運命の交錯

 その日、ハンター組合所が緊急事態としたアラームと共に、Sunnysの各自の端末にメールが来る音を、モモたちははじめて聞いた。「緊急!」と銘打たれた、その依頼任務の内容に、「猛鬼」の文字が踊っていれば、五人は、秘密基地のリビングに集まるまでもなく、廊下で顔を見合せると頷きあったのは言うまでもない。


 そこは、銀河系連合加盟地域と、オノゴロ国が怒涛の侵攻を急に止めた矢先の、いわば互いの国境線となる宇宙空間に浮かぶ小さなスペースコロニーで、モモたちの宇宙船が駆けつけた頃には、既に居住区の半分に噴煙は上がっていた。そしてバリゲードテープの張られた周囲にて、コロニー所属の軍や警察の隊員たちが、少ない装備にジリジリしつつも、宇宙船の出発ゲートの一つから無理矢理侵入してきたという猛鬼たちのいる、濛々と煙立ち込める区域の方向へ向け、睨みつけていると、各自、ライセンスを掲示しながら颯爽と現れたハンターたちは、モモたち五人しかいなかったのだから、それにはモモたちの方が驚いたというものであった。


 宇宙空間をのぞむ天空を覆う、広大な特殊ガラスには、データーとしての青空がうす透明色に上書きされているような空の下、何棟も立ち並ぶ団地の群れの居住区自体は決してせまいものではない。ただ、モモたちが馳せ参じた時には、その半分を、たった数人の猛鬼で、あっという間に焦土に変えてしまったという目の前の事態は、彼らの恐るべき、でたらめな馬鹿力を物語っていて、それなりの修羅場をくぐり抜けてきたはずのモモたちの表情も、より厳しくなったものだが、

「なんだ。君たち、未成年じゃないか!いくらハンターとは言え……」

 などと制帽の中の一人が語りかけてくれば、

「大丈夫です! 私たち、Sunnysといいます!」

「え、もしかして、あのSunnysなのか……!?」

 凛として答えるモモの一言に、違う制帽が驚いて問いかけたのである。


 ブラックパルプンテの保管庫の爆破のみならず、反社会的勢力の巨大組織の一角を一網打尽に返り討ちにした彼女たちの存在は、今や、知る人ぞ知る存在だったのだ。長い髪をひらめかし、女剣士モモは尚も凛々しくコクリと頷くと、

「ここはわたしたちにお任せください! 皆さんは、住民の方々を、安全なところへ!」

「…………この情勢だ。我々は、本国から、見放されてしまった……。救援、痛み入る!」

 敬礼と共に隊員たちが各自の行動に取り掛かる頃、少女五人は円陣を組めば「おーっ……!」などと拳を一斉に掲げると、噴煙の中へと、今、ゆっくりと踏み込んでいくところであった。


 ヒュ~…………

 乾いた風すら吹く中、たまにひっくり返った戦車から上る夥しい煙や、生々しい遺体、パトカーのサイレンの光が鮮やかな事などが、事件の発生が間もない事を物語ってはいるが、団地の群れは、既にこの世の終わりのように荒れ果て、廃墟とすら化していた。埃に足跡をつけるようにしてモモたちが歩みを進める中、既に各自、それぞれの得物をもって身構えていると、

「目標ヲ捕捉シマシタ。現在、市民運動公園ニテ停滞中……データーヲ送リマス」

 コロニーのコンピューター機能に取りつき、情報収集を行っていたテオが、各自のインカム越しに語りかけ、端末には、マップと、敵の位置、そして生き残っていた防犯カメラを活かし、鬼たちの姿までをも添付してくるのであった。


「…………」

 少女たちがそれを覗き込むと、猛鬼である相手の数はSunnysのメンバーと同じ、たった五人しかいないではないか。そして彼らを運んだのであろう、別種の異星人の姿が二人ほど有る。その角が生えし者たちは、狩る事よりも、公園にある遊具などに興味を持ち始めているところのようで、周囲にいる猫背で小柄な、別種の二体が、手もみしながら、愛想笑いに、それらの設備の説明をしている模様だ。


