第十四話 節分祭

 天文十五年(1546年)12月大晦日

 山城国 吉田神社



 幕府内での奉行衆ぶぎょうしゅうとの交渉や『カエデ』の選定などメープルシロップの本格的な採取の作業を行っていたころ、吉田神社の節分祭の準備も平行してすすめていた。

 蕎麦屋は南豊軒叔父に、鰻屋は吉田兼有さんにお任せで、俺は体が空けば中村新助と酒の加工に明け暮れ在庫の確保に努めていた。


 そして節分祭が始まった。


 今日は節分祭の始まる大晦日である。

 始まってだいぶ経つがえらく盛況である。

 蕎麦屋や鰻屋は順調に売上げを伸ばし、相変わらずの修羅場道である。

 お祝いなので酒もよく売れる。

 清原家も祭りの期間は訪問販売を止め、本殿前の出店で吉田家とともに売っている。


 単独ではやはり酒が一番よく売れるので、数日前から準備はしていたが、やばい勢いで売れるので、俺は酒の在庫を心配してしまう。

 売り切れたら売り切れたでいいのではないかなんて、清原家も吉田家もまったく許してくれないのである。

 仕方が無いので時間を見て中村新助と酒の追加加工もやっている。


 それでも少しは祭りの雰囲気を味わいたいので、こうして店や酒蔵を抜け出して祭り見物などもしている。

 吉田神社の境内は人・人・人であふれかえっている。

 吉田神社の節分祭は現代でも有名で50万人の人出があるという。


 だが、節分が大晦日や正月っていうのはやはり変な感じがする。

 節分といえば2月3日だよな。

 毎年まあマメと鬼のお面を買ってきて、鬼役になったものだ。

 あんなちっちゃい手で一生懸命マメを投げて、鬼の面にも喜んでくれて……


 アレ? なんで俺は泣いているんだ? なんだろう何か忘れちゃいけないものを忘れているような……アレなんだろ? 涙が止まらないや。

 ……はは、なんだこれ?


「おーい与一郎! 客だ! ちょっと屋敷まで来てくれよ」吉田兼見くんが俺を呼びに来た。


「与一郎、早くって……何でお前泣いているんだ?」


「ん、すまん、何かわからないんだけど、泣けて来てしまって……」


「……まあ、お前のおかげで昨日から節分祭は大盛況だからな。感動して泣くのもわかるけど。……いやだからお前に会いたいという客が来ているんだ。すまないが顔だけでも出してくれないか」


