闇蛍

 私の家には、真っ暗な部屋がある。


 真昼でも懐中電灯で照らそうと、その部屋は暗い。寝るにはちょうどいいので、普段は寝室にしている。


 ある初夏の夜も、私はその部屋で眠ろうとしていた。しかし、やけに目蓋の外側が明るい気がする。薄目を開けると、部屋の中は光の粒に満ちていた。


 ああ、もうそんな時期か、と私は思う。


 私はそれを「闇蛍」と呼んでいる。

 川で蛍が飛び始めるのと同じ時期に、この部屋でも蛍が飛ぶ。妖怪の類なんだろう。触れることができない光は、多分、部屋の中に入ってくる光を食べて成長したものだ。だから、この部屋は常に暗いんだろう。


 私は起き上がって、部屋の窓を開けてやる。

 蛍は夜風に導かれて、外へ溢れ出す。


 窓からは、遠くに街の光が見える。空にも星の光が散っている。

 光のいくつかは、この部屋で生まれたものかもしれない。

 そんなことを思いながら、私は眠りについた。

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