episode1 : 再会

「.....」

「ここは...どこだ...」

「暗くてよくわからない。地下室なのか...?」

 辺りが暗くてよく見えないが、どこかの

 地下室のようだ。

「僕は何故こんなところで寝ていたんだろう。」

 暫く考えてみる。何も思い出せない。ここで

 何をしていたのか。覚えているのは自分の名が

「南雲 滉(なぐも こう)」ということだけ

 だった。


「考えるのは後だ。まずはここから出よう。」

「痛っ!!」

 歩き出した瞬間全身から激痛が走った。

 よく見ると体中はボロボロで身に覚えのない

 擦り傷だらけだった。ますますよくわからない。

 体に気を使いながら地上を目指す。暫く歩くと

 階段を見つけた。階段を上り地上に上がる。


「....」

「またあの夢か。最近よく見るな。」

 ボーッとしながら時計を見る。時刻は5:50

 そろそろ朝食の時間だ。起き上がり部屋を出る。

 僕は高校の下宿に住んでいるため、決めたられ

 時間に朝食がある。

「おは〜滉。顔色悪いけどどうした?」

 話しかけてきたのはクラスメイトの成宮一樹

(なりみや かずき)だ。


「おはよう一樹。今朝またあの夢を見たんだ。」

「あ〜。例の地下室の夢か。」

「そう。最近よく見るんだよな〜。勘弁して

 ほしい。」

「やっぱりその痣が関係しているのかな。」

「さあ〜ね。でもあの夢は僕に何かを伝えようと

 している気がするんだ。」

「あの夢を見ると決まって痣がうずく。」


 滉の右腕には謎の痣があった。

 病院で一度診てもらったが、原因は何もわから

 なかった。食堂に着く。今日の朝ご飯は鮭に

 豆腐の味噌汁、きんぴらごぼう。何とも健康的な

 食事だ。


「そういえば滉。今日は確か新入生が登校してくる

 日だってさ。可愛い子いるかな?」

「もうそんな時期か〜。」

「滉も見に行くだろ?」

「行かない。」

「なんでだよ〜。一緒に行こうぜ。」

「悪いけど、僕はパス。行くなら紀ノ国と行って

 来なよ。」

「二人ともおはよう〜」

 そう言って現れたのはクラスメイトの

 紀ノ国沙優(きのくに さゆ)だ。


「おは〜」

「おはよう〜」

「なんの話してたの?」

「一樹が1年生を口説きに行きたいんだとさ。」

「だから紀ノ国一緒に行ってやってくれ。」

「なんで私なの?」

「僕は用事がある。」

「なるほどね〜。まあ良いよ。私もテニス部の

 勧誘したかったし。」

「助かる。じゃ、僕達は朝練あるから先に

 行くね。」


 食べ終わった食器を早々に片付けに行く一樹。

「あ、そうだ滉!」

 呼び止められて立ち止まる。耳を貸せとジェスチ

 ャーで伝えてくる。仕方なく耳を貸す。紀ノ国が

 耳元で囁いた。

「これ貸し1だから。」

「紀ノ国は人に貸しを作るのがお好きなようで。」

「ただで厄介事、引き受ける訳ないでしょう?」

「はいはい。わかったよ。」

 話を終わらせて朝練に向かう。


 テニスコートには既に2人先着がいた。

「相変わらず来るのが早いね。」

 コートにいたのは三嶋健斗(みしま けんと)、

 七瀬遼(ななせ りょう)の二人だ。

「何時からやってんの?」

 一樹が聞く。

「6:00」

「早すぎ(笑) テニス大好きかよ。」

「二人もでしょ。」

「間違いない(笑)」

 7:00になり部員がぞろぞろ集まり始める。

 いつも7:00~8:00まで朝練を行い、それから

 教室に向かうのが日課だ。

_______________________

 4月2日。今日から高校生活が始まる。私は

 中学校を卒業して高校は東京から離れた町。

 北海道で通う事になった。お母さんが色々と

 気を使ってくれて心機一転。新しい町で人生を

 スタートしてもいんじゃないか。って事らしい。

「それじゃ〜行ってきます。」

「行ってらっしゃい。葵。」

 学校は家から地下鉄で20分のところにある。

 最寄駅に着いてすぐのところに学校はある。

 音楽を聴きながら向かう。


 教室に着いて席に着席する。何やら教室が

 騒がしい。どうやら今日の部活動紹介の話を

 しているようだ。4時限目は部活動紹介に

 なっていて、終わった後、体育館で好きな部の

 ところに行って昼ご飯を一緒に食べる事が出来る

 らしい。皆どこの部にするか。

 話しているようだ。

「葵ちゃんはどこの部にするか決めた〜?」

 そう言って話しかけてきたのは同じクラス

 メイトで隣の席の木下寧々(きのした ねね)。


「ん〜、まだ決めてないよ。寧々ちゃんは

 もう決めたの?」

