This Bird Has Flown
その夜のガールズナイトのマーブルたちの部屋は、更なる夏の思い出を作ろうという乙女たちの声が交錯するなか、地べたに座っていたテトが、
「オレ、マタ、木、タクサン、見タイ。ジャングル」
などと、裂けた口で笑うようにしてハッハッと息をはずませれば、
「少年、とんだ野生児だなー」
「テト……ねぇ、アスナさん、どっか、いい場所知らない?」
マガネは呆れ、共にベッドに腰かけたマーブルが、自らの人造人間に微笑むと、アスナに問いかける。
椅子に座っていたアスナは、「んー。公園星みたいなとこだよねー」などと、瞳もクルリと唇に手をやったが、
「あるにはあるけど……こっからだと、遠いし、魔物も、うじゃうじゃしてるとこしか知らないかなー」
「そっかー」
そして、マーブルが残念といったふうにすると、ふと、思い出したようにしたアスナは、
「あっ。そうだ。あ、あの~、ここ、トルバナ、すぐでたとこに、ゆ、『幽霊の森』って、言われてるところなら、ある、ケド……」
「えっ? なにそれー! おもしろそう」
途端に反応をしめしたのは、見るからに姿もホラーな黒いセーラー服だ。
「……いる魔物は、大したこと、ないんだけど。森の奥の方に、山小屋があって、肝試しとかに使われたりするけど……」
「いーねー。いーねー。それ、夏って感じじゃーん!」
「え~。マガネちゃん、そういうの、好きなのー?」
「こいつのこれは、結構、筋金入りよー」
「キモダメ? ッテ、ナンダ?」
「ほら、少年も知らないわけだし、なら、マーブル、いいんじゃない?! 夜にさ……!」
そして、マガネが盛り上がり、話を進めようとする否や、「よ、夜は絶対、嫌っ!!」と、遮るようにしたのはアスナであった。いつもと違う雰囲気に、他の三人が少々驚くようにしていると、
「わたし、苦手なの。とっても……!! その、オ、オバケ……」
ハーフアップは目も泳がし、恥ずかしそうに俯いてしまい、
「だから、お昼間、なら。それにね、大したことなくても、魔物って、夜は少し危なかったりするし……」
そして、そんな姿に、「……お姉たま、かわぅぃぃいっ」などと、マガネが抱きついたと思えば、その顔面は、上着ごしの胸部にダイブなどしていて、「あん、もぅ」と、迎えるようにアスナがすれば、すっかり百合、といったところだったが、
「オバケ? ッテ、ナンダ?」
などと、人造人間が問いかけるなか、「……よーし、話まとまりー」などと、マガネは、アスナの胸から立ちあがった。
「じゃあ、お姉たま、お送りしてきまーす」
「はいよー。アスナさん、またねー」
流石に大事な「試験」とやらの予定がアスナにあるのなら、ここ最近のマガネも聞き分けもよく、
「ごめんね……あげれなくて」
「いいってーいいってー試験終わるまでの我慢ーっ」
去り際にマーブルたちに手を振り、やがてマガネを見上げたブラウンの瞳が呟く乙女心に、欲望も丸出しにしたギャハハという笑い声とともにドアが閉まるのは、相変わらず、といったところだった。
ある日の昼下がり、城塞の出入り口となる箇所で、行き交う人の間を通り抜け、青々とした草原のなかを、のどかに笑う乙女たちと、ハッハッと犬のように息遣いをする人造人間一行が、アスナのナビのままにしばらくも歩けば、なるほど、そこには森林浴にもよさげなこんもりとした森がひろがっているのだ。
亜熱帯とも違う雰囲気の自然の光景に、早速、テトの興味も津々といったところだったが、
「ねえ、聖騎士さん、やっぱり、それ、必要なのー?」
などと、マガネがアスナに改めて問うたようにしたのは、普段通りの装備と、いつもの赤い鞘の得物のことだった。
「当然よ。わたし、ハンターだもん。害ないっていったって、万が一、ってことがあるでしょ? ましてや、異星(よそ)から来たお客様に、怪我させるわけいかないもの」
アスナはどこまでも職務に真面目だ。そして、
「あー。アスナさんっ、そうそうっ。この子、この星に永久移住みたいなこといってたよーっ」
「えっ」
「マ、マーブル~……」
そんな二人のやりとりに気を利かしたのはマーブルであったりすれば、柄になく、少し動揺したのはマガネのようだったが、
「ま、ここからは、ばらばらにいきましょっ。テトー、おいでー」
「ガウー」
わざわざ違うルートを見出そうとすれば、尚、アスナが、「マーブルちゃんっ!」などと心配げであったが、
「いざとなったら、テトもいるからだいじょうぶ~」
と、振り向くことなく、マーブルは手をひらひらとさせて応じるのだった。
実際、森のなかにいる生き物といえば、見かけるのはリスにも似たなにか、程度のもので、はしゃぐテトがなにか大きなペットの散歩のようであれば、落葉樹の世界のなか、乙女の心も和み、夏満喫、といったところだった。
ただ、木立のなかを、鹿にも似たなにか、の影がよぎった刹那、「ナンダ?! ナンダ?!」と、テトは飛び出すように駆け出していってしまうではないか。
「テト~」
そして、マーブルが苦笑交じりに、その後をゆるりとついていき、森の奥へと更に踏み込まんとしていったとき、久々にアスナの喜悦の声が響いたような気がして、つい、その方向に足を向ければ、やがてマーブルの目に入ったのは、木漏れ日を、その可憐な肌で照り返させるようにしながら、アスナが生まれたままの姿となっていれば、それを夢中となって貪っている黒いのは友の姿ではないか。
木の年輪に手をおいたような立ち姿勢で、振り向いて見つめるアスナは愛おし気に、また、その視線の先で立膝をつき、恍惚としているマガネのその足元にも、しっかりシートは敷かれ、聖騎士の装備などが几帳面に置かれている。
(……やれやれ)
やはり、まだ、テトには刺激が強すぎるなどと思いながら、とりあえず理解ある友として、マーブルはこっそりとその場から離れ、「テト探索」に勤しむのだった。
こうして、ほどなくしてマーブルも、木の上によじ登って悦に入っているテトなど見つければ、異国の森林探索の楽しみに時間も忘れていく。ただ、ふと、携帯端末が鳴ったので、何事かと思うと、それはマガネからであり、『お姉たまと、話あるから、今日はこのまま解散ってことで……』などというメッセージがあっても気にはしなかったものの、それは夕餉となり、室内で、ローカルのネットテレビなどをホログラムに映しながら、テトとの会話は盛り上がり、隣の部屋がやけに静かであれば、流石に少しは気になった。
やがて、二人が寝静まる頃、マガネから『部屋、いってい?』などとメッセージが入れば、寝ぼけるようにマーブルが返すと、ほどなくして、自動ドアは開き、暗闇のなか、ヒタリヒタリと部屋に入ってくる黒い姿はまるでオバケだったが、そして、椅子に腰かけたところで、マーブルは、ぼうっと、軽く照明をつけてやったのだ。
そこには、いつになく、少し思い詰めたような友の表情があった。が、
「どしたー? アスナさんとなんかあったー?」
などと、マーブルが呑気に問いかければ、
「……マーブル、この星、でよう」
重く響くマガネの声は、柄にもない。
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