第2話 鳥

 高校時代の通学路にいつも決まって鳥がいた。大きな首の長いやつだった。私はそれに会うとひどく興奮していた。遠くからゆっくり眺めるのが好きだった。鳥も水面をゆっくり眺めているようだった。何か深く考えているようだった。それは、私の考えの遥か上、あるいは全く見当のつかないような事だった。しかし、本当は目の前にいる魚の事しか考えていないのだろうが、私は固く、やつの頭の中はもっと難しいことで埋め尽くされているもんだと信じた。

 賢い人がいる。私は憧れを抱いているが、賢い人の考えていることはさっぱり分からない。賢い人は到底、私の敵う相手でもない。そしてその胸の内には、私には知られないように閉ざされたことがあって、簡単には触れてはいけないと悟っている。それでも、私は知りたいと思ってしまった。日に日に、知りたい気持ちは大きくなったが、自らの立場はわきまえているつもりであったので、声に出すことはしないだろうと思っていた。

 水際に留まった鳥は、私が近づきすぎると逃げてしまう。だから、通学の際は細心の注意を払って、少しばかり遠回りで横を過ぎた。たまに、こちらの視線に感づいてか、鳥は飛び立つこともあったが、鳥はそれほど私を気にかけている様子はなかった。私は、明日も鳥がいることを期待していた。ところが、鳥はいなくなってしまった。なにかあったのだろうか。池の魚がいなくなったのだろうか。理由は分からなかったが、鳥は消えてしまった。

 ある朝、わたしは普通より遅く家を出た。だから、普通より遅い時間に池の前を通った。すると、私の鳥が考え事をしていた。鳥には決して悪いようにはしないと固く心に誓っていたが、その朝はひどく高揚し、走って鳥に向かってしまった。当然、鳥ははたはたと逃げてしまった。その後その池に鳥は来ることは無かったし、もう来ることは無いと確信した。

 ケージの中のカエルも考えることがあるらしい。葉の上や水入れの中でじっとしていて、機嫌がいい時はきれいな緑色をしていて、そうでないと褐色になったりする。私が窓を開けてやると2匹はすぐに考え事をやめて、パクリと黒色の餌をほうばってみせる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る