第2話 セントラル王国


 少し暗くなったが、無事セントラル王国の門に辿り着く。門番である兵士が怪しそうな顔をしながらこちらへ来る。

 

 「見ない顔だな。モンスターを二匹も連れてこのセントラル城へ何の用だ?」

 

 兵士は腰にかけた剣の柄を握りながら睨み付ける。まるで人が飼い主の家に近づいた時の犬みたいに。

 

 「俺はスライムのエース。騎士をやっている。俺はあの森で迷ったこの者達を安全な場所であるこの王国まで連れてきたまでだ。」

 

 「ほう、モンスターの癖に喋れるとは。

 で、この者達は?」

 

 「僕はリコリス。この辺のしがないモンスターさ。この二人は他のモンスターより弱い僕を守ってくれた恩人なんだ。どうか心優しい人間を通して上げて下さい。」

 

 よくこんな作り話をスラスラと言えるものだ。見た目の割に頭の回転は早いみたいだ。

 

 「ふむ……良いだろう。通りなさい。ただし、他の人の目につかぬよう、そのモンスターを隠す事だ。」

 

 兵士は敵対していた目を変え、門を開いてくれた。

 

 「せっかくだし、俺も行こうか。ここならばサタンメテオの阻止に協力してくれる者がいるかもしれない。」

 

 エースはそう言い、門へ進む。どこか希望に満ちた目をしていた。

 

 「少し待てスライム。お前は今サタンメテオと言ったな?」

 

 兵士はエースを止めるように声をかけた。

 

 「サタンメテオがどうした。」

 

 エースが振り向き、動きを止める。

 

 「つい先日、かの英雄デュークが南の出発したようだ。お前にとって力になれる存在じゃないか?」

 

 「あのデュークが!? 確かに彼がいれば百人力だな。今彼はどこにいる?」

 

 エースは目を丸くして訊く。

 どうやらデュークという者は有名な英雄みたいだ。

 

 「すまないが私は詳しくは知らない。セントラル国王に尋ねれば何か分かるかもしれない。城への通行は私の独断で許可しよう。」

 

 そう言いながら兵士は懐から紙を出して何か書いた。

 

 「この紙に私のサインを記した。城の前の門番にこれを渡せば通してくれるだろう。

 すまないが君は彼のお供になってくれるとありがたい。」

 

 俺は「Raymondレイモンド」と走り書きされた紙を貰った。兵士が独断で決めていいのだろうか。

 

 「くれぐれも騒ぎを起こさないようにしてくれ。そうでないと……私の首が飛ぶのでな。」

 

 期待を込めた言葉だった。人を襲わないタイプのモンスターとはいえ、騒ぎを起こしてしまえばこの兵士の責任となるからだろう。

 

 「そうだな。気をつけよう。」


 エースと共に門をくぐり、城下町へ。

 

 

 俺は目が輝いた。そこはヨーロッパの街並みを彷彿させる城下町だからだーー

 

 俺は一番行きたい国と言えば大抵ヨーロッパの何処か。いや、アジア以外なら何処でもいいが、日本と全く違う建物や文化、人々がまるで非日常的のようで憧れていた。

 

 ーーそれが言葉通りに非日常の異世界、それの中心となる城下町へ足を踏み入れた事に俺は感動した。

 

 「ようこそ、世界の中心セントラル王国へ。あなた達もこちらに避難ですか?」

 

 若い女性が尋ねる。初めてこの世界の人間を見た。髪色や顔立ち、服装までもが日本と違う。でも西洋風かと言うと微妙に違う。

 彼女に限ったことではなく、この町にいる人々がそんな出で立ちをしている。まさに異世界だ。

 

 「この者達は避難で、俺はデュークの後を追うために国王を訪ねに来た。」

 

 「あら、頼もしいスライムね。でもあまり人目につかないようにした方がいいですよ。サタンメテオの影響で全てのモンスターが凶暴化していると思われているの。」

 

 「あの兵士もそう言っていたな。ならば……。」

 

 エースは体を一旦液状にし、剣の様な形になり、固形物となった。あの時襲われそうになった剣へ変形した。

 

 「まぁ……凄いわね。」

 

 女性は言葉に詰まった。

 

 「博史と言ったな。俺を剣として持て。」

 

 俺は剣となったエースを左手に持つ。よく絵で見かける剣のイメージとほぼ同じだが、意外と重さがある。

 

 「じゃあ、俺達はこれで。」

 

 俺は女性に軽く頭を下げ、城門を目指して城下町を歩く。

 

 「すまない、共に国王に会う事になってしまったな。」

 

 「あぁ、いいよ。何なら俺達もそのデュークという人に会ってみたいしさ。」

 

 「ところでデュークってどんな人なの?」

 