「俺に客?」 「ああ、とにかく屋敷まで来てくれ」


 兼見くんに連れられて、わけも分からず吉田家の屋敷に連れて行かれると、俺に挨拶をという国人領主達が待っていた。

 兼見くんの話によると、


 近江おうみの国人で山中やまなか磯谷いそがい氏の当主、磯谷いそがい新右衛門しんうえもん久次ひさつぐ殿。

 山城の国人で高野たかの佐竹氏の当主、佐竹蓮養坊れんようぼう殿。

 山城の国人で田中渡辺氏の当主、渡辺出雲守いずものかみ告殿。


 の3名であった。

 今のところ俺とは面識は無かったはずだ。

 聞けば、磯谷新右衛門殿は吉田兼右叔父の娘(つまりは俺の従姉妹いとこ)と婚約する話がまとまりかけているという。


 それに、佐竹蓮養坊殿は娘を連れて来ており、こちらはなんと吉田兼見と婚約することになったという。

 兼見くんはまだ10歳にも満たない佐竹氏の娘さんを嫁にするというのだ、実にけしからん話である。

 あとで兼見くんはいじり倒すことにする。


 山中磯谷氏と高野佐竹氏はこれから吉田家の縁戚えんせきとなるので、これは吉田家の顔を立てざるを得ない。

 それに田中渡辺氏と合わせて、この三家とはメープルシロップの件でも、吉田家を通じて協力依頼をしているので、やはり挨拶はさけられない。

 正直、俺はなんだが情緒じょうちょ不安定気味であったのだが、いたしかたない。


「わかった会うよ」 「すまんな」


 吉田家の屋敷の一間を借りて、彼らと挨拶をかわすこととなった。


 ◆


 彼らは一応幕府の被官ひかんという立場も持っており、先日俺が義藤さまに御部屋衆に抜擢されたことも知っていた。

 身分的には俺の方が上になってしまうので、えらく丁寧に挨拶をされてしまう。


「お初にお目にかかります。磯谷新右衛門久次と申します。与一郎様にあらせられましては、お見知りおきの上、なにとぞお引き立てのほど、お願い奉ります」


 渡辺出雲守殿、佐竹蓮養坊殿、「以下同文(略)」


「幕府の席ではなく、身内の席でありますので、そこまであらたまるのはご勘弁ください。皆様にはうどん処に蒲焼屋と食材の提供を頂いており、私の店も大変助かっております。今後とも良いご関係を続けていきたいと考えております。」


 この御三方は吉田兼右がソバや天ぷら用の野菜を買い付けている商売相手でもあった。

 三人ともソバや野菜を高く買ってくれて感謝しており、挨拶の名目めいもくは蕎麦屋と鰻屋を始めた俺に挨拶をしたいということであったのだ。

 3人とも口々に取引の礼を言ってくる。

 吉田兼右の叔父さんは別に買い叩いているわけではないのだ、市場に卸すよりは当然高く買ってあげている。

 我々も市場から買うよりは安く買えている。

 前にも言ったがWIN-WINの関係なのである。


「今も山林での焚き木の採取と雪解け水を頂戴しております。あれは良いお酒には不可欠でありますので、こころよく了解を頂きましてこちらも助かっております」(メープルシロップの件は微妙にせて礼をいう)


 せっかくこうして挨拶に来てくれているので、手土産代わりに今後欲しい季節の食材などを教えてあげて盛り上がった。


「ほう、に、に、に、に、ですな」佐竹蓮養坊殿は売れる山菜に興味津々である。


「ええ、まだ兼右叔父上には言っておりませんが、雪解けとともにそういった山菜などの買い付けを行う予定ですので、準備しておけば取引も捗るかと」


「これは我らも助かりますな。村の者にもいって用意させることにします」


「まったく、よい話がきけましたな」磯谷新右衛門殿も、渡辺出雲守殿も喜んでくれる。


 このあとは三人とも緊張を解いて、少しはくだけて話をしてくれた。

 やれ蒲焼は美味いだの黒うどんはザルがだの、いやいや天ぷらこそがだのと、お店の味について楽しく語り合った。


「ところで、与一郎様は新公方様のもとで御部屋衆になられたとか。新公方様はどういった方であらせられますかな?」


 どうやら本題に入ってきたようである。

 渡辺出雲守が新たに将軍となった義藤様の件を切り出してくる。

 吉田家にお願いして俺に挨拶をというのは、まあこれが本題だったのだろう。


「どうといいますか、まだお若いですが、勉学にも鍛錬たんれんにも熱心に取り組んでおられますよ」


「ほほう、勉学に鍛錬ですか。どういった勉学にはげんでおられるのでしょうか?」続けて佐竹蓮養坊殿が聞いてくる。


「あ、はい。今は孫子そんし三略さんりゃくの講義をさせて頂いております」


「もしかして、与一郎様が公方様に勉学の講義をされておいでとか?」


「ええ。今は私が講義をさせて頂いております。剣術の鍛錬などもよく一緒にやっておりますが」


「おおー! さすがは与一郎様、すでに公方様ともご昵懇じっこんのご様子」磯谷新右衛門殿がおおげさに感心する。


「え、ええ、よくお会いさせて頂いております」


「おおー! さすがは与一郎様、いつでも面会が叶うのでありますな。それで公方様はどういったお人柄であらせられますかな?」渡辺出雲守殿もおおげさに感心しさらに聞いてくる。


 ん? 「あ、はい。私にはお優しい良い主君であらせられますよ」


「おおー! さすがは与一郎様、すでに公方様の信頼を得ているご様子。それで公方様はどういったものを好んだりしますかな?」佐竹蓮養坊殿もおおげさに感心しさらに聞いてくる。


 んん? 「そうですね、私の料理は喜んで召し上がってくれますね」


「おおう!! さすがは蒲焼と黒うどんの与一郎様じゃ。すでに公方様の心を掴んでおいでとは」三人同時に感心される。この流れは一体なにさ?


