第51話 論功行賞


 旧アミアン王国の都、アミュール城にてこの度の戦いの勝者であるナプスブルク軍の戦勝式典が華やかに執り行われた。


 王の間で行われた論功行賞では以下の者たちが特に賞された。


 戦功第三位 ライル・ハンクシュタイン 敵主力軍を野戦におびき出した功により


 ライルは正式にナプスブルク王国の臣下となり、さらにロイより筆頭参謀の地位を拝命した。


 戦功第二位 グレボルト・カーマン クリフトアス捕縛及びアビゲイル救出の功により


 グレボルトには爵位が授与され、旧アミアン領内に領地を与えられた。これにより血鳥団は正規兵へ昇格し、団の小隊長クラスの者もナプスブルク貴族に列せられた。


 グレボルトは貴族への復帰に喜びを隠さず、溜め込んでいた欲望を発散するかのように手にした金と名誉をもって夜の街に繰り出した。


 血鳥団のとある小隊長の一人から「熟女ハウスを建設する許可が欲しいでごわす」との要望があったが、ロイはこれを黙殺した。


 戦功第一位 グレーナ-・グラウン ロッドミンスター王国主力軍を援軍に呼んだ功により


 しかしグレーナ-はこの論功行賞に激怒した。


「戦の勝敗を決定づけたのは私のはず。それなのにあの女が筆頭参謀だと」


 グレーナーは同じ参謀職であるライルが筆頭に命じられたことに露骨に怒りを表した。

 ライルはグレーナ-とは異なり、領地も与えられておらず報奨金も圧倒的に少ない。しかし地位においてはグレーナーの上位につけられた形となり、そのことがこのプライドの高い男を怒らせた。

 それに対して同意する者もいたが、ロイはこの決定を覆さなかった。


 戦勝の宴の一席で、ロイはライルにこう話しかけられた。


「よろしかったのですか、あれではグレーナー殿の恨みを買うことになります」


 それに対しロイはつまらなそうな顔でこう答えた。


「恨みを買うのは私よりもお前だ」


「つまり私に競えと? あのグレーナー殿と」


「あの男の功名心は相当なものだが、それが満たされれば牙を剥くと私は考えている。だから常に競わせていたい」


「そのために私を餌に使ったと」


 ライルの責めるような口調を受けて、ロイは薄っすらと微笑んで答えた。


「意地悪なお方」


 ライルも困り果てたような顔を浮かべる。


「ところで閣下」


 ライルはロイに顔を近づけて言った。


「これからは忙しくなります」


「わかってるさ。だがセラステレナはむこう数年はこちらに手を出せない。その隙に国力を蓄える」


「敵はセラステレナだけではありません。大公を失ったフィアットも反ナプスブルクに傾きつつあります」


「兵を出したにも関わらずろくに領土も得られず、さらに大公が死んだのはロイという摂政のせいだ。そう言われているからな」


「彼らを敵に回すのは得策ではありません。得た領土の分配もいささ彼らに厳しいものであったかと」


「わかっている。それに、我らが”国王陛下”も水面下で色々なさっているようだ」


 ロイはナプスブルク国王であるアルノー二世が画策していたことをグレーナーからの報告で知っている。


「そこでだ」


 ロイは声を潜めて言った。


「私はこの国を売ろうと思う」


 その言葉にライルはその知性にみちた目を見開き、「は?」と思わず口にした。


「それは、いったい」


 そしてロイはにやりと微笑むと、嘘か真かわからないことを言った。


「王から買い取ったこの国を売るのさ。そう、文字通りに」


 ロイの目に暗い炎が宿っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る