第三十八話 織田信長<下>
織田信長殿と対今川戦略などで意気投合してしまった。
桶狭間の戦いなど未来の話をできるわけがないのでそこは伏せているが、今川家の存在は織田家にとって脅威であり、この先十数年の長きに渡る戦いになるであろうことで意見を交換しあった。
「織田家にとっての大敵は今川家であるということです。斎藤道三殿との和睦は必須でありましょう」
「そうよ我が織田家の敵は今川家と、今川に結びつこうとする
今川家に結びつこうとする輩とは、織田大和守家に巣食う小守護代の
織田大和守家に巣食う小守護代らを史実より早く駆逐し、尾張を早期にまとめることができれば、織田信長は史実よりもっと有利に今川家と争うことができるだろう。
「できれば松平家も取り込みたいものです。織田家には
通説ではのちの『徳川家康』である竹千代は1497年の8月頃に戸田氏の裏切りに遭い、
だが最近の説では家康の父である
この時期には竹千代は
「松平広忠殿を織田家になびかせろと?」
「松平
「今の当主である松平広忠ではなく、竹千代という坊主をもてなせと言うか」
「時期を見て竹千代殿を岡崎にお返しして、松平家と結ぶことを考えてもよろしいかと。一時期とはいえ三河の大半を治めた岡崎(
「そうであるな。今川家の軍勢を親父殿が今頃抑えてくれておれば、松平家と結んで今川家に対抗するのもよいだろう」
残念ながら史実どおりの結果なら、今頃『
このあとの織田弾正忠家は今川家に押される一方となる。
なんとか
あまり織田信長に肩入れし過ぎて歴史が変わり、桶狭間の戦いが起こらなくなると、歴史が変わりすぎて先が読めなくなる恐れもあるが、桶狭間の戦いがなくても織田家は今川家には敗れはしないと考えている。
今川義元の桶狭間における敗因は、兵力を
簡単に言ってしまえば兵力を分散し手薄になった本陣を織田信長率いる馬廻りの強襲を受け中央突破されて負けたわけだ。
若い頃の織田信長は自らが先頭に立って味方を鼓舞し、敵将すらその手で討ってしまうほどであり、柴田勝家をも恐れさせた猛将である。
また自らが鍛えた馬廻り衆は上杉謙信の
桶狭間で信長が率いた2千の軍勢は寄せ集めの兵ではなく、信長軍の精鋭である馬廻り、
信長の馬廻りは寡兵で多くの敵を打ち破っている。
弟信勝との戦いで柴田勝家を退け、林秀貞の弟を自ら討ち取ったといわれる『稲生の戦い』も相手より少数の軍勢で勝利している。
織田信長という男が健在であれば、すでに太原雪斎や
小豆坂の戦いは逆に太原雪斎や朝比奈泰能が健在で戦闘力では今川家の最盛期だったりするので勝ち目が無い。
織田信長という男はやはり早い時期から公方様の味方にしておきたい存在である。
もう織田信秀ではなく、織田信長と和睦交渉を詰めてしまってよいのかもしれない。
織田信秀殿には公方様の力となる『時』が残されていないのだから。
「分かりました。和睦の条件をお教えしましょう。
「左近大夫(道三)の娘は美人か?」
「は? 政略結婚ですので容姿などは二の次でございましょう」
「それはまあそうなのだが、左近大夫にそっくりなおっかないマムシ娘だとしたら、すまんが少し考えさせてくれ」と言ってニヤリと笑う。
冗談のつもりなのだろう。
「残念ながら、私も道三殿の娘御にお会いしたことがありませぬゆえ容姿までは分かりかねます」
「であるか残念だな。それで親父殿がその条件を蹴ったらどうするのだ?」
「そうですな、斎藤道三殿率いる土岐家の本隊に、土岐
ハッタリ全開である。
さすがにそこまで上手くはいかない。
「……おみゃーさん、相当の悪だな。それでワレらを討ってどうするのだ? 何か将軍に利があるのか?」
「新将軍として武威を示すことが
本当にまったくもって織田弾正忠家を討つ意義など全くない。織田信秀や織田信長は室町幕府の権威を認めてくれるこの時代にあって貴重な存在なのだ。
織田信秀・信長父子の他には将軍に謁見するためわざわざ上洛までした大名など上杉謙信と