「うん。決めたよ!!テニス部」

「どうしてテニス部にしたの?」

「南雲 滉先輩にお近づきになるためだよ。」

「知り合いなの?」

「実はね。入学式の日、電車で痴漢にあったの。

 怖くて震えてたら、滉先輩が助けてくれたの。」


「相手の腕を掴んで、サラリーマンが女子高生に

 猥褻行為。おじさん人生終了だね。駅員さんの

 ところ行こうか。って。」

「結局、次の駅でそのおじさんには逃げられ

 ちゃったんだけど、泣きながら歩く私を慰め

 ながら、学校まで一緒に登校してくれて。」


「それは災難だったね...」

「でも私思ったの。これは必然だったのよ。

 私が滉先輩に出会うためには必要な事

 だったの。」

「そうなんだ...」

「葵ちゃん!!もし気になる部がなかったら、

 私と一緒にテニス部見に行かない?」

「う〜ん、考えてみるね。」

 レクレーション等で自己紹介や担任の先生の

 紹介が行われ、気づけば4時限目の部活動

 紹介が始まろうとしていた。


「それじゃ〜、体育館に移動するぞ〜」

 そう言って移動を促すのはこの春から着任した

 という新米の担任、神室 雅(かむろ みやび)

 先生だ。新入生が全員、体育館に集まり部活動

 紹介が始まった。やはりサッカー部やバスケット

 ボール部はどこの学校でも人気なのだろう。

 新入生から歓声が聞こえる。

 そしてテニス部の紹介が始まった。寧々が隣で

 騒いでいる。テニス部も中々人気らしい。

 歓声が上がっていた。どうやら青葉学院高校

 テニス部は強豪校らしく、様々な中学校から

 特待生を集めているらしい。


 一通り紹介が終わり、解散となった。部活動に

 興味を持った生徒はそのまま各部活の先輩方と

 交流しながら、お昼ご飯を食べ始めている。

 寧々には悪いが人数の多いテニス部の輪に入って

 いくのは気が進まなかったため、断ってから

 教室に戻った。


「なんか一人、教室でご飯食べるのもな〜。

 誰かにみられたら恥ずかしいな。どこか人目を

 気にしなくて良いとこないかな。」

 そう言いながら、食べる場所を探す。


「あれ、この階段の上って屋上だっけ。」

 屋上は基本封鎖されてて立ち入り禁止となって

 いる場所だ。立ち入り禁止の看板が立っている。

「今日だけなら良いよね...」

 周りを確認して階段を登る。そしてゆっくりと

 扉の鍵開ける。

「あれ、鍵空いてる。」

 そのままゆっくりと扉を開く。誰かいるの

 だろうか。辺りを見渡す誰もいる気配がない。

「なんで扉の鍵開いてたんだろう。」


「ここは立ち入り禁止だよ。」

 後ろから誰かの声がした。先生に見つかったの

 かと思い、慌てて振り返る。しかし後ろには誰も

 いない。

 すると屋上のさらに上、入り口扉の上から人が

 降りてきた。

「わあ、びっくりした〜」

「驚かせてごめんよ。」

「あれ、ここって立ち入り禁止なんじゃ...」

「うん。立ち入り禁止だよ。だから僕しか

 来ない。」

「いつも来ているんですか。」


「うん。よく来るよ。ここ、誰も来ないから落ち

 着くんだ。僕以外がここに来たのは初めてだよ。

 新入生さん中々やるね。」

「ああ、いえ、私も誰もいない場所探してたら

 つい...すみません。」

「謝らなくて良いよ。僕も悪いことしてるし。

 君、お名前は?」

「一ノ瀬 葵って言います。」

「僕は南雲 滉。ここは二人だけの秘密だよ?」


「はい...あれ、南雲 滉先輩!?」

「あれ、僕のこと知ってるの?」

「入学式の日、先輩に助けてもらったって子が

 クラスにいて。木下 寧々さんなんですけど。」

「ああ。あの子のお友達さんか。」

「というか、あの、新入生交流行かなくて良いん

 ですか?」

「良いの良いの。あまり人が多いのは疲れちゃう

 し、テニス部は人が多いから僕一人いなくても

 問題ないよ。後で同期には怒られそうだな〜。」

 なんだか不思議な人だなと思った。

 見た目は、身長は低めで、体型は細型、髪型は

 黒髪マッシュで一定層の女子が好みそうな

 感じだ。かっこいい系というよりは可愛い系の

 顔をしている。


 滉先輩と暫く話しながらお昼を食べ、この場所に

 ついては秘密にするようにと念を押され、

 私は教室に戻った。戻ったら、寧々から不満

 そうな顔で永遠に愚痴を聞かされた。

 滉先輩が来なかったこと、他の先輩にはサボった

 なあいつと聞かされたらしい。






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