第8話 少女と月と太陽
──ああ、何だかなぁ。
少女はひたすら足を動かしていた。このままでは夜になる前に着く可能性は低い。いやまあ、夜にならなかったとしても元々空が闇に包まれているのだから変わりないのだけれど、やはり夜は物凄く冷えるので街に着いておきたい。
ひたすら黙々とのしのしと雪道を歩き続けるのも次第に飽きてくるのだけれど、んー、面白いものなんか持ってきてはいない。
前の世界に歩きスマホというものがあったけれど、本を読んだり他のことをしたりしながら歩いたら、歩き◯◯になってしまって危険だ。少女は歩きスマホをしたことがないのだけれどね。
それに夜までに着きたいというのに歩きながら何かをしていると歩くペースが落ちてしまう。
そういえば、街までどのくらいの距離があるのだろうか。
雪道を歩くのは疲れる上に時間がかかる。
──鈍ってるなぁ。
彼女は別段運動と言える運動をしていたわけではない。もとから身に余る力を保持していたため、鍛えるということなどやったことがなかった。
だから鈍っているからといって筋トレをするということはなく、鈍ってるなあと思うだけなのである。
森を抜けた。
やっとである。
森を抜けたところで街が目の前にあるということではないけれど、四分の一くらいは歩いただろう。
「月、すでにないなぁ」
この世界の月は北から昇り南へ沈む。今はもう南の奥向こうだろう。
ということは、
「す、すでに朝!?」
時計を見なければ朝とは気付かない。そりゃあ、空が真っ暗なのだから当たり前。手元──というか腕には時計の〝と〟の字もなく、月がなくなってどのくらい経つのかすらわからない状態だ。
暗い中、月明かり便りだったなので辺りは真っ暗──ということはなく、月が沈めば太陽が昇る。太陽が昇ったところで空は黒いままだが、二つの真ん丸さんたちは色がそれぞれ違うのでオレンジなのが太陽だ、黄色いのが月だとわかるのだ。太陽はなぜか月と同じではなく西から昇り東へ沈む。
前の世界の常識は、ここでは通用しない。
だから、太陽も月と同様に満ち欠けがある。
不思議だ、と彼女は思った。歩きたくないとも思った。けれど、ここに止まり続けるのは無理だし、引き返すのも無理。ならば、進まなければならないと言い聞かせ、一歩踏み出した。
「──もう、靴、濡れたぁ」
少し、涙が出た。
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