「そんな与一郎様を見込んでお頼み申す」+「お頼み申す」×2


「あ、はい、何でしょう? 私にできることであれば」


「公方様はお若い時分じぶんからなかなかお人前に出ないご様子。我らはまだ公方様に拝謁はいえつすることが叶ってはおりませぬ。そこで与一郎様のお力添えを頂き、何卒ご拝謁の栄誉をたまわりたく。してお願い申し上げます」


「お願い申し上げます」×2


 3人に頭を下げられてしまったでござるよ。

 この前どこかの新店舗に突然現れたような気がするから、そのうち会えるんじゃね? ……というのはダメだろうな。

 これはどこかで謁見の機会を作るほかないな。

 あちらが願い出ていることだし、実は恩を売るメリットはおおいにある。


「分かりました、皆様のお気持ちにつきましては、私が公方様にお伝えしておきますので、機会をお待ちいただければ幸いです」


「おお、これはかたじけなく。公方様に何卒なにとぞよろしくお伝えくだされませ」


「よろしくお願いいたします」×2


 ピシャン! と、ここでいきなり障子戸しょうじどを開ける音がする。


「おお、藤孝! ここに居たか探したぞ!」……そこに謎の暴れん坊将軍(就任済み)が現れた。いかん、話がややこしくなりそうだとは思うが、これはチャンスじゃね? とも思う俺であった。


 ◆


 突然の乱入者におどろく3人には中座ちゅうざを詫びて、とりあえず謎の暴れん坊将軍を急ぎ別室にお連れして、事情を話してみようとこころみる。


「ヨシフ――」


 だが、まわり込まれた。


「藤孝! 鰻重じゃ、天ぷらじゃ、お蕎麦じゃ、節分じゃ、正月じゃ、お祭りじゃー!! 早く行くぞ♪ 皆も待っておるのだ」


「お、恐れ入りますが、義藤さま。少し私のお話をお聞き下され」とりあえず、ハシャギまくっている我があるじを落ち着かせる。


「むう。なんじゃ、はやく申せ」


「実は――」


 早く祭りに行かせろと、美味いものを食わせろと駄々をコネまくる義藤さまを説得し、なんとか3人を謁見えっけんすることに了解を頂いた。

 で、吉田家の大広間を借りて即席の謁見の儀の準備をしてしまう。

 我ながら強引ではある。


 大広間の上座には公方様が座り、脇を三淵晴員みつぶちはるかず三淵藤英みつぶちふじひで細川晴広ほそかわはるひろ飯河秋共いいかわあきとも沼田光兼ぬまたみつかね飯河信堅いいかわのぶかた千秋晴季せんしゅうはるすえ、そして俺といった奉公衆ほうこうしゅうの面々が固め、ついでに太刀持たちもちに仕立て上げられた新二郎が公方様の側に控える。

 即席とはいえ、しっかりした謁見の形式を作り上げてしまった。

 やろうと思えばなんとかなるものである。


 ここに座っている奉公衆の面々は、義藤さまのおしのびに付き従って来た奉公衆たちである。

 まあ全員親戚みたいなものだけどな。

 というか親父たちまで何やってるねん。

 聞けば、祭りと聞いて脱走しようとした、義藤さまと新二郎を傅役もりやくを任されていた飯河信堅殿が発見したのだが、連れ戻すことにえらく難儀し、周囲の者の相談の結果なぜか大御所様の許しが出てしまい、これだけの人数で警護しながら吉田神社まで祭りを見に来たらしい。


 なんとなく思っていたけど、大御所様って義藤さまに甘くね? あと警護して来た連中も吉田神社の関係者ばかりで、お前らただ祭りに来たかっただけじゃね? とか邪推じゃすいもしてしまう。


