初めての人助けまで

意見を言えないあたしと。

 あたしは、へなへなとその場にくずれおちた。いやいや、あの氷の王子が元々の持ち主だったなんて! 魔法とは程遠い感じがするけど。


 それより、あの蒼太くんにいったい何を話せばいいって言うんだろう。あたしが首をひねっていると、スズがおじいさんに言う。


『蒼太に何を話せばええん? 魔法でみんなを助けへんかって聞くん?』

「そうだ。アイツと一緒に行動する方がいい。色々と魔法について詳しいしな」


 おじいさんがうなずく。え? あの氷の王子を説得して、一緒にスズさんの足りない部品を探すってこと? そんなの、無理だよ。


『アイツ、絶対自分の意見は曲げへんからなぁ。いやって言ったら聞かへんもん』


 スズさんの言葉にあたしは、ぶんぶんと首をたてにふる。それは、あたしにも身に覚えがある。


 それは、ある四月のおわりのショートホームルームの時だった。担任の小山田先生がとつぜん、委員会決めをすると言ったの。クラスから各委員会に一人ずつ、委員会に入ってもらう人を選ばなきゃいけない委員会決め。先生のその一言で、教室はざわめいた。先生は部屋履きのスニーカーのつま先を鳴らしながら黒板の前に立つ。


 先生は全部の委員会の担当が決まるまで全員帰らせないと言い切ったの。学級委員以外は割とすぐに決まったんだけど、学級委員は全然決まらない。授業のたびに号令をかけないといけないし、移動教室の時なんかは、クラスの人を名前順に並ばせる指示を出したり、なにかとめんどうなんだよね。それに、放課後残って会議をしなきゃいけない回数が、他の委員会よりも多い。他の委員会は、月に一回の委員会会議しかないのに。だから、みんな嫌がってたんだよね。だんだんとクラスの雰囲気がピリピリし始めたのを、あたしは感じていた。その時だった。


「そういうのって、賢いヤツがするべきじゃないか」


 誰かの一言。それを聞いた他のクラスメートも次々に賛成した。それで、常に成績が上位の蒼太くんの名前が挙がったの。


 先生もおそらく、早く決めてしまいたかったんだと思う。蒼太くんの名前が上がるとにっこりした。


「それじゃ、広瀬くんお願いできるかな」


 本来なら、そこで蒼太くんが引き受けて終わるはずだった。でも、実際は違った。


「いえ、オレはやりません」


 蒼太くんはきっぱりと言った。先生がそれを聞いて一瞬不満そうな表情を浮かべていたのを、あたしは知ってる。


「でも、広瀬くんが学級委員としてクラスの人をまとめてくれると、先生も嬉しいんだけどな」


 先生、あきらめきれず、もう一押し。でも、蒼太くんの気持ちは変わらなかった。


「オレは、人をまとめる素質はないし、まとめる気もありません」


 それを聞いて女子や男子の一部が、冷笑していた。


「おおこわっ」


 だけど、その声がまるで耳に入っていないかのように蒼太くんは冷静だった。あの時思ったんだよね、蒼太くんって自分の意見がはっきり言える人なんだなって。


 そのあとのこともはっきり覚えてる。委員会決めをし始めてから三十分ほど経ってしまって、部活の体験入部に行きたい人たちが明らかにイライラし始めていたの。この時期、部活は体験入部期間中だった。自分が入りたい部活に体験入部して、それから入部する部活を決めるという時期。あたしも、早く部活動を見て回りたかった。それに、クラスのはりつめた空気がいやで仕方がなかった。だから。


 その時小山田先生と目が合ってしまって、先生に


「月島さん、やってくれるかしら」


 と言われた時断れなかったんだ。思えば、この時ほど自分の意見がはっきり言えなかったことをうらんだことはなかったかもしれない。でもあたしは、あたしを見つめるクラスメートの目が、こわくて仕方がなくて、結局学級委員になってしまったんだ。


 いやなものをいやと言えなかったあたしと、はっきりと断った蒼太くん。これだけ違いがあるのに、あたしは彼を説得できるのかな。スズさんの足りない部品探しを手伝ってほしいって説得できるかな。


 あたしの心は不安でいっぱいだった。









 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る