第二部 征服編

一章

第56話 いってらっしゃい

 ねえ、見て。

 ほんの半年前に買ってもらった洋服がもう小さくて苦しいわ。だって人間でいうなら私の身体はもう十四歳だもの。自分でも驚くくらい成長してるってわかる。


”毎日いっぱい食べた”から。だから感謝してるわ。


 最近、お城の人たちが離れたところからあたしをよく眺めていることも知っているの。


 あの顔、あの目線。まるで決して口をつけてはならないごちそうを眺めるかのよう。興味があることを悟られることすらはばかれる禁断の果実を見るような、湿った熱のある目線。皇帝の姫君だもの、当然よね。


 でもそれがどうしようもなくおかしくって。

 だってそうでしょう?


 あたしにとって、彼らはただの肉なのに。その肉があたしを美味しそうだなあって眺めるなんて、最高に地獄ファッキンだと思わない?


 ああ、そう。そんなことはどうでもよくって。


 それでね、最近感じるの。


 それは大きな気配。あたしと同じ臭い。同族の息遣い。


 彼女は北にいるわ。あたしにはわかるの。


 そしてあたしと、あなたを見つめている。


 あたしたちを食べてしまおうと企んでいる。


 一つの完全な生命になるために。


 だから、パパ。ロイ・ロジャー・ブラッドフォード?


 もっと大きな力を手に入れて、あたしを育てて。愛する娘と同じように、強く、美しく、賢く。


 全てが終わったなら、あの日の約束の通り、あなたの願いを一つだけ叶えてあげるから。


 さあ、皆が呼んでいるわ。あの扉の向こうであなたを待っている。


 いってらっしゃい、パパ。


 あなたは出会った頃より、ずっと人間らしい心を手にしているわ。

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