第6話 これ写真と違わない?
という訳で、最高ランク装備を手に入れるため、憧れの聖地を一目見るため、やって来ました魂源の零域。
ここに広がるのは俺の明るい未来。の、はずだったんだが……。
……何か様子がおかしくない?
ゲームでは色とりどりの花に囲まれた、どこかギリシャのパルテノン神殿のような柱に支えられた、いかにもな建物があるはずだった場所なんだが……。
花などどこにも見当たらず、剥き出しになった岩肌が寒々しさを演出する。
花の代わりとばかりにまず自然界でお目にかかることはないだろう、日光をギラギラと反射する銀色の葉と実をつけた木が数本立っていた。
俺の記憶では神殿は白一色だったはずなのだが、汚れているのかどこか黒ずんで見える。しかも所々に罅が入っていたり崩れた箇所があったりと、とてもではないが神聖な場所には見えない。
閉ざされた扉は外界との関わりを全て断とうとしているようで、温かな光景など想像することもできない。
ええ ……、何ここぉ……。
たくさんの花びらが舞い散る中、共に旅した仲間達に祝福される結婚式の情景はどこに。
観光名所を見に行ったら予想と違ったどころか工事中で入れなかった、みたいな気分だ。うおおお本物を見せてくれええええ。
いや、本当に何だここ。俺の記憶と照らし合わせても建物の形くらいしか共通点がないぞ。
そりゃゲームをやったのは結構前だし、内容を全部完璧に覚えてるわけではないが、それにしたってここまで違う光景が広がっているというのはおかしいだろう。
もしかして、時期の問題か? ストーリー開始からエンディングまで結構な時間が掛かるはずだ。俺が想像していたのは未来の姿で、今の時期はこれが正常だった、とか。
いやでも植物はこれから生えるかもしれないけど、建物がボロボロなのはどうなんだ。普通時間が経つほど劣化していくだろう。
今はこんなだけど結婚式前に神殿を補修していたとか? だけどこんな場所にある寂れた神殿を、わざわざ建て直して結婚式場にする理由がどこにあるのだろうか。
というかよく考えたら、何でここが結婚式場に選ばれたのかを知らないな。
レイの生まれ故郷に近い神聖な場所だからかと思っていたけど、思い返してみればゲーム内で特に説明もなかったし
うーん……。どうしよう、あれこれ考えたけど予想外の光景にテンションが下がってしまう。
せっかく思い入れのある場所に来たというのに、見たいものがそこになかったなんて。
ええい、そもそもここに来たのは装備を手に入れるのが主目的なんだ。そっちに集中! こうなったら芋虫相手に意地でも無双してやらあ!
エンディング後に来たら、今度こそ想像してた景色の中で結婚式見れるかもしれないしな。そうなった時は、招待状はもらえないから遠目に眺めさせてもらおう。
未練を断ち切るように頭を振って……。さて、確か宝箱は神殿の入り口近くにあったはず。
神殿の中はまんまよく見る教会様式の結婚式場になっていたはずだが、ここならどうなっているんだろう。好奇心に駆られて扉を開けてみようとしたが、鍵がかかっているのか、俺が非力なのかはわからないが開かなかった。また力不足かよ……。
しかし、改めて近くで見ると本当にボロボロだな。
なんだろう、普通に経年劣化した のとは違って、表面が削られているような……。
っていかんいかん。今は宝箱に集中。
この辺りだったはずなんだけど……うん? 神殿の扉の横、支柱の陰に何かがある。あれなんじゃないか?
近づいみると、それは宝箱ではなかった。だけどこれには見覚えがあるぞ!
そこに転がっていたのは黒を基調とした三つの装備。
攻撃力もさることながら、攻撃時に確率で即死効果を発揮する短剣系統武器『
回避率と移動時のステルス性を大幅に高めるスカーフ型アクセサリー『
こちらも回避率と素早さに高補正がつく足用装備『
三つとも、ここに置いてあるはずの宝箱に入っていた最高ランク装備だ。
か、かっけえええええええ!
ああ、画面越しに見ていた装備を実際に拝むことができるなんて……、この感動をどう言葉で表せばいいのやら。
それにしても、宝箱に入ってないんだな。これもゲームとの差なんだろうか。まあ装備が手に入るのなら何でもいい。
さてさて、では早速装備させてもらうとしようか。 残念だがグリーブを持っていくことはできない。だって人間の足用だからな、蝙蝠の身体じゃ装備しようがない。
だが針とスカーフは装備可能! この即死武器さえあれば、ここらの即死耐性がないモンスターなんざイチコロって重ぉ!?
