神様は運営です~現代世界編~

玉鋼君璽/いの/イノ

第1話 お問い合わせセンター

神部下「あの、先輩。ちょっといいですか」

神上司「お?いいぞ。何か質問でもあるのか?」

神部下「はい、あのすごく根本的な質問なんですけど…俺たちってなんなんですかね?」

神上司「は?」

神部下「その…こうやって毎日下界から送られてくる『お問い合わせ』やら『ご意見・ご要望』『不具合のご報告』を見てると…ゲシュタルト崩壊するといいますか」

神上司「あ~そっかお前はまだ最近こっちの課に配属されたばかりで、アイデンティティを見失い易い時期だったな」

神部下「見失い時期っすか」

神上司「よしじゃあ休憩しながら、自己の再認識を行うか」


神上司「まず俺たちが何者かだが、まあ人が言うところの『神』だな」

神部下「はあ、そうですね」

神上司「じゃあ、神ってなんだ?」

神部下「神は神なんじゃないですか?こう人より上位な存在というか」

神上司「簡単に言えば俺たちは『法則』だ」

神部下「何言ってるんですか?」

神上司「お前あとで覚えてろよ…神と一言に言っても出自から、成り方まで様々だろ。俺は精霊系で、お前は元人だし」

神部下「そうですね。先輩は先天的で、俺は後天的に神になった口です」

神上司「先天的、後天的、出自から姿形、力の大小にあり方まで古今東西様々な神が存在するが、一つだけ共通するものがある。それが神とは『法則』に属する存在ってことだ」

神部下「余計分らんス」

神上司「……ソシャゲの運営」

神部下「すっごい分かりやすい!つまり神=運営。人やモンスターなどはゲームの中のプレイヤーってことですね」

神上司「大体そんな感じ。世界=ソシャゲで、それを運営管理するのが神で、人とかは人生ゲームっていう世界の中でプレイしているプレイヤーだな」

神部下「じゃあ、俺とかプレイヤーから運営側になったから神になったんですね」

神上司「自己の再確認が出来たようでなによりだ」



神部下「先輩。ソシャゲで言えば『お問い合わせ』はプレイヤーからの質問なんですよね」

神上司「まあ、そうなるな」

神部下「こう『なぜ神は我々を救わないのか!』とか、よく来るんですけど」

神上司「当たり前だろ。運営が直接プレイヤーを助けるゲームなんてあるとおもうか?」

神部下「ゲームとして破綻してますね」

神上司「それにちゃんとゲーム(世界)内には、運営側だけど運営そのものじゃないプレイヤーを助けるお助けキャラだってちゃんといるだろう?」

神部下「ああ、いますね。守護霊とか精霊…妖怪とかですよね。この世界だと物質としては存在してませんけど」

神上司「物質化するメリットがないからな。あと守護霊はこっち(運営)側じゃなくて、あっち(プレイヤー)側だ。それに妖怪をお助けキャラに出来るのは霊能者だけだ」

神部下「え、そうなんですか?」

神上司「お前、その辺の講習は…受けてないな」

神部下「神になって初めての配属先が『カスタマーセンター』だったんで、説明お願いします」

神上司「まず現実のプレイヤーはホストで、守護霊はゲスト参戦するプレイヤーだ」

神部下「あの先輩。なんでゲームに例えてるんです?」

神上司「元人のお前にはこっちのほうが分かりやすいだろ」

神部下「ええ、まあ、めっちゃ分かるんですけどね。某ダークなアクションRPGをマルチプレイしてる感じですね」

神上司「そうだな。現世に生まれるプレイヤーは生まれる前に現世に生まれないプレイヤーとパーティを組んでから現世に生まれるわけだ」

神部下「マッチングシステムで決まるんですね。確かにそれだとこっち(運営)側じゃないです」

神上司「因みに悪霊とかは某アクションRPGで言うところの侵入者だな」

神部下「うわっ…」

神上司「あと大事な事は生前にパーティを組んでいても、現世で信心がゼロだとソロプレイ希望者になって、お助け要員の協力が得られない事だな。まあソロプレイになっても侵入者はそんなの関係ねえとばかりにソロプレイヤーを襲う。しかも霊能者じゃないソロプレイヤーはブラインドプレイ状態でだ」

