現在:6

「睦月、この街では暴れるなよ。交通の多い所だし、暴れたら目的地までたどり着くのが困難になるからな」

「えー、我慢はするけどぉー、もしあの村で言ったみたいな戯言言われたら私おさえられるかなぁ」


 睦月が村人全員を消し去った後、誰もいない村で俺達はしばらく休んだ。その後、あの村を後にした。




 あの村は辺境に位置する小さな村だった。

 そのため、旅人が訪れることもほとんどない。たまたまやってきた旅人が、『勇者』と『聖女』の結婚話なんて持ってこなければあの村は今まで通り過ごせただろう。

 睦月の前でそういうことを言いさえしなければ、睦月はあんなふうに暴れなかったのだ。まぁ、運が悪かったとしか言えない。




 またこれから村を訪れる旅人がいれば、村の惨劇は伝わるだろうが……わざわざあんな辺境の村を訪れるものは少ない。

 だから村人が全員消えた事実はすぐには公にはならないだろう。

 でも今、俺達の目の前に広がる街は人も多いし、交通量も多い。




 そんな場所でやらかせば目的地までたどり着くのが困難になる。もしかしたらたどり着かずに殺されるかもしれない。



 それは嫌だ。

 折角睦月がもっと狂うかもしれないのだ。

 そんな睦月を見ずに終わるのは嫌だ。

 どうせ死ぬというならばもっと狂って、もっと壊れた、面白い睦月を見てからがいい。

 俺たちは人通りの多い道を人にぶつからないように歩きながらも、会話を交わしていた。




「そしたら会えないぞ?」

「……むぅ、我慢する」



 俺の言葉に睦月は渋々と言った様子で頷いた。

 嫌々そうに頷いた後、睦月は一端下を向いて俺の方を見上げてくる。



「……でも、ちょっとは壊していい?」



 壊したい、という思いを前面にだして、不服そうに頬を膨らませる睦月。

 そんな睦月がなんだか可愛くて(・・・・)、結局俺は睦月の頭を軽く撫でながらこう答えた。




「……まぁ、ちょっとならな」



 俺の言葉に、睦月は嬉しそうに目を輝かせ、笑った。

 機嫌良さげに笑う睦月と共に並んで、宿を探す。

 視線を少しでも動かせば、生活費を稼ぐために見世物をやっている人も幾人もいた。

 貧富の差が激しいのか、何処かみすぼらしい恰好をした子供達も沢山いる。



 そんな子供の一人が、



「この街初めて? 案内するからお金ちょーだい」



 などといってよってきた。



 道案内なんて小遣い稼ぎにしかならないものでもやらなければ彼らは生きていけないほどの困窮しているのだろうことが予想できた。



「じゃあ、お願い」


 俺が答える前に睦月が答えた。


 人にほとんど容赦のない睦月だが、基本的に睦月は子供が好きなのだ。いつか向井光一との子供がほしいなどと妄想していた睦月はいつの間にか子供全体を好きになっていたらしい。

 まぁ、気に食わない事をしたら子供だろうと睦月は容赦なく甚振るのだが。

 そのままその少年に宿まで案内してもらう中で、ふと建物の壁に貼ってある指名手配書が目に入った。

 俺の視線に気づいたのか、少年が説明するように口を開いた。



「ああ、それは最近近隣の街に出てるんだって。人を殺してしまう闇属性の使い手が。お兄さん達も旅人なら気をつけた方がいいかもよ」

「ああ」

「うん」



 俺と睦月は少年の言葉に笑って頷く。

 きっとこの少年は思いもしないだろう。睦月が闇属性の使い手だと。



 この世界には地球では幻想で、あり得ないものとされていた魔法が存在している。

 そして闇魔法とは、「人を狂わす魔法」とも「狂人の使う魔法」とも言われている最も忌避されているものだった。

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