ラッパ吹き

 音痴のN君が大声で歌いながら歩いていると、男に声をかけられた。


「そこの君、ちょっとこっちに来てくれないか」


 男は顔中に汗をかいていて、とても慌てた様子だった。


「知らない人についていっちゃダメって、お母さんに言われてるから」


 良い子のN君はそう言って家に帰ろうとしたが、轟音がして立ち竦んだ。


 彼の頭上に、軍のヘリコプターがあった。

 

 運び込まれたN君は、男に連れ去った理由を尋ねた。


「物質にはそれ固有の振動がある。君が大声を出す時に発せられる音には、原子の固有振動が含まれていると分かった。君は黙示録のラッパ吹きだ。叫べば、原子は共振によって破壊され、世界は崩壊してしまう。だから、君は絶対に歌っちゃいけないよ」


 それを聞いて、N君は大声で泣いた。


 ほとんどの話を理解できなかったが、これから一生、歌を歌えないという事実に悲しくなったのだ。

 

 こうして、世界は滅んだ。

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