神部下「人生ゲームがハードモード過ぎる」

神上司「あまり派手にプレイヤーを攻撃すると霊界や神界、仏界に指名手配されるから、命を取ることまではしないが碌な目には合わないな」

神部下「例えば?」

神上司「取り憑いて精神汚染して精神異常者にするとか、取り憑いて人間関係を無茶苦茶にするとか。まあ社会的に死ぬな」

神部下「十分最悪ですよッ⁉」

神上司「そこはソロプレイ希望した本人の自己責任だ。運営(神)がどうこう言う問題じゃない」

神部下「そうですね」

神上司「あとは白系と黒系だな」

神部下「白系と黒系?」

神上司「白系は精霊や龍神に属する者の通称で、基本的にプレイヤーの霊格(レベル)や強さに関係なく相性が合えば助けてくれる存在だな。逆を言えばどれだけレベルが高くて強くても、白系の者が気に入られなければ助けてはくれない」

神部下「白系は信心なくてもOKなんですか?」

神上司「気に入られるか、気に入られないかの二択だから信心はなくてもOK。気に入られる要因は皆違うが、100%気に入られないのは独善的だったり、欲望に塗れてたり、人を人とも思わない奴とかだな」

神部下「つまり人が『こいつ友達になりたくね~』って思う奴ってことですね」

神上司「大雑把に言えばな。あと黒系は妖怪やドラゴンの通称だ。こっちは自分より強くない者には、プレイヤーがどれだけ人格者であっても従うことはない」

神部下「だから霊的存在を認識できる霊能者以外にはお助けキャラじゃないんですね」

神上司「それもただ霊能者であっても駄目だからな。戦闘能力が高いことが条件だ」

神部下「妖怪はまだ分かるんですけど、ドラゴンを倒せるレベルの霊能者なんているんですか?」

神上司「いないわけじゃない。仙人や魔法使いクラスになれば可」

神部下「それ殆ど無理と同義ですね」


神部下「先輩先輩。『ご意見・ご要望』って人の願望ですよね」

神上司「まあ、内の部署には回ってくるのは、特定の対象がいない場合だから少ないほうだが」

神部下「確かに『お問い合わせ』に比べて少ないですね。じゃあ、特定の対象がいる場合はどうなるんですか?」

神上司「正式な手続きは神殿やら神社などに参拝して、自分の願いを叶えてくれそうな神に願いを訴えるなどだな」

神部下「商売繁盛とか恋愛成就とかですね」

神上司「まあ、そうだな」

神部下「あれって効果あるんですか?」

神上司「あるとも言えるし、無いとも言える」

神部下「どっち?」

神上司「例えばだが二人の男が同じ女を好いており、二人とも同じ神に『あの女性と付き合えますように』と願ったとする。片方が女と付き合い、片方が振られた。この結果を見てお前は思う?」

神部下「すげえ矛盾してると思いますけど」

神上司「では女と付き合っていた男が女と別れ、最初に振られた男が再び女に告白し付き合ったとすれば?」

神部下「…結果的にはどちらの願いも叶ったことになりますね。え?これ神様のおかげですか?」

神上司「運営(神)の基本原則は?」

神部下「プレイヤー(人)への直接的な手助けは禁止です」

神上司「つまりどちらの結果もプレイヤーが望み、行動した結果と言えるな」

神部下「じゃあ、神の御利益はない…と?」

神上司「いや、縁を司る神がいるから御利益が無いわけではない。神が出来るのは望んだ結果へ至る確率や条件を良くする程度だ」

神部下「確立と条件ですか」

神上司「イメージはルーレットだな。当たり(赤)と外れ(黒)の比率と配置が神の加護で変化しても、球を投入するという行為をしなければ当たることは一生無いだろ」

神部下「なるほど」

神上司「それでお前のところに来た『ご意見・ご要望』ってのはなんだったんだ?」

神部下「ソシャゲでSSRが来ますようにってのでした」

神上司「信心深いのか欲深いのか判断に困る願いだな」


神部下「先輩先輩先輩!『不具合のご報告』って何なんですか!?」

神上司「そうかお前も『不具合のご報告』を任されるようになったのか」

神部下「しみじみ言ってないで説明をお願いします」

神上司「そのままの意味だよ。世界に不具合が報告されたから、その処理お願いしますって奴だ」

神部下「世界に不具合なんて発生するんですか?」

神上司「するに決まっているだろ。俺たち神とは違って、人には『観測できない闇』があるんだからバグデータなんてしょっちゅうだぞ」

神部下「『観測できない闇』?」

神上司「『人間性』や『欲』、『可能性』とも言うな。俺たち神だと絶対やらないことを人って結構平然とやらかすだろ」

神部下「ええまあ、自分も元人なので仰っている意味は良く分かります」

神上司「一般的に言う『穢れ』ってのがバグデータの正体なんだがな。この『穢れ』は人の器から溢れた『欲』だ」

神部下「?」

神上司「そうだなお前エンタメ小説好きか?」

神部下「大好物です!」

神上司「今の時代色々な生い立ちや立ち位置の視点で主人公が書かれるだろ」

神部下「悪役視点やら、モブ視点、勇者のライバル視点とか様々ありますね」

神上司「同じ行動、同じ思想を持つキャラなのに別作品になると一気に駄目な奴に見えたり、凋落していく様を不思議に思わなかったか?逆にどれだけ悪逆非道な行動、思想のキャラであっても、そこに美を感じたことはなかったか?」

