ステッキの提案
「しゅ、修業……?」
あたしは、頭がこんらんする。修業って、なんだろう。
『せや。ウチが一人前の魔法のステッキになるためには、必要なことやねん。協力してくれるよな』
ずずいっとあたしの鼻にくっつきそうなくらい近づきながら、ステッキさんが言う。
「修行って、どんなことをするの」
あたしの頭の中では、「修行」という言葉のイメージがうかんでは消えてをくり返していた。そこでは、腕立て伏せだったり、ひたすら走り続けさせられるあたしが見える。
『修行の中身は、かんたんや。たくさんの人を幸せにすればええねん。もちろん、ウチらが魔法を使えるってことは、ないしょでな』
それを聞いて、今まで見た魔法少女や魔女アニメを思い出す。たしかに、どのアニメも、自分が魔法を使えるってことはだまっている場合が多かった気がする。
『ばれたら、ウチがいろんなヤバイ奴にねらわれることになりかねへん。ま、ウチの力を欲しがる人間なんて、いくらでもおるわな』
たしかに、魔法が使えるようになるものなんて、欲しがる人はいっぱいいそうだよね。
『でも、一つ問題があるねん』
ステッキさんは、ひどく落ち込んだ顔をする。
『きれいな女には、とげがあるやろ?』
それを言うなら、きれいなバラにはとげがある、だと思うけど……。
そう言おうとしたけど、ステッキさんの大きなためいきにかき消される。
『実はウチな……、魔法が使えへんねん』
あたし、それを聞いてかたまった。本物の魔法のステッキだって言うのに、魔法が使えない!? それ、本当に魔法のステッキなのかな。
「それって……。実際、あなたが魔法のステッキじゃないってことじゃ……」
『ない。それは、ない。ウチはれっきとした魔法のステッキや。ただ、ちょっとこわれてしまってんねん』
ステッキさんは、あたしの手を取った。
『とにかく、まずはウチを修理できるところへ連れてってほしいねん』
魔法のステッキを修理できる場所? そんな場所、あるのかな。
あたしが首をひねっていると、ステッキさんは笑う。
『あるねん、ステッキを修理してくれる店が。その人ならきっと、ウチが魔法を使えるようにちゃーんと修理してくれるはずや。だから、連れてって―な』
すると、急にステッキのハートのかざりが光り始めて、少女のステッキさんはいなくなってしまった。ああ、数分しか、人間の姿になれないって言ってたもんね。
『この美少女をすくうために、手を貸してくれるよな』
あたしは考える。ステッキが無事に修理されれば、魔法が使えるようになる。そうしたら、あたしの願いもかなえてもらえるかな。
あたしの考えていることが分かったのか、声が続いた。
『無事に魔法が使えるようになったら、アンタの願いごとも一つだけ、かなえたるわ』
それを聞いて、あたしは思う。もし、本当に魔法が使えるようになって、一つ願いごとをかなえてもらえることになったら、何をお願いするだろう。
ふと、陽人くんの顔が浮かぶ。そして、わたせなかったバレンタインデーのチョコレートのことも。
そうだ、もし時間が巻き戻せるのなら、今日の朝まで戻してもらって、今度こそ陽人くんのくつ箱に、手紙を入れよう。そして、チョコレートをわたすんだ。
あたしの思いは決まった。
「分かった。それじゃあ、お店のところに案内してよ」
『まかせときっ』
ステッキさんの声はうれしそうだった。その時、あたしはあることに気づいた。
「そういえば、ステッキさん名前はなんていうの」
『ウチか? ウチはスズって言うねん。よろしくたのむわ』
「あたしは、ゆかり」
『それは知ってる』
こうして、あたしとスズさんは知り合ったんだ。
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