逆に今川義元は室町幕府の権威を必要としない体制をこの数年後の1553年に「今川
これは幕府が認めていた
どちらかと言えば信長は改革者などではなく、今川義元の方が改革者だったりする。
今川家は足利将軍家の権威を真っ向から否定し、過去において室町幕府が定めたものを無効化し、今川家は幕府の守護職としての職務も放棄するのである。
守護の職務たる守護
全国どこも似たような状況ではあるのだが、幕府的にはそれを今川家のように明文化されては困るわけだ。(どこも誤魔化してやっています)
世が世なら今川家は室町幕府から追討されてもおかしくないほどのことをやるのだが、もはや幕府にそのような力など無いと、完全に室町幕府は今川家に舐められているということだ。
ようするに今川家はこの
足利家の敵は足利だとかつて公方様に言ったことがあるが、今川義元とは足利将軍家の新たな敵なのである。
◆
「我が弾正忠家を討つことは本意でないということで良いのだな」
「私は弾正忠家の正式な
(というか元々大好きです。サイン下さい)
「おう、ワレもおみゃーさんが好きだで、美味いものをくれるしな」
「個人的なことではありますが、織田信長殿。この細川藤孝と盟約を結んでは下さりませぬか?」
「ワレとお主の盟約?」
「私からの条件はただの一つです。織田信長殿が我が
「何やらワレが一方的に恩恵を受ける盟約と成りそうであるがそれでよいのか? ワレには今のところお主を助けることなど難しくはあるが……」
「それだけ織田信長という男を買っているとお考え下され。それにまずは織田信長殿でなければ今川家は押えられない」
「なぜお主は今川家をそこまで敵視するのだ? 今川家は足利将軍家の一門であり幕府の守護であろうに」
「いずれ信長殿もお分かりになることとは思いますが、今川義元という御仁は室町幕府を、我が主たる足利義藤公を認めない者なのです」
「おみゃーさんはなぜ今川義元をそこまで知っているのだ? いや、今は聞くまい。この三郎信長と兵部大輔殿の目的がまずは一致していることが
「今川家を良く思っていない点では一致しております」
「相分かった。この織田三郎信長は細川兵部大輔藤孝殿との
「いえ、私ではなく公方に敵対しないことを誓って欲しいのですが……」
「な、なんじゃ! せっかく格好良く宣言したのに台無しではないかあぁ」
信長殿がまたもや赤面してしまった。だから男の赤面なんぞいらんて。
「あくまで私は我が主の足利義藤さまの栄達のみを望むものでありますので、申し訳ない……」
「分かった、分かった。この三郎信長は公方様の、足利
「はい。結構であります」
「なんなら
「あのような迷信は不要です。信長殿は信義に厚き御方とお見受け致しますゆえ」
熊野牛王符はこの戦国時代で誓約などによく使われた物であり、豊臣秀吉がその臨終の際、五大老などに豊臣秀頼への忠誠を誓わせたことなどが有名だが、結果は知ってのとおりであり、ようするに意味がない。
「何やら相当見込まれておるようじゃが、ワレはうつけと呼ばれる者ぞ。よくそこまで信用する気になるものだな」
信用というか知っているだけなのだ。
織田信長という男は裏切られることは多くとも、自らが先に裏切ることが無いことを。
そして戦国の世にあって、特に情に厚き男であることを知っているだけなのだ。
(晩年の
「織田信長という男が公方様に刃を向けることがあるとするならば、それはそれがしの不徳でありましょう。あと一応忠告しておきますが、いい加減『うつけ』な
「敵とは誰のことだ?」
「織田家中の信長殿を理解できぬ御仁達にござる」
「そのような者は放って置けばよいのだ。どうせ使い物にならぬ者どもよ」
「それが家老の林秀貞殿や平手政秀殿に、織田家でも猛将で知られる柴田
「爺や柴田だと……」
「まず、この藤孝が信長殿を支援できることがこれでありますな。忠告です。少しうつけを控えて林殿や柴田殿に歩み寄るがよろしいかと。よろしければ私から両名を茶の湯にでもお招きしますが?」