「…………」

 背にある得物は大きな斧程度であるというのに、自分たちと全く同じ頭数でも、街の半分をあっという間に荒野にできる破壊力に、改めて五人は宿敵の凄みも感じたが、モモは、ふと、ヒルコとサクヤの方を見、

「……二人とも、もしもの時は……」

「うん……!」

「ヒルコたちの『愛の力』で吹き飛ばしてやろうかしら……!」

 モモの一言に学び舎の友であった者たちは以心伝心であった。こちらだって、たった二人で、何もかもを粉々に吹き飛ばす実力だって兼ね備えた仲間もいるのだ。


 だが、入念な作戦を練るには、時間は非常にタイトだ。ほどなくして五人が公園の敷地に入る頃、やがて目の前に現れたアスレチックジムでは、

「この様々なカラクリが一度に楽しめる木! 気に入った! 持って帰ろう!」

「部族の者たちも喜ぶだろう!」

「うむ。あの星は、あまりに緑がないしな。これなら草原を思い出す暇をも与えんし、訓練にもなる!」

「ああ! 刺激的だ!」

「……もしかすると、ややなど、特に喜ぶのではないか?」

 緑で、耳もとんがった猫背で小柄な者たちが手もみする中、大の大人の鬼たちが、夢中になって遊んでいるところであり、

「…………ふんっ!」

 既に「気」を充分に充満させていたクーが、地鳴らしのように一足踏み込んだ衝撃で、漸く猛鬼たちがモモたちに気づけば、

「Nice to meet you~……」

 銃口を向けたルーシーが、愛嬌ありげに、また涼やかに、語りかけたのであった。


 ただ、五人の鬼たちは、

「……なんだ。お前たち」

「確か……もっともか細い、地球人の一族……」

「ああ。あれで、最も強き、黒き王の、父君の部族らしいというのだから、この世も不思議というものだ」

 などなどと口々に言うと、またもや、遊具で真剣に遊び始める有様ではないか。

「なっ……! ちょっとっ! あんたたちっ!」

 そして聖剣を構えしモモが、語気を荒くすると、

「ハイデリヤの皆様、ここは、あなたがたの一番の家来である、ワタクシたち、サイバイ星人にお任せを……!」

 周囲で手もみし続けていた緑の小人たちが、相変わらず愛想よくしていて、

「ああ、俺たちは、今、部族のためになる、いいものを見つけ、確かめている大事な最中だ」

「やはり女は……尻に尻尾が生えてるに限る。……やれ」


 民族衣装から覗く鱗の尻尾を揺らめかし、相も変わらず鬼たちはSunnysには興味を示さず、

「そういうことだ! 地球人!」

 キャベツのような頭をした、緑の小人は主からの許しを得た途端、自らの手の平を五人に向ければ!

 

 BEEEEEEEAM!! 

 強烈なサイコパワーを打ち放ち、勝負は一瞬で決まると余裕でいたのは束の間!


 DON……………!! 

 乙女たちの周囲には、強烈なシールドが張られると、全ては打ち消された音をたてていて、そこには、尚、モモ、クー、ルーシーが、各自、能力なども発動させつつ構える中、シールドを作り出したサクヤと、彼女の肩先に絡まるヒルコの姿が、黒い髪ゆらめかす乙女の持つ三日月のシンボルの杖と共に、全身から光沢をはなち、敵たちを睨みつけていたのであった!


「な、なんだと?!」

 予期せぬ事に狼狽えたのはサイバイ星人たちの方である。更に矢継ぎ早にサイコパワーを発したが、矢張、全て、サクヤとヒルコの壁に阻まれ、

「ふわっちょおおおおおおおおおおおおおう!!」

 猛烈な一陣の暴風となったクーが瞬時に襲いかかれば、勝負は一瞬!