 義藤さまから祭りに来た経緯を聞いた俺は、義父と実父のを見つけて、事情を話し、超特急で謁見の形式を整えたのである。


 なんだか変な状況ではあるのだが、公方様の我がままに付き従ってくれる奉公衆がこれだけ居ることに、俺は何故か少し安心してしまうのである。

 そんなことを考えていたら、先ほどの3人が謁見の間(仮)に入って来た。


「細川与一郎。わしに目通めどおりをうて来たのはその者らか?」


「はっ。これなるは、この吉田村の近隣の領主にて磯谷新右衛門いそがいしんうえもん佐竹蓮養坊さたけれんようぼう渡辺出雲守わたなべいずものかみにございまする」


「くるしゅうないおもてをあげよ」


「はっ」×3


「この者らは、西岡衆にしおかしゅう土一揆つちいっきにも同調せず。公方様に対しあつき忠義を持つ者共ものどもらであります。是非この機会に公方様にお言葉をたまわりたく、参上さんじょうさせました次第しだいであります」


「そうか。土一揆などと申す狼藉ろうぜき加担かたんせなんだ、忠義厚き者共ものどもであるか。ふむ。このような場所じゃ遠慮は要らぬ。直答じきとうでよいぞ。何かわしに願い事でもあるのか?」


「公方様がおおせだ、申し上げよ」義父の細川晴広がげる。


「お、恐れながら申し上げます。我らはただ、ただ公方様へお目通りが叶えばと思っただけでありまして、ね、願いなどとはおこがましく――」


 なんとなしに真ん中に座らされた、渡辺出雲守がなんとか答えるが、完全に声が裏返ってしまっている。

 残りの二人は固まったまま動かないと化しており戦力にはならない。

 哀れな渡辺くん頑張れ。


 お目通りしたいと言うから無理いって急遽セッティングしてあげたけど、さすがに急過ぎたかな? ……すまぬ。


出雲守殿いずものかみどのそのように緊張などしておると、公方様も落ち着いて話すことが出来かねるぞ。もそっと落ち着くがよかろう」実父の三淵晴員が助け舟を出してあげる。


「も、もうしわけごじゃりませぬう」 


 あかん沈没した。

 限界っぽい。

 公方様に目配せを送ってみる……お、通じた。


 義藤さまが三人に優しい顔をして告げる。


「そのほうらの忠義の思いはしかと受け取ったぞ。今後は何かあれば、そこの細川与一郎に申すがよい。その者はわしの腹心じゃ。わしもそなたらを悪いようにはせぬ。その方たち大儀であった」


「は、はは〜」×3


「公方様は本日はお忍びである。公方様はその方らの忠義に心打たれ特別に目通りを許されたのだ。本日のことは他言無用と心せよ。ではさがるがよい」義父が内密を釘刺して退室を促した。


 3人は足をばたつかせながらうのていで急遽謁見の間になった吉田家の屋敷の大広間から逃げ出すように出ていった。

 兼見くんにはお土産用の酒を渡すように伝えておいたが大丈夫かな? ちゃんと帰れるかしら。




 即席の謁見を無事に終えて、義藤さまが俺に駆け寄ろうとするが、皆が義藤さまに声を掛けて阻まれてしまう。


「公方様、ご立派になられましたな」


「あの者らへの気遣い、それがしも感服いたしましたぞ」


「あれらは、それがしにとっても縁者となる者、公方様感謝いたしまする」


 義藤さまは褒められたことに戸惑っているようだが、まんざらでもないようだ。あれなら心配はいらないな。


「え、謁見ぐらいでそれほど褒めるな! あれくらいわしだってやれるわ」あ、少しキレてる。やっぱ助けにいくか。


「公方様。今日は急なご依頼ではありましたが、うまくお運び頂き感謝致します。あの者らへの心くばりも見事でございました」


「ま、まあアレぐらい普通じゃ」少し照れてる。


 ちなみにさっきの磯谷新右衛門、佐竹蓮養坊、渡辺出雲守のお三方には「公方様がわざわざお忍びで訪ねてくるほどの第一の腹心」で、「公方様にも無理を聞かせる程の実力者」と、俺のことを盛大に勘違いされ、大いに誤解されるのだが、俺が嘘を吹き込んだわけではないからよしとした。