 天音が首の後ろに手を組みながら訊く。その一言に過剰に反応するように剣が暴れる。

 

 「デュークを知らないだと!? どこまで世間知らず何だお前達は!」

 

 かなり驚いた様子だ。そろそろ異世界から来たこと明かしてもいいんじゃないか? 一々驚かれるのはウザったい。そもそも伝えることでデメリットは無いと思うんだがーー

 

 「この際だから言ってもいいんじゃないか? リコリス。」

 

 リコリスに耳打ちするように囁く。そもそも耳がどこにあるのか分からないので、口を顔の横に近づけただけだが。

 

 「……確かに目的はキーパーソンを探すことだけど、この状況で異界から来たと言えば真っ先にサタンメテオの件を疑われる。なるべく穏便に済ませたいんだ。」

 

 リコリスはそう耳打ちする。確かに一理あるな。

 

 「ーーすまないな大声出してしまって。

 よくよく考えたら、お前達は何の情報も無しに過ごしてきた訳アリなんだろう……。」

 

 エースは同情するように言った。俺らを孤児だとか思い始めたのだろうか。

 

 「それで、デュークというのは?」

 

 「半年ぐらい前に吸血鬼を討った騎士だ。いや、この頃はまだ小さな町の兵士だったかな。

 

 吸血鬼は世界を闇で飲み込もうとする位強かったのだが、そんな化け物をデュークが討ち、世界を平和にした。そのお手柄は世界中に知らされ、彼は英雄となる。その後、このセントラル城の騎士団長として大出世した。」

 

 エースは淡々と語った。そいつは本当にただの兵士だったのか? この世界にいたわけではないが、不自然な位に勇者しているじゃないか。

 

 「まるで神の子だね。ただの兵士がそんな化け物を倒せるなんて。」

 

 リコリスは何かに感動したようだ。

 

 「そうだな。実際、彼を神の子と信じている者もいるぐらいだ。ま、俺は努力して力をつけたと思っているがな。鍛練を積み重ねた者だけが使える禁忌の秘術、特攻を使える事がそれを証明している。」

 

 「不吉な秘術だな。命を犠牲にするのか?」

 

 特攻という響きは日本人である俺にはかつての戦争を連想させる。

 

 「最初は体力を大量に消費する程度の攻撃だ。だが、更に鍛練を積めば、それこそ命を犠牲にして絶大なエネルギーを放出できる。

 デュークはどの段階にいるかは知らないが、並大抵の騎士じゃあコイツを使いこなせない。日頃の鍛練以上に自己犠牲の覚悟も必要になってくるからな……。」

 

 自分を犠牲にしてでも守るその秘術は、まるで騎士を映し出す鏡のように思えた。

 会話をしている内にいつの間にか城の門へ着いた。

 

 「お前達、何の様だ。」

 

 兵士は睨み付けるように訊いてきた。外の門番と同じような動きをしているのは気のせいだろうか。

 

 「国王に直接デュークについて伺いに来ました。これが外の門番からのサインです。」

 

 外の兵士から渡された紙を出し、それを奪い取るように兵士は手に取り、まじまじと見つめる。

 

 「ふむ……いいだろう。少し待て。」

 

 兵士は門をゆっくりと開ける。

 

 それにしても何故こうも兵士は態度がでかいのか。天音といい、どこの世界でも身分が高い奴は偉そうにするものだろうな。


 「何見てんのよ。顔に何かついているわけ?」

 

 俺の視線を振り払うように天音は睨む。俺は何でもないと言い、ようやく開いた門へ視線を戻す。

 

 「待たせたな。玉座の間は左右どちらかの階段で二階に上がり、更に真ん中にある階段の先にある。くれぐれも妙な真似をするなよ。」

 

兵士はそう釘を刺し、俺達は城の中へ入る。

 

 

 城内はキレイで、大理石の床にはレッドカーペットが引かれている。城下町の街並みでお腹一杯なのに城内のロイヤル感に更に感動した。

 

 言われた通りに階段を上り、玉座の間へ。

 

 そこで屈強な兵士に扉を開けてもらう。その先には金で装飾された玉座に国王は腰をかけ、俺達を待ち構えている。

 

 ーー俺みたいな平凡でつまらない庶民が、国王という偉い者に会うのは今までにあっただろうか。意識すればするほど緊張してくる。

 

 「ようこそ。私はこのセントラル王国の国王セントラル十四世じゃ。用件は何かな?」

 

 こう言う時のマナーが分からず立ったままになってしまった。リコリスやエースに何も言われていないという事は一応大丈夫ってことなのかな。

 

 「かの英雄デュークの後を追い、共にサタンメテオを食い止める仲間となるためにこちらへ参りました。」

 

 左手に持っていた剣がいつの間にかスライムの姿に戻っていた。

 