神部下「思いまし感じました。不思議ですよね。ちょっと視点が変わるだけで一気に雑魚キャラ臭が漂い始めるたりするんですよ」

神上司「それはな同じ行動、同じ思想であっても、それを収める器の大きさによって結果が変わるんだよ」

神部下「器、ですか?」

神上司「人には器があるってよく言うだろ。王の器だとか大成する器だとか」

神部下「ああ、言いますね」

神上司「その人の器の中に納まりきらずに溢れた『欲』が、『穢れ』になるんだ」

神部下「?」

神上司「分かりやすく言えば、自動車とガソリンの関係だ。自動車はガソリンが無ければ動かない。しかし、タンクからガソリンが漏れれば周囲は汚れるだろ」

神部下「人が自動車で、欲がガソリンですか」

神上司「その通り。人は欲がなければ生きることが出来ない。だが、容量を超える欲は有害でしかない」

神部下「転倒したタンクローリーが周囲にガソリンがぶちまけて、環境を汚染するって感じですね。あー…そういうことか。どれほど立派な大志であっても自分の器以上の物を入れれば溢れ出て周囲を汚染する『穢れ』になり、逆に一見悪逆非道に見える行いでも自分の器から溢れなければちゃんとしたエネルギーになっているわけだ」

神上司「それが同じ行動思想を持つキャラなのに、凋落と繁栄の差が発生する原因なんだが、『穢れ』=『欲』って構造は理解したか?」

神部下「先輩前振り長いです」

神上司「穢れがバグデータであり、世界の不具合に繋がる必要な説明だ」

神部下「『欲』が『観測できない闇』でそれが溢れて、環境を汚染する…あれ?結構まずく無いですか?エンタメ的に言えば事件が発生する条件満たしてません?」

神上司「まあな。死ぬはずのない人が死ぬ。幸せになるはずだった人が不幸になる。迎えるべき平穏が奪われる。お前もプレイヤーだった時に嫌というほど見知ったモノだろ」

神部下「……ええ、世の不幸を嘆き、世の無常に悲しむなんて日常でした」

神上司「そういった悲劇を避けるための『不具合のご報告』が送られてくるんだよ」

神部下「具体的にはどういうのが不具合なんですか?」

神上司「今回お前のところに来たのは、穢れ溜まりになっている場所の発見報告だな」

神部下「因みにこれを放っておくとどうなるです?」

神上司「この規模だとまず運勢転落とかだな」

神部下「えっとどれくらい落ちるんですかね」

神上司「宝くじが当たるはずが、当たり屋の車に当たられるくらい」

神部下「最悪ですね!」

神上司「あとちょっと強面なお兄さんややんちゃな男の子に絡まれるとか」

神部下「ひでぇ!普通に生きていたら中々遭遇しないですよ!」

神上司「そういう人たちが寄ってきやすい場所になるって覚えておけばいい」

神部下「なるほど。ところでこの『不具合のご報告』って誰が送ってくるんですか?」

神上司「霊能者だな」

神部下「あ、やっぱりそうなんですね。現実世界系って神秘を観測できる者ってそれぐらいですもんね」

神上司「霊能者は数いれど、こっち(運営)と契約している奴だけだな」

神部下「…それめっちゃ少ないですよね」

神上司「近代になると神秘に関する関心が薄れて、契約者が減るんだよ。一番の理由は、この間の戦争でこっちの事を正しく認識していた霊能者が死んだり、口伝が消失したせいだ」

神部下「あと社会性もですよね」

神上司「世の法則が暴かれるほど、社会ってのは物質主義と無神論に走りやすい」

神部下「おかげでまともに神仏や精霊の声を聴かず、我欲に塗れた神職者が増えるんですよね」

神上司「それは近代どころか中世から『神の名を騙った大罪人』はいただろ」

神部下「死後、皆騙った神直々に神罰が下されてますよね」

神上司「それはそうだろ。神がやれとも言っていないことを、神の名を免罪符に犯しまくった自業自得だ」

神部下「あ、また『不具合のご報告』が来た。なになに『人生勝ち組の俺が、こんな仕打ちを受けるわけがねえ』」

神上司「……」

神部下「……あ、これ正規の人じゃないですね。似非霊能者で金儲けしてる人です」

神上司「どこかの小説のタイトルみたいだな」

神部下「ちょっと読んでみたいですね。ざまあ系の亜種ですかね」

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