再勇者召喚のデメリット
「どうだ、少しは落ち着いたか? ほら、あったかいうちにココアでもお飲み」
「すみません。ココアを作ってもらい、そのうえ部屋の掃除まで手伝ってもらって」
いやいやほんとにだよ。勇者をどんな使い方してんのさ。
「ほらマリス。ちゃんと謝りなさい」
「ふむ。まったくこの男は何というやつだ。ここまでうまいココアは飲んだことないよ」
「もうマリスったら、しっかり謝ってください!」
「そうだよマリス。しっかりユウタ殿に謝るんだよ」
「勇者様すみませんでした!」
こんな漫才みたいな会話を聞いても、俺はもう動じない。
マリスの放った魔法は、俺の予想通りの結果となった。
その魔法のおかげで部屋は爆散し、あらゆる書籍がチリチリになって焦げている。
いつもはその片づけを魔法でおこなっているらしいが、一日一回しかできないので今日はもう無理とのことだ。
もう一回言うけど、勇者はココア作ったり、部屋の掃除したりはしないからな
俺はそんなことを考えながらも、コホンと咳ばらいをし話を本題に戻す。
「だいぶ話が逸れたけど、俺にもう一度魔王を倒してほしいということだな?」
三人がココアを飲み終えたのを見計らって、俺はトグルに、勇者召喚の経緯を聞いた
「そういうことです。ユウタ殿が魔王を倒してから数年は、とても平穏な日々でした。しかし、五年前に魔王が復活したのです。」
「五年って結構前じゃん。そんなんだったら早く俺を呼んでたらよかったじゃん」
「それはそうなんですが」
「だってよく考えてみろよ。何万もの兵士を連れて魔王軍の攻撃から耐え続けるのに比べて、俺は剣を一振りするだけで魔王の幹部を倒せるぞ」
「で、ですが勇者様! それでは勇者様に大きな負担がかかってしまいますので」
ほほう。俺の正論にぐうの音も出ないはずなのに、言い訳をするとは。
どうせ大きな負担ってのも、『異世界から来た人に、しかも一度救ってくれたのにも関わらず、これ以上は迷惑はかけられません!』とかなんだろなあ。あ、でもそれは言われてみたい。
「ふ、ふーん。俺に大きな負担がかかるのか。そ、その大きな負担ってのはなんなんだ?」
大丈夫。ちょっと言われてみたいという欲なんか出てない。でも、男ならかわいい女の子にこんなこと言われてみたいよな。うん、きっとそうに違いない。
ドブに落ちてそうな下心に、心の中で必死に言い訳をしていると、ニーナとトグルは少し困ったように俺を見た。その隣では、マリスは三杯目のおかわりをしている。
もしかして俺の心を見透かしたの? やだ恥ずかしい。
「あ、あの。もしかしてご存じなかったのですか?」
「あの時のユウタ殿の反応を見て、我々はもうすでに知っておられていたのだと思っていましたぞ」
あの時って確か、みんなと別れる時だよな。
んー、なんか言ったっけな。二週間前のことのはずなのに全然覚えてない。
「ほんとにご存じなっかったんですか?」
不安の目をしているニーナに俺は戸惑った。
目を細め、眉をひそめるその表情に、懐かしさを感じた。
ん? 待てよ?
俺はその表情に見覚えがあるような。
「あれ? もしかしてニーナってあのニーナ? あの泣き虫のニーナか?」
「そうですよ! あの泣き虫で弱虫の、ちんちくりんのニーナですよ! なんで今まで思い出してくれなかったんですか!」
おい、俺もそこまでひどくはいってないぞ。
「なんでって言われても、見た目変わりすぎじゃん。そりゃ八年もあればいろいろ成長すると思うけどさ。その泣く時の表情は変わってないんだな!」
「なに笑顔で胸を見てるんですか! セクハラですよ! それにあなたはトグル様の時と同様、最悪な思い出し方をしますね! 私だってもっと早く思い出してほしかったですー!」
あらら。ついに泣き出してしまった。
桃色の頬には大粒の涙が流れ、かわいさが増している。
小さい時と変わらない様子にほほえましくなるが、それに加えて色気も出ているので、何とも言えない気持ちになる。
「い、いやー、大人になってかわいくなったじゃないかー」
「さすがはユウタ殿。見る目がありますな」
「勇者様もトグル様もそんなに褒めないでください。恥ずかしいです」
顔を赤くしてニーナは言った。
相変わらずちょろいな。
「ちょっとニーナ、話が逸れてるよ」
「あ、そうでした! それで勇者様は本当に知らないのですか」
こっのクソガキ! 今はその流れじゃないじゃん! うまく濁せてたのに。
だけどなー、俺全く覚えてないし。正直に言ったほうがいいんじゃないか?
「うん、覚えてないな」
「ほ、ほんとに覚えてなかったんですね」
そう言ってニーナとトグルは顔を見合わせ気まずそうにこっちを見てくる。
「じゃあワシが話そうか」
その瞬間、トグルの目が変わる。
「ユウタ殿はもう、元の世界に戻れないんじゃ」
ん? いやいやいやいや。聞き間違えだ、聞き間違え。何馬鹿な事言ってんの?って思ったけど言い間違えてたんだろ?
「なあトグル」
「そうなのです……。勇者様はもう元の世界には戻れないのです。まさか知らなかったとは。本当に申し訳ありません!」
その申し訳なさそうな顔。俺は見ていてどう思ったかって?
心の底から申し訳ないと思っているニーナ。心配そうに俺を見るトグル。ココアに飽きたのかクッキーを頬張るマリス。
そう、 俺はもちろん、
「ふっざけんな! そんなこと聞いてないぞ! 勇者様はなんでも知ってるわけじゃないんだぞ! この世界の常識?そんなもん知るか! 俺はこの世界の滞在時間はたったの三ヶ月! そんなもんで分かってるわけねーだろうが! そしてマリスは緊張感無さすぎだろ。もうココア入れてやんねーぞ!」
トグル達を責めまくったのだ。
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