「いや分かった。それにはおよばん。まずはワレでなんとかしてみよう」
本当に大丈夫かね? 何かやらかさなければいいけど。
◆
「ほかに忠告できることは織田大和守家でありますな。織田大和守家の小物どもは美濃と通じておりますので」
「それは確かな話か?」
「間違いなく確かです。清洲の小守護代とはこれから弾正忠家に対抗して共闘する話になっているとか、直接道三殿の口から聞いておりますので間違いなく確かな話でござる」
「道三もそれをおみゃーさんに漏らすかねぇ」
「まあ、弾正忠家との和睦が成れば不要な連中でしょうからな。そんなヤツらより織田弾正忠家との和睦の方が道三殿にとっては大事でありましょう。私が
「織田大和守家を滅ぼしてしまえと?」
「滅ぼす必要はありません。坂井大膳亮などの小守護代どもを追放するだけのこと。守護も守護代も信長殿が
「幕府がそれを認めるのかね」
「必要ならば公方様に非公式のお墨付きを貰って参りますが?」
「もらえるのかよ!」
「既に役に立たぬ守護や守護代より、公方様に忠義の厚い織田弾正忠家を厚遇するのは当然のこと。守護代も守護代の取りまきも、なるべく命は取らずに追放してくれれば、こちらとしては特に問題はありませぬ」
まったくもって余談なのだが、細川藤孝の一番家老である
そんなわけで坂井大膳の一族が
「ようは
「別に守護の斯波家や守護代の織田彦五郎を君主扱いしなくてもかまいませんよ。織田弾正忠家は公方様の
「は? 公方様の直臣だと?」
「はい、大垣の寄進がなれば奉公衆の
そのためには俺は相当金を使うと思うがな……
「御供衆になれば守護不入の権利が認められるわけよな」
「むろんです。公方様の直臣でありますので本来守護の権限は及びません。まあ奉公衆などは各地で所領や代官職を押領されまくりで
(ちなみに今二人が喋っているのがその那古野城である)
那古野氏とは一般的には『
今川義元の弟とされるがどうにも出自は今川本家ではなく傍流の出から那古野氏の養子になったと思われる。
今川氏豊は1538年に織田信秀に那古野城を追い出されている。
今川氏豊は奉公衆の今川那古野氏なので駿河の今川本家とは実は全然関係なかったりする。
桶狭間の戦いにおける今川家の目的がこの那古野城の旧領回復を目的とするなどの説もあったりするが、那古野城は駿河今川家の物でもなんでもないので、その説には少し無理があったりする。
「今さらこの那古野を返せとは言わんのだろう?」
「まあそうですね、ですがこの那古野の分の代官も公認させましょうか。いくらか年貢を納めてもらうことにはなりますが」
「那古野の領有について公方様から公認が出るなら安いものであるな」
「そういうことです。公方様の持つ権限は使いようですので」
「おみゃーさん本当に公方様の忠臣なのか?」
「最近よく言われます……私は公方様を助けることしか考えていないのですが、何故か最近よく疑われて困っておりまする」
「まあよい、ようするに斎藤家の娘を正室として迎え、大垣城から我らは撤退すれば良いのだな?」
「できれば大垣城にて、会盟の機会を設けたいと考えております」
「会盟とは?」
「土岐家・斎藤家と斯波家・織田家の会盟に相成ります――」
◆
織田信長に請われて、那古屋城内で我が鉄砲隊の調練をおこなっている。
「
パパーン
「おい、そのあるふぁ? とか、ふぁいえるとは一体何なのだ?」
我が隊の調練を見ていた信長が当然の如く、我が鉄砲隊の奇妙な掛け声を不思議に思い聞いてくる。
「これは
「おいおい、次弾の準備が早過ぎやしないか?」
「我が鉄砲隊には
「早合とはなんぞや?」
「こたびの和睦が成れば、鉄砲隊の運用法についても指南いたしますよ。それに
「硝石の作成法だと? 早く教えろ」教えるのは
早合についてもペーパーカートリッジに使う紙を
さらには火縄銃の雨天での運用については、美濃紙を油で浸し、撥水性を高めた
火薬の調合や古土法による硝石の作成方法などもいずれは織田信長にも伝授する予定である。