 この3人がおさめる領地は、磯谷が近江の山中やまなか、佐竹が山城の愛宕あたご、渡辺が田中や一乗寺である。

 それは今幕府が在する慈照寺のまさにすぐかたわらなのである。

 それで俺が義藤さまや奉公衆らに無理を言って急遽、謁見をセッティングした意味はわかっていただけるだろう。


 親父コンビにもこのことは少しオブラートに包んで説明し、謁見のセッティングの協力を仰いだ。

 義父などは俺がそのようなことを言い出したことに少し驚いていた様子ではあったが。

 かの者らに恩を売り公方様に忠義の心を持たすことは、すなわち幕府のお膝元に公方様のたてとなる藩屏はんぺいで生み出すことになるのである。


 ◆


 急遽無理を聞いて貰った奉公衆の皆様に感謝の気持ちを伝えながら吉田家の屋敷から出る。

 外ではその奉公衆らが率いてきた郎党らが屋敷をそれとなく警護していた。

 みな平服ではあるが、その人数は40人を越えるぐらいであった。


 屋敷から皆と談笑しながら出てきた義藤様がその奉公衆と郎党らと合流した。

 節分祭のメインイベントである追儺ついな式を見学するなどして、護衛されながらではあるが義藤さまは奉公衆らと祭りを十分楽しめているようだ。

 時おり奉公衆と談笑もしている。


 俺は新二郎に声をかける。


「急にすまなかった新二郎」


「いや、俺は嬉しいだろ」


「嬉しい?」


「見るだろ。義藤さまが皆と楽しんでいるのだ。あまり人前に出るのがお好きなお方ではなかったのだが、ああして皆に囲まれ、楽しそうにしている義藤さまを見ると、何故か俺は嬉しくなるだろ」


「ああ、そうだな……」


 今日、義藤さまに随行ずいこうして来た奉公衆は吉田神社に縁のある者、言ってみれば俺の縁者たちである。

 義藤さまに日頃から近侍きんじする俺の話を聞いているので、義藤さまにある程度親しみを持っている人たちだ。


 それでも今日義藤さまと直に接する機会を持てたことで、義藤さまをより理解してくれるはずだ。

 少しずつでも良いのだ、ここから始めていこう。

 義藤さまにつどう者達を増やしていくのだ――


 祭りを一通り楽しんだ公方様が、「うどん処 南豊軒」と「蒲焼屋 吉田」をした。


 そして付き従ってくれている者たちに胸を張って声を掛ける。

 それは突然のことだった。


「皆のもの今日は急な謁見など大儀であった。ほかの者もご苦労である。これから皆であの店で食事をするぞ。本日は無礼講である皆も楽しんでくれ」


 おお、なんとあの義藤さまが心配りを習得した。

 レベルアップだ。

 なんて喜ばしいことだ。

 俺は心底喜んだ――が、後悔した。


「よし、今日は細川与一郎のじゃあ! ものどもー行くぞー♪」


!!」×50人くらい


「……は?」


 油断していてこの急展開についていけない俺。

 なんと義藤さまにお友達(家臣です)が出来てしまったのだ。

 急遽の謁見をこなして祭りを楽しむ間に、結構打ち解けたみたいである。

 そのお友達を引き連れて蕎麦屋に楽しそうに突撃する我があるじ


 そんな楽しそうな義藤さまを見て、俺は微笑ましくて喜んでしま――うわけねーだろがぁぁ! まてやゴラぁー!


 ――このあと、ぼうアメリカ合衆国大統領のごとくSPえすぴーに守られながら、鰻屋と蕎麦屋になだれ込んだは、完全に営業妨害の如く店を占拠し、もの凄い勢いで蕎麦と天ぷらと鰻重を喰らいつくし、お代わり禁止のルールなど完全に無視して店の酒を飲み尽くし、満足顔で嵐のように去っていったのだが、俺にはこの暴走をどうすることもできなかったのである。


 このが将軍様御一行とは一般人には何故か奇跡的にバレなかったのではあるが、それは吉田家のフォローの賜物であり、俺は謎の軍団に食い荒らされた廃墟で、怒り狂ったの脅迫により失った明日の分の食材の仕込みを手伝わされ、吉田家の厳命により、飲み尽くされた分の酒の仕込みに酒蔵で徹夜をするハメになる。


 そう俺は、タダより高いものはないことを思い知ったのである。

 ……だがこれは多分夢か幻か思い出してはいけない何かであろう――


 

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