第七十一話 はいてない
天文十九年(1550年)5月
今津の町ではMMRの商家メンバーである
先日越後の
老舗百貨店として有名な高島屋は初代の
近江商人は「売り手よし、買い手よし、世間よし」の
近江商人の中でも
そのうちの南市は高島郡の南市(現在の高島市安曇川町田中の南市地区)の商人であり、高島屋は彼ら南市の商人を傘下に治めゆくゆくは九里半街道を通る五箇商人をも統制しようと目論むものである。
(ちなみに
九里半街道の起点であり
そう、「高島屋」は幕府によって平定した高島郡の利権を美味しく頂くための悪の秘密結社なのである。
義藤さまに美味しいものを貢いで幕府から各種特権を獲得して、俺はこの秘密結社を操る影の支配者として君臨するのである。経営は面倒くさいのでMMRに丸投げしましょう。
MMRのメンバーに「高島屋」への出仕を強要するため脅しをかけたり、南市の商人を幕命にて召還し今津に強制移住させる命令を出したり、今津に拠点を構える他の五箇商人と面会するなど、商人との会合を重ねた。
さらに父の三淵晴員や他の奉公衆らと今後の高島郡統治の打ち合わせも行うなど俺は多忙を極め、幕府軍の本陣を置いた今津の町の
義藤さまの部屋に声を掛けるのだが返事がない。しょうがないので返事を待たずに恐る恐る入室する。
むろん義藤さまは
「藤孝、遅いわ」
「もうしわけありませぬ。この今津や高島郡の統治で打ち合わせを行っておりました」
「まったく、せっかく可愛い格好をしてそなたを喜ばせてやろうと思っていたのにこんなに遅くなりおってからに」
最近はこのパターンが多い。可愛い格好をしていれば俺が喜ぶものと思っているのだろう。
「
「とりあえず、そこで正座するがよい」
「若狭の
「む、その方はわしが美味しい物を食べれば機嫌が良くなるとか思ってはいないだろうな?」
そりゃあ、思ってますがな。
高島屋の商材として組屋隆行と試作している
サザエの良い香りに義藤さまはヨダレを垂らさんばかりになってくる。
「さあ、一緒に食べましょう」
「……仕方が無いな。許す近うよるがよい」
美味しい物を食べてようやくご機嫌斜めが終わってくれる義藤さまである。相変わらずちょろいものだ。
◆
「では高島の統治について詳しく聞こうか」
義藤さまそう言って、ヒザをパンパンと叩いて俺を手招きする。膝枕で懐柔して俺の口を割ろうという魂胆であろう。
膝枕如きでこの俺様が喜ぶと義藤さまは思っているようだが……むろんめっちゃ喜ぶに決まっておる。犬っころのように義藤さまに擦り寄る俺である――わんわん。
「義藤さまの御威光により高島郡の平定がなりお喜び申し上げます」
「いらぬ世辞はよい。高島郡の平定はなったわけだが今後の統治や者どもの論功は如何様に考えておるのだ?」
「山門領は代官を置くに留めますが、基本的には高島郡全域を将軍の御料所といたします」
「
「彼らは外様衆から奉公衆に鞍替えですね。家格は落ちることになりますが、彼らからは内諾を得ておりますので問題はないかと」
「扱いづらい外様衆から奉公衆に代えてわしの手足となる直属の兵とするわけか」
「高島四天王に加え、こたび功のあった
居初宗助と猪飼正光には
「大御所と相談が必要であるが、彼らを奉公衆とすることに問題はなかろう。京より率いて来た奉公衆らの恩賞はどうするのか?」
「功績に応じて各地の代官に任じます。高島遠征の副将でありました
「そなたの
「我が三淵家は公方様に対して最も忠義厚き家と言っても過言ではありますまい。父の三淵晴員や兄の
「そなた……わしのひざの上でそんな仰々しくしゃべっても格好はつかぬぞ。それよりも……父と兄をお願いしますと、わしに
上から俺の顔を覗き込みながら、少しイジワルな顔でからかってくる義藤さまである。
「ち、父と兄をお願いいたします」――顔を真っ赤にしながらお願いする。
「そなたは
俺の頭を撫でながらニコニコしていやがる。
「あ、ありがたき幸せにござりましゅ……」――恥ずかしいわ。
「ほかにおねだりしたいことはあるのか?」
「我が旗下として功のありました和泉細川家を、清水山城へと所替となる三淵家に代わり大垣の代官に任じて頂きたく」
「
この娘(将軍です)、完全に楽しんでいやがる。
「お、おねがいでござりましゅー」