どうせ、どれも早々に広まるものなので出し惜しみせずに信長に恩を売るために提供しょうと思う。
今はもったいつけてるけどな。
信長殿は早く教えろとうるさいが、織田信秀が和睦を呑んでからである。
「和睦が成ればいろいろと教えて進ぜますよ」
「ケチくさいのう」そんなこといわれてもなぁ。
と、そこに平手の爺さんが慌てた様子で駆け込んで来た。
「若殿! 大殿が、大殿が!」
「なんじゃあ、落ち着いて話さんか」
「大殿が、大殿が、三河にて今川軍に敗れたよしにござりまする!」
「で、あるか……
「何を落ち着いておるのですか若殿! 一大事にござりますぞ!」
「勝敗は
「はっ、直ちに」平手殿が転げるように帰っていった。
「兵部大輔殿。こういう仕儀に相成った。親父殿を連れて帰って戻るゆえ、しばしお待ち願おう」
「はい。お待ちしております。今川軍の追撃があるやもしれませぬ。信秀殿を無事にお連れ帰りください」
「すまぬな。だがこれで、美濃との和睦は上手く行くかもしれぬ。では、失礼する」
この時点では打てる手がない、
やるべきことはこの後のことになる。
織田信秀の美濃への出兵を回避し、持てるリソースを尾張内の平定と対今川家に集中させ、せめて三河の
今は、信秀と信長の帰還を待つほかはない。
というわけで、郎党どもには鉄砲の訓練を続けさせ、俺は義藤さまの土産でも『偽造』しながら待つことにした。
作っているのは『ういろう』である。
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「ういろう」
名古屋名物の『ういろう』は1659年創業の『
元々『ういろう』とは『
1386年に日本の博多に渡来して帰化した
外郎家二代の『
大年宋奇は
この京の『外郎家』から、小田原に下向し北条早雲に仕えたとされる『小田原外郎家』が出て現在は小田原の『ういろう』が元祖とされたりもするのだが、小田原の外郎家は実は京の外郎家の被官であったらしく、また基本は薬屋であったので、小田原で菓子の『ういろう』を作り出したのは明治期という話もあったりする。
そのためお菓子としての『ういろう』の元祖は『餅文総本店』であり、その製法を伝えたのは尾張藩に仕えた明出身の『
この陳元贇は書道家であり、文人であり、陶器職人であり、拳法と柔術の創設者だったり、お菓子職人だったりするわけの分からない化物だったりする。
――謎の作者細川幽童著「どうでも良い戦国の知識」より
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那古屋城の台所を借りて、『ういろう』を試作する。米粉に小豆餡とメープルシュガーを混ぜて蒸しあげて小豆味の『ういろう』を作る。
別に米粉に抹茶とメープルシュガーを混ぜて蒸しあげた、抹茶味の『ういろう』も作ってみた。
とりあえず、米田源三郎と斎藤利三に食わせてみたが、喜んで食べている。
この出来なら公方様も喜ぶであろう。
とりあえず偽造だが尾張名物は出来たので、これで安心して慈照寺に帰れるわ。
◆
織田信秀が敗軍をまとめて
信秀のこの時点の本拠である古渡城は敗戦ということもあり落ち着いておらず、那古野城にて織田信秀に信長、平手政秀と会見することとなった。
「お久しぶりでござるな与一郎殿。いや
「弾正忠殿(信秀)におかれましては、こたびの敗戦はご苦労の多きことでありましたな」
「なあに、こたびは負けはしたが次は今川ごときに負けはせぬわ」
織田信秀も織田信長も戦に負けてもくじけない所があり、それは尊敬できるところであると思う。
「で、三郎より聞いてはいるが、
「はい。
土岐頼芸はオマケであるが一応ね。
「わしとしても和睦は良いとは思うがその条件がな。大垣城は我が織田家が領有しているものぞ。その手に無いものを放棄する斎藤家の懐は痛まぬであろうが、我が織田家には少々高くつく条件であると思うのだが?」
