情報が見つかることを願うだけだね」
『そう簡単に見つかるわけないやろ。ゆっくりがんばろ』
スズさんの言葉に、あたしはうなずく。それからメッセージカードを勉強机の引き出しの中にしまおうとした。その時、メッセージカードからオレンジ色の小さな光が浮かび上がったかと思うと、ステッキ状態のスズさんに吸い込まれていく。
「え? 何?」
あたしがおどろいていると、スズさんが得意げな口調で言う。
『これが、感謝の証やな。これがたくさん集まれば集まるほど、そのステッキはたくさんの人を幸せにしたってことや』
「でもあたしたち、魔法で解決したわけじゃないよ?」
『魔法で解決したかどうかは、重要じゃないみたいやな』
それじゃ、とにかくたくさんの困っている人を幸せにすればいいってことだよね。よ、よーし、がんばるぞ!
長井さんを幸せにできたから、少し自信がでてきたみたい。これなら、スズさんと一緒にやっていける気がする。とはいえ、まだ蒼太くんを説得はできてないわけだけど……。
あたしは、大きくためいきをつく。人を幸せにするためにどうしたらいいか考えるより、蒼太くんを説得することの方が難しい気がしてきた……。
『そんなに顔をしかめてたら、ホンマにそんな顔になってまうで』
スズさんの言葉に、あたしは自分の両ほおをたたく。悩んでる場合じゃない。少しずつでも前に進まなきゃね。
『とにかく一つ前進や』
あたしとスズさんは、まずはこの前進を喜ぶことにした。
次の日の朝。学校に着くと、くつ箱に蒼太くんが立っていた。腕組みをして何かを考え込んでいるみたい。誰かを待っているのかな。
そう思いながら、蒼太くんの前を通り過ぎようと思ったら。
「……おい」
低い声で呼び止められた。もしかして、あたしに言ってる?
あたしが足を止めて、蒼太くんの方を振り返る。すると、彼は冷たい目であたしをみすえて、静かな声で言った。
「……お前、昨日誰かに感謝されたか」
びくんとあたしの心臓がはねる。なんで、蒼太くんの前だとこんなにきんちょうするんだろう。それになんだか、彼と会話しようとすると急に寒くなるような気がする。
とにかく何か言葉を返そうと思ってあたしが口を開きかけた時だった。
「おはよう、月島さん!」
蒼太くんが立っているよりさらに後ろから声をかけられて後ろをふりかえると、そこには長井さんと田中くんがこちらに歩いてくるところだった。長井さんはあたしにかけよってくると、あたしにだきついた。
「月島さん、本当にありがとう! 田中くんとのきょりがちぢまった気がするの。月島さんのおかげ。感謝してるわ」
あたしは長井さんにだきしめられながら、蒼太くんを見た。彼は、一瞬戸惑った表情を浮かべていたけれど、すぐいつもの無表情に戻ってしまった。
ああ、せっかくかっこいい顔してるのに、なんだかもったいない。
長井さんはあたしからはなれると、あたしと蒼太くんを見比べた。
「あら。珍しい組み合わせね。おじゃまだったかしら。じゃあ、月島さん、あとで教室でね」
そういうと、長井さんは田中くんと仲良くおしゃべりしながら教室へと歩いて行ってしまった。ああ、あたしを置いていかないでよ! 氷の王子と残されたって困るんだよおおおおっ!
そんなあたしの気持ちは置いてきぼりで、取り残された蒼太くんと、あたし。
「……なるほど。誰に感謝されてるのかは、分かった」
ぼそりと、蒼太くんが言う。そしてあたしに向き直ると言った。
「……本当に、人を幸せにする覚悟が、お前にあるのか」
その表情と言葉の意味は読み取れない。あたしは、少し考える。人を幸せにする覚悟。それって、一体、どんな覚悟なんだろう。
あたしがその意味を考えていると、蒼太くんは何も言わずに小さくため息をつくと、あたしに背中を向けて去っていった。
その背中が、少しだけあたしにはさびしそうに見えた。
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