第1話 とある少女の話2
──確かこうやるんだったなあ。
少女はくいっと椅子の背もたれに寄りかかり、手に持ったものを広げる。
それは毛糸であるだマフラーだった。
特にやることもなく、暇だった彼女は、本当に久々の編み物にチャレンジしていた。
ぽかぽかと暖かな温もりを与えてくれるレンガ造りの暖炉とマフラーは相性が良かった。
まだまだ春とは言えない寒さが外を徘徊しているのだけれど、冬のはじめから一歩も外に出ていない少女は雪が降っていることを知らない。
いいや、雪が降っているだろうとは想像していて知っているが、実際には見てはいなかった。
まあなに、白く積もったふわふわを見たところで感動するなどという言葉が口からぽろりと出てくるわけでもないのだから、家の中にいたところでさして痛い問題はないだろう。
それより、と少女は編み物を再開する。
案外いやはやこれはどうして、はじめは難しかったが今では楽に楽しくできる。
昔にやっていたけれど、鈍ってしまったのがいけない。
手先の器用さが増大する。
筈だ。
──ふむ。
少女はふと顔を上げて、何を思ったのか椅子から立ち上がると、スタコラと歩き出し──外に出た。
当たり前に体をぶるぶると震わせると、やっぱりやめたとばかりに家の中に戻り勢いよく玄関のドアを閉めた。
今日出るのはやめよう。
彼女はそう決意した。
◇◇◇
さあて、何をしようか。
少女はキョロキョロを辺りを見渡した。
先程から何かないかなと探しているのだけれど、見つけりゃしない。
街にでも出ればやることがあるだろうけれど、家の中じゃやることもない。
ない、というか既にやってしまったことばかりなのだ。
千年の刻をこうしていれば当たり前と言える。
今年に入って覚醒した少女は、百年前のことを思い出す。
やることがなかったからスリープモードで待機していたんだったなあ、と思い出すと、あれ、今はどうなっているのだろうと外が気になった。
千年生きて百年眠る。
百年と言うのは人間にとってとても長い時間。
対して、少女の百年は短いものだった。
百年でどれだけ文化が発達しているのか。
気になりはする。
しかしやはり、寒さから逃れることを優先する。
それが彼女だった。
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