「斎藤道三殿はその息女を三郎信長殿に嫁がせることになります。これは言わば人質も同然のこと、斎藤家だけが得をするだけの条件ではありますまい。それに大垣は斎藤家の物になるわけではなく
「左近大夫の娘を三郎の嫁にのう、それは悪くはない話ではあるがな。御料所として大垣を寄進することで得る旨味が問題であるな」
「交渉次第ではありますが、織田弾正忠家を将軍家の
尾張海東郡はかつて、一色
そのため信秀の父である織田
この頃にはすでに一色兵部家は尾張の支配を失い
ようするに織田弾正忠家の支配地の追認なわけだが、室町幕府の公認は軽くはない。(まだね。そのうち意味なくなりますが)
「ううむ。誠に認められるなら考えなくもないが……」
そこに信長が口を挟んでくる。
「親父殿。美濃のマムシと争うよりは、尾張国内を攻めるべきであろうぞ」
「尾張国内だと?」
「おうよ。清洲をこの際攻めるべきであろう」
「守護の斯波様や守護代の
「そこの兵部大輔殿から聞いたのだが、小守護代の坂井
「兵部大輔殿それは誠であるのか?」
「誠であります。私が和議の
「親父殿。この先の今川家との戦もある。ここは逆に斎藤道三と結び、足元を固めるため清洲の馬鹿どもを攻めるのもありだと思うのだが?」
「しかし、守護や守護代に刃を向ける大義名分が……」
「今のままの尾張では、今川家に対抗できぬことが分からぬか!」
俺の前で親子喧嘩を始められても困るのだが。
「さしあたり弾正忠殿も斎藤家との和睦には賛成頂けるものと思いますが、あとは大垣を寄進する条件次第ということで宜しいですかな?」
「思うところはあるが、条件次第では呑んでも良い」
「この和睦でもう一つ益となりますこともお考え下さい。京からこの尾張まで
「尾張の産物をのう」
「
俺が持ってきた清水の神酒にもみじ饅頭に
普通に会話してる風で、信秀も信長もさっきからガツガツ食っていたりする。(少しは遠慮しろてめーら)
「この酒に甘いものがいつでも手に入るということか。ついでに
「和睦が成れば土産にしようと、鉄砲を10挺ほど用意しております。それに鉄砲の運用法や、硝石の入手方法なども伝授いたしましょう」
「兵部大輔殿は何ゆえ我が弾正忠家に肩入れしてくださるのだ?」
「全ては公方様のため。斎藤家も織田家も我が
「親父殿。ワレを京に上洛させぬか?」
信長殿が突然変なことを言い出した。
「突然何をいうか
「親父殿は今川に
「うつけのお主を上洛させては我が家が滅びるわ!」
安心してください。
もはや室町幕府には遠い尾張の織田弾正忠家を滅ぼす力など既にありませんですぞ(涙)。
「礼儀はわきまえるゆえそこまで心配されるな親父殿。うつけの真似事も
「うぬのうつけが如き所業を止めるというのか?」
「くどい! そういったわ」
「な、なんと……」
ありゃ、横で平手の爺さんが泣き出したよ。
泣くほど嬉しいのかよ。
それに信秀殿も何気に顔がほころんでおるぞ。
「私からも三郎殿の上洛はお願いしたくあります。昨年の当主殿の上洛に加え嫡男までもが上洛し公方様に
「兵部大輔殿と一緒に上洛するのであれば、そこまで心配することもなかろうに」
「はい。土岐家に斎藤家と、斯波家に織田弾正忠家の和睦を成すため、その条件案を大御所様、公方様に上申するため一度私は京へ戻りまする。大切な嫡男殿ではあると思いますが、一緒に上洛することをお許し願えますか?」
「大殿、この爺からもお願いいたしまする。若殿を信じては貰えませんでしょうか?」平手の爺さんまでもが信秀殿にお願いする。
「お主までもがそう言うか……相分かった。兵部大輔殿、三郎のことよろしくお願い奉る」
うん。何やら勢いで織田信長がこんなにも早く上洛することになってしまったぞ。
今さらながらここまで歴史を変えて良いものか心配になってしまう。
それに本当にいいのかな? 『織田信長』なんて
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