義藤さまのひざの上でモゾモゾしながらおねだりする。
「こ、こら! くすぐったいから動くでないわ。あまり
ペシリと頭を叩かれたが、堪能したふとももの感触は最高であった……
だが、ふとももを堪能したから和泉家の恩賞が無くなったとなれば、
「な、なにとぞお許しくだされませ」
「まあよい。和泉細川家の件も
ずっと自由にふとももの感触が味わえるのなら全て捨てても良い気がしないでもないが、さすがに頑張ってくれている家臣の手前、そういうわけにもいかぬか。
「この今津の町と保坂の関の代官に任じて頂きたくあります。高島屋を責任者として巧く治めてみせましょう」
「ん? 高島屋とはなんであるか?」
義藤さまに高島屋の説明をする。
「それで、コソコソと商人どもと会っていたのか。まあよいじゃろう。そなたの望みのとおりにするがよい」
「ありがとうございます」
別にコソコソ会っていたわけではないのだが……まあ、とりあえずこれで高島郡を獲った主目的は達成できそうだな。高島屋にはいろいろと幕府から便宜をはかるのでがっつり儲けてもらおう。
「そなたへの褒美はそれだけでよいのか? ほかに所領が欲しいとかは無いのか?」
「代官の配置だけで十分であります。私が欲張りますとほかの奉公衆にいらぬ恨みを買いかねませんので」
「ふむ殊勝であるな……わしからも何か……そういえば藤孝、実はそなたにひとつ言い忘れていたことがある」
「は?」
「わしは今、
な、なん……だと……!?
◆
義藤さまの衝撃発言にビックリして飛び起きてしまった。マジマジと義藤さまが「紐パン」を履いているであろうとある箇所を凝視してしまうのだが、何だかすごくエロく感じるから不思議なり。
「あ、あまりジロジロ見るでない。
「ちゃ、茶屋がそう申したのでありますか?」
おのれ茶屋明延、裏切りおったなぁ。
「茶屋を怒るでない。茶屋にはわしが無理やり白状させたのだ」
「だからどうやって白状させるのでありますか?」
「それは……内緒じゃ。念のため言っておくが、茶屋は紐パンをわしに売りつけてはおらぬぞ。そなたへの予備の品であった物をわしが無理やり献上させただけじゃ」
「ぬぐぐ」
「そなた茶屋明延と何やらいろいろな物を作っているようじゃな。ほかにも『えぷろん』やら『
三角巾や包帯は怪我の治療用だけどね。この時代の怪我は
エプロンはむろん料理における衛生の確立のために作らせたものだ。決して義藤さまに「裸エプロン」をやってもらおうと作ったわけでは……ないぞ。
しかし体操着の件までバレそうではないか、茶屋の野郎はどこまで白状させられたのだ?
――注意:ここからアホな力説がはじまります――
説明しよう♪
実はこの時代というか戦後に洋服が広まり、女性用の下着が普及するまで、日本の女性には下着を着用するという習慣がほとんどなかったりした。
江戸時代には男のような
そう、この時代の女子は「はいてない」のである。
義藤さまも実は、今まで「はいてない」のであった。
男どもが多くの
諸君、そんなことが許せるか? いいや許せるはずがないのだ。
そこにはあるべきものがなければならないはずなのだ。
そう……純白に輝く「パンティー」がなぁ!
そこで俺は純白に輝くパンティーを作ろうとしたわけだ。だがそこで愕然とすることになるのだ。
体操服とりわけブルマを作る時にもその問題に直面したのだが、この時代にはまだ「ゴム」がないのだ。(ゴムひもです)
ブルマはなんとか伸縮性のある
では、どうすれば良いか。ようするにゴムを使わなければよいのだ。だが、ゴムを使わないで作れる下着なぞがあるのか?
俺は戦のことなどそっちのけで必至に考え抜いた。
そして生み出されたのが――「紐パン」だ。
明治の世になり西洋から下着が輸入されるようになっても、戦後までパンティーが普及しなかったことには実は理由がある。
パンティーは用を足すのに不便であったのだ。
洋式便器が日常となった現代の人には分からないだろう。あの
そう、和式便器では「またがる」という行為が必要であり、下着を
これが我が国において女性用下着、いわゆる「パンティー」が普及しなかった要因とされるのだ。
(いろんな説がありますというか、とても
だが、それが「紐パン」であればどうであろうか?
