第5話 大学生活について 2


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山深く人知れず咲く、名はなけれど清楚な花一輪、立ち去りがたい、簡素で自然で静寂で、望めるものなら香気と身と心にしみとおる翳りと凛乎たる気品が漂うような、そんな建築が創れたらとの思いを片時も忘れない          

                                松村正恒___________________________________________________________________________





前回は、大学入試までのことを書きました。今回は、大学1年生のときを振り返りたいと思います。

 私の人生で、初めての1人暮らしとなり、不安もありましたが、自由な時間が増えたこともあり、楽しみでしかありませんでした。特に、ホームシックにならず良かったです。(笑)

しかし、私が住んだ所は、アパートではなく、下宿でした。なので、家賃なども安く、賄いもあったので、自分の部屋の大きさが、4.5帖と小さいこと以外は生活しやすかったです。また、1年生の仲間が4人いて、そのうち私を含めて3人が、建築工学科だったことを知った時、運命を感じました。


 大学のカリキュラムとしては、1年の間は、数学や物理などの専門教養科目に加えて、スポーツ科目や外国語などの一般教養科目が多かったです。勿論、建築を学ぶ上で重要な構造力学などの専門科目も学びましたが、比率は、教養科目が多かったです。前回も書きましたが、この頃のモチベーションは、将来の夢よりも成績優秀者となることでした。成績優秀者、そして学費の半額減免を目指すには、出来るだけ良い評定をとり、既定の評定平均を目指すか、上位5%になるために努力しました。あの頃を振り返ると、教養科目が多く、建築を学ぶという感覚が薄かったこともあり、設計者になることが、モチベーションになりませんでした。

また、サークルにも所属しました。そのサークルは、建築系のサークルで、1年の頃から精力的に活動できるところだったので、所属しました。1年生の間は、建築図面のトレースと模型製作が主な活動でした。本来、正式な科目で学ぶ時期は、2年生からなので、先取りすることができました。そして、1年後期のサークルの活動で私の人生の大きな転換点を迎えます。所謂、ターニングポイントというやつです。


 1年後期に、サークル内で自分の好きな建築物の模型製作を行い、どんな建物か発表することが決まりました。その題材を夏休みに決めたのですが、実家に近い日土(ひづち)小学校の校舎に決めました。理由は、1度新聞で名前を見たという軽い理由です。新聞では、保存改修工事を経て、重要文化財に選ばれたという内容で、これを見たのは高校生でした。なので、調べるのも悪くないかなと考えていました。後に知ることですが、戦後建築で重要文化財に指定された建築物は、広島県にある広島平和記念資料館と広島世界平和記念聖堂、そして愛媛県にある八幡浜市立日土小学校中校舎及び東校舎であり、3つしかなく、かなり希少であると言えます。

 私は、どんな建築物か知るために、自治体主催の見学会に参加し、実際に訪れました。見学会では、実際に保存改修工事を行った設計者やそこで学んでいる小学生が、日土小学校の校舎を説明していました。この見学会の感想は、一言で足ります。



                「感動」



もう、感動しかありませんでした。地域と完璧に一体化した建築物、子供のことを第一としたあらゆる仕掛け、1956年及び1958年当時としては画期的な構造デザイン、そして、この小学校を今なお利用する近隣住民の愛着に感動しかありませんでした。この建築を見れば、他の建築が見劣りしてしまうほどでした。この時、この建築を知りたい、この校舎を設計した松村正恒のことを知りたいという気持ちが、膨れ上がりました。


 日土小学校については、機会があれば詳しく別の回に書いていきますが、日土小学校は、その当時、すなわち戦後の建築の主流だったモダニズムという部類に入る建築です。モダニズム建築の特徴を書くと、機能的、合理的な造形理念に基づく建築です。このモダニズム建築の構造の大半は、鉄筋コンクリート造か鉄骨造なのですが、日土小学校の校舎は、木造により実現するというまれな建築でした。また、学校建築において、日本でクラスター型教室配置計画を採用した唯一木造による最初期のものです。まず、クラスターとは、ブドウの房の事です。ブドウを思い浮かべてほしいのですが、ブドウは幹があって枝があって実がたくさんぶら下がっています。このイメージで語るなら、クラスター型教室配置とは、廊下という幹があって前室という枝があり、実としての教室があるという配置の仕方のことなのです。これを、片田舎の小さな学校が実現していることに驚きました。しかし、この建築の一番の良さは、何といっても建築空間の豊かさです。

これ以上は、専門的になるので、興味を持った方、建築を学びたい方は、この建築を調べてみてください。おすすめの建築です。また、別の回でも書きます。


 後日、この日土小学校の建築模型を作り、サークル内で発表しました。発表には、多くの学科の先生が、お越しになり、緊張しました。まだまだ専門知識が足りない私に対して意地悪な質問が飛んできましたが、それも良い経験となりました。ここから、日土小学校のことを独自に調べることになります。また、勉強のモチベーションも、半額減免を目指すだけでなく、もっと松村正恒を知りたい、松村正恒のような設計者になりたいと考えるようになり、そのために、専門知識を勉強したいという風になりました。そのおかげか、半額減免を勝ち取り、ますます、やる気になりました。


以上が、大学一年生の時の学生生活でした。ほかにも、旅行に行ったり、ボランティア活動を行ったりと、今振り返ると、かなり忙しく、充実した1年でした。

次回は、大学2年生の頃を書きたいと思います。お付き合いして頂き、ありがとうございました。

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