ガールズナイト

 とりあえず、アスナも連れたマーブルたちは、宿の外へとでることにした。


 喧噪ひしめき合う店をでてしばらくすれば、夜空を緩やかに飛んでいく飛行物体たち以外、行き交う人並みなどもそれなりに落ち着いた夜の街は、そこが古都であることを物語っているかのような威厳さだ。


 ふと、しばらく行ったレンガ造りの橋のふもとまで来ると、アスナは自らの携帯端末を取り出し、画面をしばしなぞった後に、やがて現れたのは、ショートボブでスーツ姿をした中年女性の立体映像である。

 不愛想な顔つきは、腰元に帯びた剣の存在などで、余計に仏頂面に見えたものだが、


「あっ、母さん、まだお城、だよね。お仕事中に、ごめんなさい……」

『なに、あなた、まだ、家に帰ってないの?』


 アスナは、その者の姿を見た途端、愛想よく笑顔を向けたのだが、アスナの母は構わずに表情を険しくしている。


「うん。実地のあと……実は、個人練してたの。で、たまたま、そこで居合わせたハンターの人たちと狩ることになって……仲良く、なれたのね? で、今日は、その子たちが泊ってるところに泊まろうと思って……」

『男、じゃないでしょうね?』

「ううん! 違うよ! みんな女の子!」


 そして、申し合わせたタイミングで、横から次々に、「こんばんはー!」「……ちぃーっす」「ガウ」などとマーブルたちが飛び出したので、

「……あとは、ロボットの子が一体」

 と、アスナは付け足したのだが、その光景にスーツ姿は、『フン……』と一言、鼻も鳴らすと、


『学校は?』

「明日、この子たちのところからちゃんといきます」

『あたりまえよ。アスナ、あなた、最近、浮ついてるわよ。白樫の人間たる者、王のため、この国、そして星のためになることを第一に考えなさい』

「はい……」


 神妙に答えるアスナの隣では、マガネが、「こうるせーババアだにゃー……」などとボソリと呟けば、「こらっ」とマーブルが小声で諫める。そして、もう一度、『フン……』という一声が映像からは響いたものの、

『そういうことなら、もう、遅いんだから、早く寝なさい』

 と、だけ告げると、一方的に通信は切れてしまった。


 刹那、空気を変えるように、アスナは、フッと一息つくと、

「母さんに、ウソ、ついちゃったっ」

 などと、マーブルたちに明るく振り向いた後、


「……見た通りと思うけど、わたしの母さん、古い、んだよね。わたしが、男の子、じゃなくて、その……女の子と、仲良くなったなんて知ったら、腰抜かしちゃうかもっ」

 などなどと、続けるではないか。そしてブラウンの瞳が恥ずかしげにマガネに視線を移せば、闇夜のなかの黒いセーラーは、ニマァ~と笑い返し、それはそれは不気味な妖怪女の様相を呈していたものの、二人が自然と手すら握り合い、ロマンティックな街並みも相まえば、美女と野獣ならぬ、美女と妖怪女といった雰囲気であったが、熱く見つめあう二人の世界を前にして、ただただ、マーブルができたことと言えば、苦笑とともに、


「テト、いこ」


 と、従者を促すことくらいだった。


二十四時間営業の雑貨屋を物色し、AIの管理するカウンターなどで会計を済ませると、その一式を自らの圧縮カプセルに収めたアスナは、「お泊まりセット完成っ」などと、マーブルたちに向ける笑顔は、自らの母に嘘を通せたことを、むしろ楽しんでいる様子で、マーブルたちの部屋に戻れば、肩出しトップスにスカートを履いた、すっかり私服姿のアスナは、彼女たちとのガールズトークを存分に楽しんでいたのだが、これまでのマーブルたちの旅の流れを聞いた途端、


「えっ! テトくん、すごい!」

と、未だ、多少の包帯の傷残る人造人間に感心するのだった。


「ガウ……アスナ、ソウナノカ?」

「だって、はじめてで、そんな強い魔物を倒せるなんて、ハンター顔負けだよ!」

「だからさー。私もマーブルにゃ、ハンターになれんじゃねーの? って言ったんだけどさー」

「だーめ! この子は兵器じゃないの!」


 自らのベッドの上に胡坐をくんだマガネが体を揺らしながら、答えれば、椅子に腰かけたマーブルは、両の手にしたカップの飲み物を口元にやりながら、ピシャリと答える。


「……けど、すごいなー。わたし、はじめての実戦のときなんて、震えが止まらなかったけどなー……ねぇ、テトくん、怖くはなかったの?」


 そして、マーブルと同じように椅子の上で足も揃えたアスナが訪ねれば、地べたに座っていたテトは、「コワイ?」などと、首をかしげ、しばらく考えるふうにしていたものの、

「……コワイ、ナカッタ。マーブルハ、ゼッタイ守ル! ッテオモッタ。ダカラコワイ、ゼンゼン、ナカッタ」

「えっ?!」

「ひゅ~」

「あら~」


 テトの物言いが素朴であるからこそ、その想いを前に、乙女たちが年頃であれば、三者三様の反応を示すのも至極当然といった流れであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る