脇の紐をひっぱるという実に簡単な行為で
そう紐パンこそが我が国のトイレ事情にマッチングするフェイバレットなパンティーであると言っても過言ではないのだ!
この紐パンを日の本の
紐パンは売れる。たぶん、もしかしたら、きっと売れるはずだ。これは大きな
義藤さまに「紐パン」を履かせたいとか。
義藤さまの「紐パン」姿を拝んでみたいとか。
義藤さまの「紐パン」をこの手で脱がせてみたいとか。
決して、そんな邪な気持ちで作ったわけではないのだ。紐パンは
この紐パンは日の本津々浦々の女子の心を奪うこと間違いなしであろう。日の本すべての女性に紐パンをお届けすることが、俺が戦国時代に転生した使命であったのだ!
――アホな力説おわり、お疲れ様でした――
「高島の平定のために頑張ったそなたに何か褒美となることはできないかと、わしなりに考えたのじゃ。わしのために作らせたであろう紐パンを履くことはそなたへの褒美にはなるのか?」
さ、誘っていやがる。あ、明らかに誘ってらっしゃっていやがる。
なんだ? これは
「もしかしてそなたはわしがこの紐パンとやらを履いているところを見たいのではないかと思ったのだが……そうではないのか?」
「それがしに褒美をとお考えであれば、是非ともお願いしたい仕儀が」
「うむ。それは何であろうのう」
「よ、義藤さまの、ひ、紐パン姿を所望したく……」
「そなたは……やはり高価な太刀や所領よりも、わしの紐パンがよいと申すのであるか?」
「は、はい……そのとおりであります」
「そんなにわしの紐パンが見たいのであるか? そなたが土下座をしてわしの下僕になるのでお願いしますと、必死に頼むのであれば……考えなくもないぞ」
頭の中の種か何かを割った俺は人間の限界を超える速度で光速土下座を決め、頭を畳に擦り付けて願い出るのだ。
「私は義藤さまの忠実なる下僕でございます。哀れな下僕に何卒、義藤さまのパンチラのお恵みを
この俺をみくびるな!
義藤さまのパンチラを拝むためなら尊厳などかなぐり捨てる男よ!
土下座なんて屁でもないわ!
「そ、そこまでするのかお主は。じょ、冗談じゃ。そ、そんな破廉恥なことをするわけが……ところでパンチラってなんじゃ?」
俺のただならぬ雰囲気に立ち上がって後ずさりしてしまった義藤さまの足元に、パサリと落ちるものがあった。
それは紛れも無い……紐パンであった。
慣れぬ下着の着用であり脇の紐が緩んでしまったのであろう。
義藤さまが今の今まで着用していた「ほかほか紐パン」が俺の眼前に現れたのである。
そう義藤さまは今現在、「はいてない」のだ。
さっきまではいていたのに、今は「はいてない」のだ。
征夷大将軍であろうが年下の可愛い女の子であろうが、もはやそんなの関係ねえ!
「フオオオオオオオオッ!!」
パンチラをどうしても拝みたい俺は奇声を発して、義藤さまが落とした紐パンをむしり取った。
「よ、よるでない。こ、このケダモノー!」――義藤さまは身の危険を感じた。
「この紐パンを今すぐ
だが、安心してください……
義藤さまが「はいてない」のは認めることができないのだ。
モロダシではダメなのだ。
「はいている」パンチラこそが究極でありパンチラこそが至高なのだよ!
「け、ケダモノのような目でわしを見るでないわー」
パンチラのためならケダモノにでもなってくれよう。というか、すでに心はケダモノと化していた。義藤さまは紐パンを
義藤さまに対し奉り、紐パンを持ってにじり寄る所であったのだが、そこに余計な侵入者がやって来てしまう。
「
お邪魔虫は
「とってもお楽しみ中だ! 主命である、邪魔するな源三郎!」
「べ、別にお楽しみ中でもなんでもないわ。それより源三郎よ、良い所へ参った。このケダモノを手打ちにするための
だが、源三郎の告げた言葉は「お楽しみ中」なぞやっている場合ではないものであった。
「恐れながら申し上げます。勝軍山城の大御所様がご危篤であり、明日をも知れぬ容体とのことであります――」
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