「ぐへ…………!」

「が…………!」

 次々と緑の者たちが白目を向き、倒れ、さて、いよいよ、本番の直接対決とばかりに、五人が更に顔をひきしめ、猛鬼たちに視線を移した頃、さっきまでの無関心が嘘のように、顔面を蒼白にしていたのは鬼たちの方で、

「光の剣……そして、一人は獣の耳……!」

「四人の異民族の、魔法の使い手の娘たち、現れし刻……!」

「ま、まさか、地球人だっていうのか?! あんな非力な者達が……!」

「だが、ドタール族の魔法のようじゃないか! しかも見ろ! 肩には異形まで伴っている!」

「ああ……そんな……だが、伝承通りだ……我らの世の終わりを告げる使徒、終焉の四天女…………!」


 鬼たちは、決して、モモたちの戦闘スキル自体に狼狽えている訳ではなさそうだ。難敵を前に、険しい顔は変えないでいながらも、心の中では「…………?」と、疑問符が絶えない乙女たちがある中、「おい……! お前ら! 起きろ!」と、及び腰ながら、鬼の一人がサイバイ人の元まで飛び出せば、そのすぐ近くにいたクーは間合いをとるために、瞬時に飛び去ったほどなのだが、

「ああ……まずい……世が終わる!」

「天女よ! お慈悲を……! お前ら、狩場に帰るぞ!」

「族長にも……オンサルの王にも知らせねば……!」

「お前ら起きろ!」

「船を漕げ!」


 今や、猛鬼たちは、何故かモモたちに恐れをなしながら、従者を二人かかえ、一目散に逃げ去ろうとするところであり、それを風となれば、辛うじて追いつけるかもしれない、クーが追いかけようともしたが、モモが一先ず深追いは禁物と留めた。ただ、

「…………?」

 五人は一様に、このあっけない幕切れに疑問だらけではあったのだが、

「……異形、って、女の子に、大変に失礼じゃないかしら……」

 などなど、ヒルコはボソッと乙女心が傷ついていた。今晩も、その心を癒すために、サクヤは文字通り体をはって、自らの肌が汗だくとなる事を覚悟しなければならなさそうだ。






海蒼し星ハイデリヤに、ドンとして浮かぶ大草原の巨大大陸、刃の海には、バルダム神殿と呼ばれる、巨石を精巧に積み上げた、まるで、かつて地球は南米にあった、ネイティブアメリカンの建造技術と非常に似通った手法で出来た、大きなピラミッドが存在していた。地下深くまで入り組んだ通路の果ての最深部は、ただ、だだ広いだけの空間しかなかったのだが、古来から草原の神がおわす場所と考えられていて、全ての部族の「聖地」だったのだ。立地は、モル族の狩場の中に、常に歴然と位置していて、「光の祈り」と呼ばれる、全部族が神に祈ると決められた日などには、無論、モル族たちは神殿にまで出向いて祈ったが、他の部族たちは、自分たちの狩場から、その方角に向けて祈るしかないものだった。


だが、王を宣言した後のカムイは、全ての部族に「そもそも、ただの空間だ。祈る事などない」などと、言うなれば宗教からの脱却も図ったのだが、今や、一つの国となり、かつてより部族間の狩場も自由に行き来できるようになった中、巡礼のために神殿にやってくる部族たちの足取りは絶える事もなく、結局、カムイは肩をすくめてみせると、諦めるしかなかったのである。


 ただし、かつて神への祈りに熱心であった母、巫女シリナのように、カムイ自体が神殿に訪れる事は、尚、一切なかった。


ただ、ある日、ピラミッドに、ハイデリヤの現地宇宙生物、この星で言うところの、魔物 たちが蔓延りはじめたという事件が起こると、カムイは、愛馬の黒いヤックルに乗り、自ら数十人の部隊を率いると、王になってからは初めて、オンサルから神殿へと向かったのである。その内訳は、カムイの黒づくめの鎧姿の傍には、赤づくめのアスカの女武者姿があり、他にも各自、思い思いのカラーリングが施された鎧を着込んだ者たちで、全ては、アスカと側室である王妃たちで固められた、名付けて「国母隊」の陣営だったのだ。