針を脚で掴んで飛ぼうとしたのだが、飛ぶことができなかった。
何だこの針、長さは二〇センチもないし、アイスピックみたいな細さだっていうのに、見た目と重量が一致してない。エクスカリバー(石製)の何倍の重さがあるんだ!?
それとも吸血蝙蝠が貧弱すぎるのか。ともかく、こんな重りを持ってちゃ戦闘なんてできるはずもない。
いいや、だが俺は諦めない!
即死させられるんなら上から落として相手にぶっ刺すだけで十分なはず! っていうかこのかっこいい武器絶対使うんだぁー!
バサバサバサバサッ! と、優雅さの欠片もない動きで羽ばたき続けていると、ほんの少しだけ針が宙に浮いた。
これならいけると、更に羽ばたきへ力を込めてそのまま徐々に高度を上げる。
キ、キツい! 人間だった頃の全力疾走よりキツい!
だけどその甲斐あって一〇センチ、二〇センチと……。必死にもがいて一メートル程の高さまで飛ぶことに成功した。
よ、よっしゃ。飛ぶことはできた。あとはこれを持ったまま森に
ツルッ。(脚の力が緩んで針を取り落とす)
あっ。
ガキーン。(神殿の階段にぶつかり針が弾き飛ばされる)
コロコロコロコロ。(微妙に傾斜がついた地面を針が転がっていく)
ポーン。(勢いがついた針が岩山の縁から勢いよく空へ飛び立つ)
慌てて縁から顔を出して下を見ると、針がほぼ垂直な岩壁を何度もバウンドしながら、眼下に生い茂る木々の中へと消えていくところだった。
お、俺の装備ぃいいいいいいいいいいいい!!!!!!
◆
まあね、あれだけ重かったら戦いでも使いようがないしね。うん、だからね……。
だから全然悔しくなんてないっ……!
落とした針はなんとか探し当てたが、木の幹に刺さってしまっていたし、やはり重くて持ち上げられなかった。
刺さったその木だけ葉が枯れ始めたのは驚いたが……流石最高ランクの即死武器、もし使えていたなら絶大な戦力になっていただろう。
元の場所に戻すこともできないので、その場に放置することになってしまっている。
レベルアップして力が上がれば持てるようになるかもしれないが、今はあのままにしておくしかない。
目の前に最高ランクの武器があるのにお預けとか……。場所は覚えてるんだ、絶対いつか使ってやるからな……!
予想と違う光景で一アウト、装備不可で二アウト、もう一アウトでゲームセットだ。頼むから何かいいこと起こってくれ。
針を探すため森に降りていたが、再び魂源の零域へ。捜索で時間を食ってしまったが、気を取り直して次に行こう。
次に試す装備はこれ。スカーフ型装備、
黒く黒く、闇という概念と同化するかのような黒一色の布地。今は昼間だから問題ないが、夜なら暗さに溶け込んでまったく見えなくなってしまうだろう。
夜闇を閉じ込めたかのようなこのスカーフ、回避率とモンスターからの発見率を下げてくれる、なんとしてでも生き残りたい俺にとっては喉から手が出るほど欲しい装備である。
とりあえず装備して……装備……ぐあああああ手が翼なせいでつけにくい! こういう時は本当に邪魔!
ジタバタともがきながら奮闘することしばらく、ようやくスカーフを装備することができた。
スカーフというか、俺の身体が小さいせいでマントのようになってしまっている。翼の動きを阻害するほどじゃないが、枝とかに引っかけそうで少し恐いな。
さて、これで能力が上がって……るのか?
軽く動いてみるが、特に変化は感じない。
回避率とステルス性が上がるはずなんだが……。
これが素早さや力に関する補正ならすぐに実感できたかもしれない。だけどステルス性なんて自分で確認できないぞ。
う、うーん……不安だ。
他二つの装備と比べて装備できてるだけマシだが、その恩恵を感じ取れないとどうにも落ち着かない。
これで実は機能してなくてスニーキングしてるつもりが外から丸見え、とかだったら死ねる。物理的にも恥ずかしさでも。
はあ……。色々と予想外の結果に落ち着いてしまった。結果的には二ストライク二アウトってところか。
いやいや、まだ
けどかっこいい武器は使いたかったなあ!!
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