第3話 前世の記憶

 痛みは引かなかったがマリーは自分の寝室に行くように父に申し渡された。今日は夕食まで休めといわれた。しかしマリーの手には「全人類史記」があった。父からはベットの上で自分の頭を殴る狂気に使うなと注意されたが、マリーはにこやかにやりませんといった。


 マリーの寝室は質素そのものであった。広さをのぞけば平均的な平民階級の17歳の少女と一緒だった。その点も前世の記憶にあるマリーと違っていた。マリーの前世は二十一世紀の日本人の少女・早瀬真理恵だと思い出していた。


 「ユニヴァースウォーリアーズ零」のキャラクター「マリー・クラウゼ」を真理恵が気になっていたのは、自分の名前に似ていたからだ。だから思い入れがあったのだが、物語の終盤で彼女は処刑された、ルドルフの扇動に決起した民衆によって。


 取りあえず、マリーが父の執務室から持ち出した西暦21世紀前半の地球の物語が書かれている「全人類史記」の45巻は全300巻の前のほうだった。


 「西暦2000年代か、今は銀河歴1992年だから・・・もう3000年近くも前の事よね。これが前世だとしたらその間って魂はどこをたむろしていたんだろうね」


 そういいながら、書物に記録された遥か昔の歴史をさかのぼっていった。地球人類が分裂し、人工進化を拒絶した一派が銀河系に拡散してから2500年経過していた。そしてマリーが生きている星間国家の「帝国」が建国してから500年が経っていた。


 「これが日本なのか。2011年、日本は未曽有の震災に巻き込まれて・・・」


 そのとき、ある記憶が蘇った。逃げている最中に大きな水の流れに飲み込まれる苦しい思いが。真理恵はその時、津波で亡くなったようだ。そう思うとマリーの目に涙が溢れていた。そして真理恵の記憶が蘇った。


 真理恵は海辺の町で生活していた高校生で。その時夢中になっていたのが「ユニヴァースウォーリアーズ零」だった。原作は昭和時代のベストセラー小説でスペースオペラの傑作と称賛されていた。そしてアニメが放映されたが、そのアニメのイケメンの登場人物に魅了されたのだ。


 ストーリーは長く平和が続く「帝国」であったが、体制の老化現象により衰退の兆しが続いていた。そのとき、かつての支配者であった地球に住む主人公が人類社会の統一を目指し立ち上がり、戦乱が始まるという物だ。「帝国」と「地球」双方の陣営の数多くのキャラクターが魅力的であったが、アニメの方は原作の三分の二で第三部が終了していた。


 真理恵が気に入っていたのが、「帝国」側の主人公であるルドルフ・シュナウザーで、人望も厚く仲間想いで、そして軍事能力にすぐれていた。ただ残念なのは帝国守旧派を分裂させて自滅させる際にマリーを犠牲にしたことだった。もっとも、マリーは彼の恋人だったローザを自らの手で殺害したのだから仕方なかったけど。そのエピソードを知った時、本当に自分の事が嫌になってしまったほどだ。あんまりにも感情移入していたから、仕方なかった。


 「うーん、書いていないよね。でも内容は思い出したわ。あっているのか分からないけど。でも・・・なんで私ってマリーに生まれ変わったのよ! 私って小説にあるような性悪女じゃないわよ!」


 マリーはおもわず持っていた本を床に叩き落していた。真理恵の記憶が鮮明化したのだ。

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令嬢は民衆に悪役令嬢として処刑されないように天下を目指す! ジャン・幸田 @JeanKouda0

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