魔物たちは、地下深くまで潜り込んでいた! やがて一行は、その奥深くまで突撃したのだが、カムイの妃たちは皆、かつては各国の手練な女性軍人であった者ばかりである! 護国の為に愛用していた自らの武器たちを奮う姿もある中、配給された武器が、剣や弓といった原始的な得物ばかりであったにせよ、魔術に使う杖なども巧みに、持ち前の超能力をも活かした王妃たちに、魔物たちは次々と、掃討されていく! その鮮やかで勇敢な手口ばかりの姿の中、アスカは、ふと、隣にて、負けじとバッタバッタと狩っていく黒王に、

「ねぇ! ここって! 今までもこんな事あったの!」

「いや! これまで虫一匹、舞っていなかったはすだ!」

 問いには、王は余裕で首をかしげながら、冴えわたる、まるで日本の侍のような剣技は舞っていた!


奇妙な事件ではあった。ただし、聖地に突如としてふってわいた猛獣たちを掃討し尽くし、茜色の空の下、大都オンサルに、王と「国母隊」が凱旋する頃、いくらカムイの王妃たちであるとは言え、異民族ゆえに、未だ色眼鏡の者たちも少なからずあったとしても、出迎える猛鬼たちのそのほとんどが、色とりどりな井手達の彼女たちの姿を、数多くの彼らの神話の中から、各自を戦の女神たちになぞらえてみせたりして、讃えたのだ。


 夜、アスカを筆頭とした王妃たちと大きな円卓を囲み、食事を楽しむ事は、今のカムイの日常の風景とすらなっていたが、その日の夕餉は、掃討成功の祝宴で、いつも以上に盛り上がり、カムイは、酒も回れば上機嫌であったりして、

「いい! 実にお前たちはいい! この世で賢く強い女は、かかさまだけとも思っていたが、なんだ、お前たちもそうではないか! はやく言えばいいものを! これからも、オレは、アスカの次に、お前たち全員を、愛でてやるぞ!」

「……王〜?」

 相変わらず身勝手な物言いを繰り返すものである。カムイの傍が定席のアスカは小言のひとつも返そうとしたが、他の妃たちは、皆、苦笑しつつも、穏やかな目線を彼女に向け、首を横に振った。そして、かっ食らい続ける王が、ふと、舌づつみを打つと共に、

「レム!」

 などと側室の一人に呼びかけ、青い髪に、小さな一本角を生やした小柄なショートヘアーが「は、はい!」と答えると、「お前の作ったこの味、美味いぞ! 大義だ!」などなど、更に満悦な顔をしてやれば、「ありがとうございます!」と、乙女は天にも昇るようにしていた。そんなやりとりにも、アスカたちは笑み浮かべ、顔を見合わせるだけで、今の王妃たちの間には、穏やかな人間関係すら構築されていたのである。


 やがてカムイが泥酔し、円卓の机上に突っ伏して大いびきをはじめてしまえば、王妃たちの女子トークのはじまりだ。


「……ほーんと、よっぽど、ママ様の事が大好きだったんだろうねー……」

 アスカは、カムイの寝顔をじっと見つめ呟き、

「そうですね……」

 エミリアも同じようにしつつ答え、

「……シリナ・モル殿。聡明な巫女であられたようですからね」

 金髪でポニーテールをした、地球人風の容貌ではあるが、実は全く別種の宇宙人の乙女が、落ち着いた口調で続きを語り、カムイの元までやって来ると、その姿を抱き起こそうとする。


 妃である乙女たちの中でも特に体格のよい彼女にかかれば、筋肉質ながらも細身の王は、軽々と宙を舞った。と、意識を戻した王は、その横顔に、

「ん……ダクネスか」

「はっ。陛下、こんなところでお休みになられては、お体にさわります」

 

 王にダクネスと呼ばれた乙女は、武装はすでに脱ぎ去っていたが、主君に忠告するように凛々しく答える姿は、まるで、かつてはいづこかの一介の女騎士であった事を彷彿とさせた。だがカムイは、寝ぼけまなこなままに、唐突に手を伸ばすと、アスカや、もしかすると、エミリアよりも豊かに実っているかもしれない彼女の胸を、むんずと掴み、もの凄く乱暴に揉みはじめたりするではないか。