 「ふむ。勇気あるスライムよ。サタンメテオの破壊に協力してくれて感謝する。

 彼は聖騎士へと覚醒するために4つの祠を巡りに旅に出た。祠について分かるな?」

 

 「はい。炎、水、土、風を司る聖霊を奉る祠と存じています。」

 

 おお、ゲームとかでよくあるやつだ。その祠に行けば聖騎士になるらしい。よく分からんが。

 

 「そうじゃ。彼は炎の祠から旅立った。今頃、その炎の祠を突破し、近くの土の祠を目指すためにミラの村にいるだろう。ミラの村は南の大陸のリザの港町から行けばすぐに着くハズだ。」

 

 「リザの港町へ行けばいいのですね。情報ありがとうございます。

 ……一つ、よろしいですか?」

 

 「申してみなさい。」

 

 「聖騎士、という事は伝承通り彼は導かれたのですか。」


伝承……? 誰でも聖騎士になれる訳じゃないのか?

 

 「うむ。腕に刻印が浮かんでいた。吸血鬼の件といい、彼は神に導かれて産まれたに違いない。……そうじゃ、お主の名を申してみなさい。話す知力があるという事は名を持っているハズじゃ。」

 

いちいち神に導かれないと勇者とかになれないのか。俺も一応神に導かれたと言葉通りに思っていいのだろうか。


 「名はエース。モンスターを他のモンスターや人間から守る騎士をやっているスライムです。」

 

 「ならば、エースよ。これも何かの縁だ。デュークの盟友になるといい。良き仲間となるだろう。」

 

 「私もそれを望んでいます。ではこれにて。」

 

 一応お辞儀をしてから玉座の間を出る。


 

 「リザの港町か……結界の外だ。お前達はデュークに会ってみたいと言っていたが、ここにいた方が安全じゃあないか?」

 

 階段を下りながらエースは訊く。

 結界とは何なんだろうか。そんな俺達の顔を見てエースは察したように続ける。

 

 「……あぁ、すまない。結界とはサタンメテオの魔力を軽減するものだ。セントラル王国を中心に張り巡らしている。この大陸より外になると結界の効果が無くなり、この周辺よりもモンスターが凶暴化しているということだ。」

 

 城を出て、空を確認する。確かにうっすらと、紫色の魔法陣のようなものが描かれている。あれが結界か。

 この外に出るとモンスターが凶暴になると言うけど、まだモンスターに会ってないからどの位強いのか分からないな。

 

 「で、どーすんの? 私はここに残った方がいいと思うんだけど。」

 

 天音が腕を組みながら言った。

 確かにここにいた方が安全だ。だが俺はここでじっと世界が平和になるのを待つより、世界平和に少しでも貢献したい。せっかく異世界に来たのだから。

 

 「いや、行くよ。俺達の目的はキーパーソンを探すことだしな。」

 

 「キーパーソン?」

 

 エースが怪訝そうな顔をする。

 そろそろ明かしてもいいかもしれないが、サタンメテオの容疑が掛かるリスクが大きい。徐々に信用を深めてから明かした方がいいな。

 

 「こっちの話なんだ。気にしないでくれ。」

 

 慌てて誤魔化す。もっと怪しくなりそうだが。

 

 「ま、お前達も行くと言うのなら俺に提案があるがな。」

 

 三人の視線がエースに向く。

 

 「博史、特別に俺がお前の剣となり、お前達の盾となってやろう。」

 

 つまり、エースが変形して俺達の武器や盾になるという事なのだろうか。確かに、あの剣の威力は普通の剣よりも直感的に強いと見た。

 

 「それってどういう事何だい?」

 

 リコリスが不思議そうな顔をして訊く。どういう事も何もそういう事じゃないのか?

 

 「そのままだ。俺が博史が使う剣になり、他二人を守れる時に盾へ変形する。

 ま、本当は誰かに使われるのは苦手なんだが、この先実戦的なスキルが必要になってくるだろう。今後の為にな。」

 

 確かにエースの意図に一理あるが……ただの村人同然の俺が上手く剣を扱えるのだろうか。

 とは言え、剣を使って冒険なんてまるで主人公だ。異世界はこうでなくちゃ。

 

 「それ、いいね。そうしよう。」

 

 胸を踊らせながら言った。

 

 「いや、そう言う事じゃないんだ。僕が知りたいのは、どうしてただの人間を連れていこうと思ったのかなって。僕だったら安全のためにも置いていくよ。」

 

 リコリスはさっきの表情より険しくなった。

 

 「そりゃあ……お前達、異界から来たんじゃあないのか?」

 

 エースからの一言が俺の脳裏を貫く。


 

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平凡な少年の魔導書物語~The Grimoire that spelled fate fairy tales~ 城ヶ野 純輝 @jogano

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