君と僕の真実
高槻エト
episode0 : 記憶を失った少女
「.......」
意識が朦朧としている。頭が痛い。
身体中が痛い。
ここはどこだろう。何をしていたんだろう。
辺りは見渡す限り、どこまでも広がる暗闇。
思い出せない。どうしてここにいるのか。
何をしていたのか。そして自分の名前も。
微かに女性の声が聞こえる。
泣きながら誰かを呼んでいる声がする。
「お願い。目を覚まして...葵...行かないで...」
「お願いだから。私を...私を一人にしないで...」
声のする方へ歩き出す。上手く歩けない。
それでも歩き続ける。行かないと駄目な気が
したから。暫く歩いたところで、1つの扉を
見つけた。
この先から声が聞こえる。少女は恐る恐る、
扉を開ける。開けた瞬間、何かに吸い込まれる
かのように意識が飛んでいった。
「...........」
ゆっくりと目を開く。目の前には白い天井が
見える。お腹の辺りが重い。
「ここは...どこ...」
まだ意識が朦朧としている。
お腹の辺りに顔を埋めていた女性が顔を上げる。
「葵!?葵....本当に良かった...本当に...」
泣き崩れていた女性が少女を見てそう言った。
長い時間泣いていたのだろう。
目が赤く腫れていた。
「あの。すみません。どちら様ですか?」
女性は言葉を失ったような顔をして、膝から
崩れ落ちた。
「そんな...葵...葵...」
何度もその女性は知らない人の名前を呼んで
いた。
「あなたのお母さんですよ。」
「自分の名前わかりますか?」
隣にいた看護師が悲しそうな顔で、
そう聞いてきた。
「私の...お母さん...何も思い出せない。」
「ごめんなさい...」
言葉が詰まる。何も思い出せない。
私は誰なのか。どうしてここにいるのか。
看護師の一人が母親を別室に連れていく。
母親は壊れたかのようにひたすら少女の名前を
呼んでいた。
目を覚ましてから1週間が経った。
看護師さんが教えてくれた。私は重度の
記憶喪失らしい。何一つ覚えていなかった。
私の名前は一ノ瀬 葵(いちのせ あおい)。
今は中学3年生だ。お父さん(一ノ瀬 雅)は
交通事故により既に他界していて今は
お母さんと二人暮らしをしている。
お母さんはあまりのショックで
あの日以来、ずっと寝込んでいる。
私の体は診断の結果、脳以外に大きな障害は
なく、2週間様子を見て退院出来ることに
なった。入院中、お母さんが病院に来ることは
1度もなかった。
「やっと退院か〜。」
「病院は退屈だった?」
看護師さんがそう聞いてきた。
「退屈でしたよ〜。」
「だって毎日検査してゴロゴロしてただけだもん」
「病院の外には出られないもんね。」
「まりちゃんのおかげで楽しかった!」
「私も楽しかったよ。」
「高校は北海道の学校に行くんでしょ?」
「体に気をつけてね。」
「ありがとう。」
「まりちゃんは北海道行ったことある?」
「あるよ。丁度今時期かな。」
「すっごい寒かったの覚えてる(笑)」
「でも海鮮がね、すっごく美味しいから
葵ちゃんも食べてみて。」
暫く談笑していると母親が病院に到着した。
お母さんと会うのは、あの日以来だった。
なんだか緊張でソワソワしてしまう。
何を話せばいいのだろう。私はこの人を
よく知らない。
「お母さん。久しぶりだね。」
「なんかお母さんって言うの慣れないな〜」
気まずい空気が流れる。
「葵。会いに来れなくてごめんね。」
「お母さん驚いちゃって...」
「中々、現実を受け止めきれなくて...」
また泣いていたのだろう。
目は赤く腫れているし、疲れたきった顔を
していた。
「でも、お母さんはもう大丈夫。」
「葵が生きていてくれるだけで十分
なんだって気づいたから」
「こんなお母さんだけど一緒に居てくれるかな。」
瞳には涙が滲んでいた。
「お母さん...これからもよろしくお願いします。」
なんて言葉をかけていいか分からず、
葵はそう答えた。
この人が母親だと言う実感がまだ無かった。
「ここが私のお家...」
「何か思い出した?」
「ううん。何も。」
「じゃあ、入ろっか。」
「最初は落ち着かないかもしれないけど。」
家に入るとすぐ、自分の部屋を案内された。
「ここが葵の部屋だよ。」
「私は晩ご飯の用意してるね。」
「お母さん。ありがとう。」
自分の部屋に入る。
部屋全体は白で統一されていて、ベットに
はぬいぐるみが沢山置いてある。女の子
らしい部屋だ。ベットに倒れ込み思わず、
ため息をつく。
「はあ〜。なんだか落ち着かないな。」
「私どうして記憶喪失になっちゃったんだろう。」
葵は記憶喪失の理由が府に落ちなかった。
病院では、交通事故にあったとだけ伝えられ、
具体的な内容までは教えてもらえなかった。
何度も訊こうとしたけど具体的な詳細までは
知らないの一点張りだった。
「お母さんに聞いてみようかな〜」
慣れない環境で疲れたのか、気づけば
眠っていた。
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