「ああ…………っ!!」

「こ、こらっ! バカカムイっ!」

 途端にダクネスは悲鳴のようなものをあげ、その光景に皆が赤面する中、アスカが代表して、その乱暴を叱ろうとしたのだが、

「よ、よろしい……のです……っ! ひ、光の妃様……っ」

 今や、遠慮なく側室の妃の肩にしな垂れかかりながら、更に、乱雑にこねくり回すようにしているカムイの弄り方に、頬も真っ赤に瞳も潤ませ、語尾のトーンをひっくり返しながら答えるダクネスは、なんだか、それがもっと激しくなってくれる事を期待しているかの様子ですらあったのだが、

「夢を……見た。子であった頃、闇の中、ひもじかった頃のだ……」


 カムイのその一言には、そこにいたどの巨乳も、胸がキュンとなる共通の経験があり、

「皆、今宵は、誰一人、オレの側から離れる事を許さん……」

 などという無茶な命令には、尚、乳を鷲掴みされ続けているダクネスも、正室アスカも、エミリア、そして料理の腕を一際にふるったレムなどなども、互いに苦笑のままに顔を見合わせれば、観念するほかなかったのであった。


 その夢の詳しい事は、カムイ本人、誰にも語りたがらずにいれば、アスカすらも更に聞く事は憚られたものだが、普段は、王と光の妃のみが眠る、マンモスの毛皮の巨大なベットは、今や、その他の妃をも含めて、ひしめき合っている有様で、悪夢に気分を害した時のカムイに対し、各自がそれぞれのやり方で、まるで交替するように慰めてやる中、やがて安らかに寝息をたてはじめた王の周囲では、再び、関係良好な妃同士のトークも弾む、平和な女子会ナイトも繰り広げられたりもし、もしかしたら、この時のカムイは、人生の幸せの絶頂にいるのかもしれなかった。


 ある日、モモたち、Sunnysと遭遇し、彼方の星から慌てて帰るようにしてきた鬼たちは、謁見の間にて、顔色も青ざめて、カムイに「終焉の四天女」の伝承となぞらえ、モモたちの事を語れば、

「魔法なら、この光の妃ですら使えるじゃないか! 偶然だ! そ、そんなもん、カビの生えた迷信だ!」

 隣の玉座に座るアスカを指さし、カムイはなんとか否定しようともしていたが、神をも信じぬ王すらも、流石に動揺は隠せていない様子ではないか。


 そんなカムイの横顔をアスカは眺め、

(へぇーっ。がんばってる子たち、いるんだー)

 などと思いながら、ただ、ただ、黙ってはいたが、銀河系一の力を有しているというのに、とかく御伽噺のような伝説に、真剣に狼狽えてみせたりもする、この民族たちの姿は、少しばかり滑稽ですらある。今や国母でもあるアスカは、眼前の自らの民たちも見、こんな無垢な心の持ち主たちに、銀河を征服する事などは、どだい無理だと、改めて思ってもみた後、

(……さーて。王様、そろそろ、ほんとに色々考えないと、かなーっ?)

 尚も口にはせず、愛しい者の横顔を、再度じっと見つめてみたのだ。


 その日も、宮殿にさしこむ太陽の陽射しすら眩しい、穏やかな青空の事だった。


 ハイデリヤ全土に、疫病すらをも流行らす「死風」と呼ばれる日々は、ある日、突然、吹いたのだ。


 嵐が吹き荒ぶ事は絶え間なく、空から青さは消え、海は灰色にうねった。星特有の流行り病は、次々に、鬼たちの命を奪っていく。そして、カムイの王妃たちも、ハイデリヤの、時に、牙を向く草原の大病の毒牙からは逃れられなかったのだ。


 エミリア、レム、ダクネスは辛うじて病にかからずにすんだが、とうとう毒牙は、アスカの体を蝕んだ。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る