第9話 少女と魔法
体内時計で昼頃だということがわかった少女は(体内時計というか、お腹が空いただけだ)昼食を摂ることにした。そう言えば、朝食を食べていなかったと思い出したのだ。だから本当に昼頃なのかはわからないけれど──昼にならなければ食べてはいけないなんてルールはないのだからそんなことは気にしない。
しかし彼女は荷物を何一つ持ってきていない。物を入れる鞄がない。
ふむ、と少女は歪んだ空間に手を入れた。引き抜くと、手には簡易椅子が握られていた。
魔法。
この世界には当然のごとく魔法が存在する。今の魔法は空間制御魔法のアイテムボックス。正確に言うと、隔離された四次元か五次元かはわからないがそういう歪んだ空間だ。
魔法は特別なものではないけれど、空間制御魔法を扱える者は数少なく、希少価値だ。
空間制御魔法が使える奴隷ならば、高い値段が付けられるし、欲しがるやつも多い。
少女は、食料をテーブルに取り出すと、椅子に座って食べ始めた。
雪で不安定だけれど──そんなのは気にしない。とにかく胃に食べ物を入れたい。
長いフランスパンにがぶりと齧り付き、咀嚼したあと、カップに注いだコーヒーを飲む。それを繰り返して、フランスパンがなくなると次は林檎まるまる一個に齧り付く。
そんな具合にひたすらがむしゃらに食べ続けた。
流石にもうお腹が一杯だなと思った頃には、夕方になっていたことを記述しておこう。
◇◇◇
夕方になったのに何故かのんびりと歩く少女。
いいや、下らない理由でそうしているわけではない。もうすぐで街に着くのだ。
あれ、まだ先じゃないか? とか誰かが思ったらしいけれど、少女に歩かせてばかりというは心が痛むので、早々と着かせることにした──誰がとは言わないけれど。
街が見えると、パァァっと顔に笑顔を咲かせ、しゅたたたっ!!! と勢いよく走り出した。
街まではもう下り坂だ。足に負担がかかるのをお構いなしに走る。
蹴り飛ばした雪と足跡を後に残し、街まで一直線。直線ではないけれど。道は一本道だ。
「おーららららぁー!!」
少女にあるまじき声で叫ぶ。止めてほしい。少女の設定が壊れる。
──と。
つるんっ!! と彼女は足を滑らせ、前方に倒れ混む──が、顔面衝突する直前に両手を地面につき、押し上げて、一回転。そう、前転をした。
そのまま、くるくる~と転がって行った。
「って、やばい。門にぶつかる」
何故前転しているのに見えるのかと言えば、精霊眼を発動しているからだ。
精霊眼。精霊の眼を借りて見る魔眼だ。
冬のため、雪の精霊の眼を借りて視界を得ていた。雪がこんなにあるということは、つまり雪の精霊が多いということ。精霊眼は、精霊一人だけという制約はない。従って、多数の眼を得ることができる。
従魔との視界をリンクさせる魔法があるが、それに近い。違いは、魔眼か魔法か、従魔か精霊かの違いだけ。
精霊眼は、選ばれた者にしか発現しない。精霊眼を持つ者は、精霊王ともリンク可能と言われているが──。
「精霊さんに頼めば、止めてくれるかな? いや、魔法で止めた方がいいよね。レビテーション」
彼女は、魔法を発動させた。レビテーション。飛行魔法である。
ひゅん! と飛び上がり、くるまった態勢を解く。
門番は目を見開いた!
少女も目を見開いた!
両名の反応は、それぞれ違った!
「すごい、景色」
空からの景色は、ものすごく、圧巻だった。悪寒だったとも言えた。寒いが、美しい景色の前では、無いものに等しかった。
雲の陰から太陽が徐々に覗く。
雪が太陽の光を反射して、キラキラと輝いた。
「カメラがあれば、撮れたのに」
何かを思い出すように、少女はそう呟いた。
Night which doesn't end─終わらない夜─ 羽九入 燈 @katuragawa
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